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第5章:相撲部、復活

6話:一晩明けて

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 翌日、学校には真由美は来ず明日香や素華だけが来ていた。
「おはよう、明日香。真田さんはどうしてる?」
「妹と一緒に居る。他人の家で一人きりになるって、絶対に不安だろうから、今日はずっと一緒に居てあげるんだってさ。自分の家じゃないから不安そうだけれど、私の両親はどっちも優しいから問題ない……とは、言えないかな。
 真由美さんはもちろん、その妹さんも、大人は暴力を振るうものだと思っているから、慣れるまではどんなに聖人でも信用しないだろうね」
「そっか……でも、明日香や俺のことは信じてくれるだろうか……? 男はだめかなぁ? 父親のせいで男への信用度とか、ゼロだろうし」
「貴方のことは嫌っていない様子だったわ。でも、頭ではわかっていても、心の中では男が怖い可能性はあるから、話しかけるなら慎重にね」
「オーケー、注意するよ」
 そうして、真由美のことを聞き終えた裕也はその日の授業に臨み、放課後は様子見を兼ねて神社へと訪れた。いつもはすぐに部活に取り掛かるところだが、明日香の父方の祖父である義雄(よしお)にお伺いを立ててから家に入り、真由美達の様子を見に、かつて明日香の祖母が使っていた部屋へと赴いた。
 コンコンとノックして、中にいるだろう二人にお伺いを立てる。
「はい」
 真由美の声が聞こえた。
「こんにちは、真田さん。一晩経って少しは落ち着いたかい?」
 ドア越しに話しかけると、彼女は少しためらいながら、『はい』という声を出す。引き戸を開けると、彼女は妹に勉強を教えているようであった。
「この家の人達、優しい人たちだろ? 俺も、相撲部の練習に付き合ってもらっているときはものすごいボコボコにされるけれど、普段は絶対に暴力とか振るわない人だから……安心して大丈夫だからな。ほら、俺もなんかこう、家族みたいに自由に入れるくらいにオープンな家だし? 昔は、毎日飯をごちそうになってたんだよ、俺。この家、客人にはとことん優しい家だから、ゆっくりしてて大丈夫だからな」
「はい、本当にありがたい限りです。皆さん、気を使ってくれて……昨日は緊張して全然眠れなかったんですが、でも今日はぐっすり昼寝してしまいました。病院に行かされて診断書も取ってきたんですが、その病院代も払ってもらって……」
「本宮さん達、サービスいいな……それで、その後……親たちの動向は分かった?」
「朝に、母親と電話しました。ちゃんと離婚の方向で話が進んでいるみたいです。でも、自分のスマートフォン以外の電話からかけるの久しぶりで、まだスマートフォン持っていない妹に何度か電話番号確認しちゃいましたよ。いつの間にか私、母親の電話番号忘れてて」
「ははは……そういう時のためにちゃんと覚えておけよ」
「肝に銘じます」
 声に覇気はなかったが、とりあえず彼女の精神状態は落ち着いているようで、裕也は安心する。
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