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第4章:人の痛み

24話:再突入

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「私、プールの授業で痣を見られたとき……先生たちが両親を呼んで父親に説教してくれたけれど……その時、母さんは父さんをかばって知らないふりをして……いや、まさか……」
 詳しいことは何も言わないものの、母親は子供を守ることよりも、父親と離れることよりも、とにかく自分を守るために娘を犠牲にした経験があるようだ。
「う……ん。そっか、玄関のドアを開けたらいきなり襲ってくる可能性もある……そしたら、殺す気で抵抗しなきゃ」
「本当に殺さないようにな」
 裕也の危険な予感という言葉をどれほど信じたのか、真由美はポケットに忍ばせたスタンガンを手に取り、確かめる。それだけでは不安なのか、明日香から預かった小型の折り畳み式ナイフの感触を確かめる。何度も何度も確かめる。
 裕也は、街灯に照らされた大通りを歩きながらスマートフォンに文字を打ち込み、古々に読ませる。
『父親はどうしてる?』
『母親を思う存分殴ったみたいで、母親の顔が腫れてる。「お前の躾がなっていないからだー!」みたいなことを言って殴ったんでしょうね。で、今は酒を飲んだくれてる……真由美さん、下手すると殺されちゃうわ。えっと、妹さんは自分の部屋でじっとしてる。勉強とかできる状況じゃないみたいで、二段ベッドの上でずっと縮こまってる……そんなんでどうにかなるわけでも無いのに、本能的なものなのかしらね』
 スマートフォンに表示された文字を見て、古々は答える。裕也は小さくうなずくだけで何も答えなかったが、歯を食いしばった彼の表情が怒りを表していた。
「真由美さん。俺はドアの外で鍵を持ったまま待ってるから、チェーンロックはかけないでおいてね。何かあったら駆けつけるから防犯ベルを鳴らしてくれ。父親の拘束を解いた瞬間に襲われるかもしれないし。体力は消耗しているはずだけれど、それでも男の力ってバカに出来ないからね」
「はい。ご心配、ありがとうございます、三橋先輩」
 真由美は力ない笑顔を返す。家の前に立った真由美は足がすくみ、躊躇いを見せるが、一度深呼吸をすると、勇気を出して家の中へ入っていった。
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