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第8章:部活にクレーム

11話

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「おい、ババア。この神社から出ていけ」
 明日香は何かトラブルがあってはいけないからとスマートフォンでやり取りを撮影しており、それを継続したまま大声で命令している。
「何よ!? 今大事な話をしてるの!」
「知らねーよ。この神社は私の家でもあるんだ。家の権利者として、あんたに出てけって言ってるの!」
「知らないわよそんなの!」
 明日香が警告してもアケミは聞く耳を持たない。
「……あのねぇ、貴方。不退去罪って知ってます? 不法侵入と違って、招き入れはしたけれど、招いた後で不適切な行動をしたり、滞在が長すぎる相手に適用される犯罪なんだけれど……つまり、あなたも、このままじゃ犯罪者になるんです」
「五月蠅い小娘ねぇ! 犯罪者に出来るものならしてみなさいよ!」
「再三の警告にも応じない場合は、こちらも実力行使が正当防衛とみなされます。ですから、この神社から出て行ってください」
 自分自身も撮影の声に入っていることを意識し始めてからか、明日香は口調を丁寧に直す。それでも、アケミは聞く耳を持たないのだが。
「あんたみたいな小娘が何だって言うの!? 私は息子に大事な話があるんだから!」
「つまり、私の警告に応じないということでよろしいですね?」
「当たり前でしょ! なによもう、邪魔ばっかりして! そもそも、アキラ……あんたは」
 明日香の最後の警告を無視しアキラに向き直るアケミだが、そこに明日香が割り込む。明日香はアケミのことをしっかり見据えると、その人間性がにじみ出たような醜悪な面に思いっきり平手打ちを飛ばす。突然の痛みにアケミは頬を押さえながら尻もちをつく。叫び声さえ出なかった。
「舐めてんじゃねーぞババア。さっき私が言ったよなぁ? 不退去罪という罪があるって……そんで、警告に応じないなら実力行使も可能だって。てめぇ、自分だけは殴られないとでも思ってるのか? とっとと出てけ! じゃないともう一発、今度は蹴りを叩き込むぞ」
 裕也が止めるのを躊躇うほどに明日香が今までになく激怒しているのがわかる。このままじゃアケミが殺されてしまいそうなくらいの剣幕で、頭が悪いアケミにもこれ以上怒らせたらまずい相手であるということは理解できたようだ。彼女は声も上げずに鼻血を手で押さえ、足早に神社の階段を逃げ帰っていく。
 最後に捨て台詞の一つでもあるかと思いきや、彼女は反撃してくる相手にはひたすら弱いようだ。
「性根が終わってるわ。反撃しないやつには強くて、反撃してくる奴には何も出来ないんだ。息子のことも放っておいてるし……息子が大切みたいに言っているけれど、口ばっかりじゃん……あ」
 そんなアケミを見て素華は思ったままを呟くが、隣にそれを聞いているアキラがいるのを思い出して思わず言葉を止める。
「ごめん。なんか、あなたの母親のこと、悪く言い過ぎたかも……」
「全部事実です。いいんです」
 素華に謝られても、アキラにとっては全部知っていることだし、事実なので今更何の怒りもわかなかった。
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