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第4章:人の痛み

18話:まだ安心できない

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 結局その日、真由美の母親、亜里沙は一晩中、夫が呼吸困難に陥っていないかを見張ることになった。裕也から『こちらからは決して話しかけることはせず、相手に時間の経過もわからせないために、周囲の音が聞こえないよう音楽をかけ続けろ』と言われたため、母親はそれに従った。裕也が選んだBGMは般若心経のループ再生。気が狂いそうな時間であった。
 その間、父親は嘔吐することもなく、風呂桶の中で動くこともできないままひたすら風呂桶の蛇口から落ちる水滴に睡眠を妨げられた。そんな父親のことを気にしつつ、真由美は不安な日中を学校で過ごし……翌日の放課後に、真由美は神社へやってきた。
 真由美は、昨日は興奮して眠れなかったらしく、授業中は居眠りしてしまいそうで苦労したそうである。駆け付けた彼女は裕也と明日香を見るなり深々と頭を下げて昨日の出来事を感謝する。
「昨日の事、私の背中を押してくれて本当にありがとうございます……。昨日は久しぶりに殴られずに済みました」
 やっぱり、こうしてお礼を言われるのは嬉しい。けれど、今は手放しに喜べるような状況じゃなくて、裕也はまだ難しい顔をする。
「父親のこと、朝に少しだけ様子を見ましたが、眠ることも出来なくてずっと苦しんでました……あれで、反省してもう暴力を振るわないようになりますかね?」
 裕也はどうともいえずに、ううんと唸る。
「反省……する奴はするかもしれないがな。次同じように暴力を振るおうとしても返り討ちに会うという可能性を考慮できる奴なら、もうお前に手を出さないかもしれないけれど……真田さんの父親、そういうタイプには見えないからなぁ。警察に捕まっても、『次はうまくやろう』とかって思うタイプだろ? 俺はそういう大人、何度も見てきたからな……」
 裕也は古々の方を見ながらぼやく。古々も裕也の言葉に頷いていた。
「だから、離婚するまでの間……別居勧めてるんだけれど、本当に大丈夫? 真由美さん」
 明日香は真由美の目を見る。真由美は黙ってうなずいた。
「本宮さんや三橋が説得してくれたのに、お母さん……離婚に消極的で……私がそばにいないと、父親に丸め込まれてしまいそうで……だから、別居とかよりも、母親に発破をかけるつもりで、家にいようと思います。」
「あの母親もたいがいだなぁ。さっさと警察でも弁護士でも入れて、父親を法的に滅多打ちにしてやりゃいいものを」
 裕也はあきれてため息をつく。
「やっぱり無理そうならうちに来てね? おばあちゃんが死んで、部屋が一つ空いてるから、貴方と妹が入る隙間はあるから……」
「大丈夫ですよ。きっと何とかやってみます。母親に離婚すると言わせるまで」
 真由美はそう言い切るが、彼女の笑顔はとても頼りない。
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