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第8章:部活にクレーム

3話

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「なるほど、そのように伝えておこう。しかし、中々立派な志じゃないか。私は神も仏も信じてはいないが、君のような人ならば、辛いときに神が助けなくとも周りの人が助けてくれるんだろうな。素晴らしいよ」
 明日香の雄弁な返答に満足した有田はそう言って微笑み、スマートフォンに発言のメモを取った。
「お褒めに預かり光栄です」
「ところで、木村はいないのか? あいつ、三年生の癖に相撲部に入るとか馬鹿なことを言っていたが……成績がいいとはいえ受験生って自覚あるのかあいつ?」
 有田は呆れた様子でぼやく。
「彼女は、私達の人助けの精神に同調しただけで、実際のところ相撲そのものにあまり興味はないようでして、受験勉強もあるので、顔を出すのはたまにですね。活動も、気分転換に基礎練習に参加するくらいで……何か伝えたいことがあれば伝えておきますが……」
 明日香は苦笑しながら言う。自分が言える立場ではないが、百合根は常識はずれなところがあるから、人を心配させることが多いものだ。
「推薦入試じゃないんだから、勉強は怠るなって言っておいてくれ」
 有田は明日香にそう伝えると、そのまま学校へと帰っていく。
「あの、明日香先輩。有田先生って、木村先輩と仲がいいんですか?」
 帰っていく有田を見送りながら真由美は言う。
「あぁ、有田先生と百合根は……有田先生のクラスで、昔いじめがあったんだけれどね。その時、有田先生は……虐められた生徒に対して『虐めは教師の業務には含まれませんので、こちらでは対応いたしかねます』って冷たくあしらうような人だったのよ」
「えぇ……? それで、よく問題になりませんね!? 業務内容には含まれていないかもしれないけれど、そこは人として協力しましょうよ」
「でも、生徒に対して警察への頼り方とか被害届の出し方を説明したり、弁護士に頼んでみたらどうかとか提案したり……何より、教師の目があるところではボロを出さないやつらだったから、こっそりレコーダーを忍ばせておいて証拠集めを手伝ったりとか、なんだかんだで見捨てなかったの。有田先生、あれはあれでいい人よ。
 でも、そのいじめっ子の件は百合根も目をつけていてね。百合根がその子に証拠を売りつけ、有田先生が警察沙汰にして、そこからはもう大変よ。問題生徒と問題教師が話を大きくして、警察沙汰にしちゃったものだから学校としても対応しないわけにはいかず、穏便に済ませることもないまま、いじめっ子は全員退学。
 逮捕者が出ると学校の評判に関わるからって、有田先生は他の教師陣や校長から問題教師扱いされてるのよ。百合根的には、色々と引っ掻き回されて迷惑だったんだけれど……でも、いじめの解決に協力したこともあって、なんだかんだで戦友みたいになったらしい……わ」
 明日香は過去が過去の事情を話すと、真由美は聞き覚えがあることだったらしい。
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