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第8章:部活にクレーム

25話

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 自転車で約15キロメートルの距離を、二人は肩を並べて走っていく。
「はー……やっちゃったなぁ。父親が逆らえない相手に父親の本性を晒す作戦……所長が話の分かる人でよかったけれど」
「これでお前の家の経済状況は悪くなるな」
「他人事だからって、気楽に言うなぁ……まぁ、俺が実行したんですけれど」
「金は大事だ。でも、自由とか尊厳だって大事だよ。あんたはこれからそれを手に入れる。次は母親を同じようにしてわからせる時だ」
 裕也に言われ、アキラは頷く。
「毒を食らわば皿まで、ですね。母親は、まぁ……帰って一番に謝罪が出たならともかく、もしそれが無理だったら、社交ダンス教室とパート先のスーパーで同じことをするまでかな。あの母親のことですから、そんなことされたらもうその場に入られないでしょうし……仕事でそれは困るから、社交ダンスの方から攻めることにします」
「そういえば、父親は車だろ? 先に帰っているはずだけれど、ちゃんと会社で何があったか伝えられるかなぁ?」
「どうでしょうね。あの父親ですから、期待は出来ませんね。でも、理不尽こと、道理の通らないことを押し通し続けようとしても、いつかはしっぺ返しを食らう。そういうことを共有しあうのも、夫婦ってものでしょう。そういう失敗を共有出来ないなら、夫婦である必要すらないってことで……はぁ、もっといい親元に生まれたかったよ」
「あんまり好きな言葉じゃないが、お前は親ガチャ失敗って言っても許されるかもな」
「ですね。改めて言われると、中々来るものがあります」
 裕也の言葉にアキラは苦笑して肯定する。
「でも、弱いキャラでも、レベルを上げればそれなりに使えることもあるでしょうし。何とかしますよ、親ガチャハズレでも、親のレベルを上げてやればいいんです。俺が無理やり上げてやります……無理なら、もうATMだと思って接します」
「その意気だぜ」
 アキラが半ば諦め気味に、しかしこのままにはしないという確かな決意とともに発した言葉に、こんどこそアキラは大丈夫だろうと裕也は確信した。

 そうして、アキラの後姿を見送っていると、古々が話しかけてくる。
『アキラ君の両親、どっちもろくでもない貧乏神に憑かれてたけれど……もしかしたら、今回の件で治るかもね』
「また取り憑かれるって話だったが、改善しそうなのか?」
『なんていうか、怒りを怒鳴り散らしてすっきりした時の感情というニッチな感情を好む貧乏神だったけれど……まー、あれだけ強烈な恥をかかされればね。さすがに反省するだろうし、反省すればもう怒鳴り散らしてストレス解消をすることもないでしょう』
「でもそれ、また別のろくでもない貧乏神に取り憑かれるだけのような気がする」
『鋭いわねー。多分その通りになるのよね』
 裕也の鋭い指摘に古々は苦笑する。霊を祓おうと、痛い目、ひどい目、恥ずかしい目に合わせようと、性根が腐った奴は結局、何かしらの貧乏神から逃れられないのであった。
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