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第4章:人の痛み

31話・終

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31

「それに、そんなに難しいことを考えなくても、お参りするだけで恩返しが出来る私が言ってるんだ。難しく考えずにお参りの一つや二つ、やっちゃいなさいよ」
「そうですね……こんな風に親切な人が助けてくれるなら、神様もいるのかもしれませんね……ちょっと、お参りしてきます。たまには、そういうのもいいですもんね」
「行ってらっしゃい……って言いたいところだけれど、作法を教えるから私も行くわ」
 そうして、真由美は明日香に見守られながら参拝を行う。まずは手水舎で手を清め、その後は拝殿に向かい、賽銭箱へとお金を投げ込み二礼二拍手の後に祈りを捧げ、一礼で参拝を終える。
「本当にこんなんでいいんですか? 私、まともな恩返しも出来なくて」
「恩返しなんて後で考えればいいから。私達は困ってる人に勝手にお節介して助けているだけ。勝手な人助けの見返り寄こせなんて言うほど私も強欲じゃないから。さ、お参りも終わったならもう戻りましょう。あのクソオヤジにぶたれたところとか、体中痛いだろうし、心も疲れちゃっていると思うの。休んだ方がいいと思うから」
 明日香に促されて真由美は頷き、部屋に戻る。真由美はシャワーを浴びて体をきれいにするとすぐに用意された布団の中にもぐりこんだ。父親に殴られたところが熱を帯びて痛かったが、目を閉じてしばらく待っていると疲れもたまっていたのだろう、眠気が訪れてやがて彼女は眠りについた。

「振々、真由美ちゃんはどうかしら?」
 明日香は一部始終を見守っていた神使、振々に話しかける。
『どうも何も、その子は不安でいっぱいだよ。今はそっとしてあげろ』
 感情が見える振々や古々には、人の感情はお見通しで、それだけに真由美やその妹が抱えている不安はありありと見て取れた。その不安から解放されるには平穏な時間が長く続かないことには難しいだろう。
『だが、不安なおかげなんだろうな。神様は信じていないとか言っておきながら、なんだかんだ言って真剣に祈ってた。人の不幸で喜ぶのは良くない事ではあるが、なかなかに良い信仰心が集まっている。よくやってくれたな、明日香』
「ふふ、恐れ入ります。でも、信仰心を集めるのももちろんだけれど、やっぱり人助けをすると気持ちいいね。人助けは大変だけれど、やってよかったよ」
 明日香は傷だらけの真由美やその妹を見てほほ笑む。これから先、あのような傷は増えることがないと思うと、自分がやったことが報われたような気がして嬉しくなった。
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