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第4章:人の痛み

7話

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「お願いします。何をすればいいかわからないんです。力を貸してくれるなら、お願いします……もう、妹をかばって怪我をするのも、妹が泣くのも嫌なんです」
「よし、分かった。それじゃ、まずはちゃんと食べて力をつけましょう。腹が減っては戦は出来ぬってね!」
 意を決した真由美に向って明日香が勇気づける。勢いで人助けをすることになってしまった裕也は、さてどうするべきだろうかと頭を悩ませ、古々がいる方へ目くばせとウインクをする。
『どうすればいいかって顔をしているわね? 相手を見てみないことには何とも言えないけれど、相手をむやみに傷つけない方がいいわ。だから、水攻めでもしてみたらどうかしら? 相手をぐるぐる巻きにして浴槽に沈めさせて、鼻だけでかろうじて呼吸が出来るくらいにしておくの』
 古々のアドバイスは裕也が求めていたことに対しての答えではあったが、その内容は過激なものだ。
「……マジで?」
 裕也は思わず声に出して聞き返してしまう。素華に奇妙な目でそれを見られてしまったが、真由美は虚空と話す裕也に気づく余裕もないようだ。
『確かに戸惑う気持ちもわかるけれど、そういう奴は一回くらい本気で怖い目にあってもらうしかないの。結局のところ、乱暴な奴っていうのは反撃をされないから攻撃をし続けるわけ。生きるためには、戦わないと。攻撃されないためには、反撃しないといけないの』
 古々に言われ、裕也は頷く。
「なぁ、俺、考えたんだけれどさ。……攻撃されないためには、反撃しないと。真田さんの父親に限ったことじゃないけれど、そういう手合いって相手が反撃をしないから、いくらでも暴力を振るってくるんだ。だったら、こちらからも一発ぶん殴ってやればいい。そうすれば、それ以上殴ってくることはなくなるはずだ」
「それは、今回の指針ですか?」
 古々の言葉を代弁した裕也に素華が尋ねる。
「まぁ、そんなところ。なぁ、明日香。ちょっと腹も膨れたし、頭も冴えてきたんじゃない? どうするか考えてみようぜ。俺はこう、神の啓示が下りてきたような感じで……その親父さんを何でもいいから怖い目に合わせるべきだと思うんだが……でも、傷が出来ると仕事に障るだろうからな。一応、家にお金は入れてるんだろ? 怪我をさせて仕事が出来なくなっても困るだろ」
「えぇ、だから、『ガキが一家の大黒柱に逆らうんじゃない』って、いつも私達でストレス解消を……」
「じゃあ、あれだ。仕事に支障が出ないように、水攻めとかどうだろうか?」
 裕也が古々からの提案をあたかも自分の意見のように言う。

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