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第8章:部活にクレーム

2話

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「あはは……もしかしてその問題視している保護者って、私達女性部員も半裸でやってるって主張してるんですか? そんなことあり得ないですよ」
 有田の愚痴に真由美は苦笑する。女同士でなら下着だけもいいかも、とは思ったが。男も平気で入ってこられる空間でそれはさすがにない。
「そうか。しかしながら、改めて女性が相撲というのは珍しいな。その、本宮明日香さんが相撲部に入ったあたりからか、女性部員が増えたのは? 部活が消滅の危機から、一気に部活として復活するまで盛り上げたそうじゃないか」
「えぇ、はい。そうですが」
 有田の質問に真由美が肯定する。
「……相撲部の噂は聞いている。なんでも、人助けを沢山しているみたいだが……聞いてみたかったんだ。何故、そんなことをしている? 相撲と人助けは関係ないだろう?」
「え? えーと……確かに、そうですねぇ……」
 返答に困った真由美は助けを求めるように裕也と明日香のことを見る。すると、明日香が微笑み答える。
「相撲は、元々は格闘技や武道ではなく神事です。神にささげる興業の一種です……で、あれば。神のため、神社のために力を振るうことは、相撲の一部だからです」
「ほう?」
「確かに、相撲はスポーツや格闘技、武道としての一面があります。体を鍛えて大会に出て戦績を残すというのも必要かもしれませんが……あまり大きな声では言えませんが、部員も少ない今の状況ではそれも難しいですし、部員もそこまで、全国を目指すとかそういう感じの熱意はありません」
「それは正直だな」
「で、あれば相撲の役割はあくまで体の健康の向上のためにとどめ、日常で触れる森羅万象に感謝し生きるという、心の健康と修行に重きを置き、神道の原点に返ることを主目的にしたいと考えています」
「ふむふむ」
「そして、感謝とは、祈りだけではなく行動によって移すことが肝要と考えています。それはつまりウチの神社はカミナリ様……タケミカヅチを祀っている神社ですが、お天道様ならぬ、カミナリ様に恥じないように生きるということです。それがつまるところ人助けであると私は考えています。
 人助けをし、神に恥じない生き方を背中で見せ、そして助けた人間にも同じようにカミナリ様への感謝を促す。ま、ぶっちゃけ言うと、布教してることになっちゃうから学校の活動として正しいのかどうか微妙ではあるんですが……」
 はは、と明日香は苦笑する。
「ですが、人助けを通じて心身を健康に導き、そして人助けの輪を広げていく。それが今の、新生相撲部の活動です。もちろん、人助けと言っても困りごとがいつもその辺に転がっているわけではないので、ゴミ拾いや清掃活動なんかが主な活動になっていますが……ですが、それらは、相撲をはじめとする武道以上に、心を高めていく行為だと思っています」
 ブラック企業で社畜をやっていた男、雪野恭平に出会ってから明日香は色々と考えたと言うが、早くもその成果が表れた。キラキラした目でこんなことを言われれば、思わず拍手を送ってしまいそうな立派な演説である。
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