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第9章:最低な男を探せ
11話
しおりを挟む真由美の言うように、せっかく生まれた命を殺してしまうというのは忍びないという感情はをわかったうえで、素華は中絶をしたほうがいいという立場を貫く。その二人の議論を黙って聞いていた裕也だったが、彼は食事の手も止め、歯を食いしばって何かを言いたそうに耐えている。
「ま、この話はやめにしましょう。飯がまずくなる」
裕也の様子に気づいた明日香は、そう言って強引に会話を終わらせる。素華も真由美も雰囲気が悪くなるのを理解して、無言で食事を続ける。
「今日は気分が悪いからもう帰る……」
その日、いつもは皿洗いや片づけなどを積極的に行う裕也が、珍しく片づけもせずに帰っていく。帰り際彼はメールも打ち『すまない、明日の聞き込みは俺無しでやれるか?』と明日香にメッセージを送るのであった。
「……今日の素華ちゃんの言葉はまずかったよなー……いや、私も無神経だったか。裕也には、辛いよね」
明日香はメッセージを見ながらどう謝罪したものか考える。
『なぁ、明日香。203号室に例の男がいたぞ』
そんな時、事前に特定したアパートの偵察に行かせていた振々が戻って朗報を伝えた。これで明日は探すのが楽になりそうだ。
「あ、ありがとう。じゃ、もう聞き込み調査は確定ね。生活パターンを見るに、今日は夜遅くまでオンラインゲームしてるだろうから……明日は昼まで寝ているはず」
男が相手とは言え、特に運動部に所属しているわけでもない雑魚だ。荒事になったとしても、裕也が必要なほどではあるまい。
「『大丈夫? ごめんね、無神経な話をして』と……」
それだけ裕也に送って、明日香は明日に備えた。
結局、翌日の聞き込み調査に裕也は来なかった。昨晩の食事の時の会話の時から裕也の様子がおかしいことには真由美も素華もさすがに気づいたし、明日香がそれを気遣ってくれたのも気づいたが、どの言葉が、どうして彼の機嫌に触ったかはわからず、胸の中にきついもやもやがたまっている。
早く謝っておきたいのだが、どう言葉を選べばわからず、今から気が重くて仕方ない。それでも、今は目の前のことに集中するしかないのだが。この日は梅雨の影響で雨ということもあり、聞き込み調査は気分が乗らない。皆、レインコートを羽織って最寄り駅へと集合し、日向を待った。
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