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第4章:人の痛み

15話:お仕置タイム

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「もうそのくらいにしておきなよ、裕也」
 母親に対する裕也の説教が大分ヒートアップしてきたころに、明日香がそれを制す。
「なんだ、明日香?」
「裕也君。もう過ぎたことをうだうだ言っても仕方ないし、そろそろ父親を反省させなきゃ。風呂桶の中で反省しているところを見せてくれるらしいから、協力してあげましょ?」
 明日香は縛られたまま動けない父親を足で小突いた。父親はうめき声を上げてこちらに威嚇している。
「だな。おい、あんた名前は?」
 きわめて不躾な態度で裕也は母親に尋ねる。
「亜里沙(ありさ)……です」
「じゃあ亜里沙さん。父親、酒飲んでいるみたいだし、嘔吐して気道が詰まったらまずいから、一晩中見張ってろ。ただ、死にそうなとき以外は助けたりしちゃだめだからね。じゃないと反省の意味がないから。じゃ、明日香、やろっか」
「オーケイ」
 裕也と明日香は肘を畳んだ体制のままガムテープでぐるぐる巻きにされて体を動かすことができない父親を抱えると、ダンベルを抱かせてそのまま風呂桶に放り込んだ。風呂桶にはまだ水が残っており、ダンベルをつけられたまま沈んだ父親は溺れてしまう。
 明日香たちは風呂桶から水を抜いていくが、その間父親は呼吸が出来ずに溺れてしまっている。流石に呼吸が続かなそうなので一度だけ水中から引き揚げてやったが、呼吸を一度だけさせたら再び水中に沈められて、結局溺れさせられる。
 父親は口もガムテープでふさがれているため抗議の声を上げることも出来ず、風呂桶から水が抜ければ今度は額からぽたぽたと水を流される。目にまでガムテープが厳重にまかれているため、周囲は真っ暗闇で状況はまるでわからない。地獄のような状況だろう。
 しばし暴れた彼であったが、しかし助けが来ることもないと理解すると、諦めて彼はおとなしくなる。
 母親に監視を頼むつもりであったが、彼女は現在子供と話している真っ最中のようである。本来ならば母親がこの暴君から子供を守ってあげるべきところを、何の間違いか部外者である裕也と明日香が強引に解決をしてしまったのだ。これからどうするべきか、どうふるまうべきか、親子でいくら話しても話したりないのであろう。
 裕也も、真由美の家の事情を半端にしか知らずに首を突っ込んで、母親や父親を罵倒してしまったのはまずかったかもしれないと反省はしたが、結局のところ罵倒した内容はおおむね間違いではなかったようだ。母親はひたすら平謝りだし、真由美は母親を『どうして助けてくれなかったの?』と、責めており、妹は今後のことが心配でならないようだ。
 真由美の口ぶりでは、真由美は妹が生まれた時にはもう虐待されていたそうだから、妹にとってこの家庭が平和な時期などなかったのだろう。そのため妹は、これで父親が変わってくれることなど信じられない様子だ。盗み聞きをしてもいいものかどうかと思ったが、どうやら母親は離婚を決意したようで、もう今度こそ絶対に子供に手は出させないつもりのようだ。
 その言葉がどれだけの覚悟かどうかはわからない。もしかすれば、この母親なんかよりもすでにスタンガンで父親に立ち向かうことが出来た真由美の方が、今はずっと頼りになるかもしれない。父親の方はどうだろうか? あそこまで躊躇いなしの暴力を振るえるあたり、この年でその有様では更生は期待できないだろう。
 これで子供に恐れをなして離婚に前向きになってくれればいいが、もしも子供に報復をしようなどと考えたりしたら? 養育費の支払いから逃げようとしたら? その時の対策についてもきちんと話しておかなければ、これから先、真由美が危ない目にあう可能性もある。
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