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第4章:人の痛み

6話

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「私……いい子にしてても殴られるんです……」
 真由美に気を使ってか、誰も話すことが出来なくなっていた重い空気の中、耐えきれずに真由美が語りだす。
「みんなに助けを求めようとしても、父さんは外では愛想がいい人みたいで、殴られてるとか言っても信じてくれそうにない感じで……母さんも助けてくれないから、どうすればいいかわからないの……でも、妹を守らなきゃ……」
「辛かったでしょ? 誰にも助けを求められなかったんだろうし……」 
 真由美が語る言葉に、明日香は優しい言葉をかけた。
「はい……でも、あなた達は服の上からでも気づくんですね? すごく、嬉しかったです……見逃さないだけじゃなく、見て見ぬ振りもしない人がいるんだって」
 裕也も明日香も、これには『見えない存在が教えてくれた』とはいえず、お互い顔を見合わせて苦笑する。
「まぁ、怪我してる人がどういう歩き方するかとか、さんざん見てきたからね。相撲部だから嫌って程、ケガするし? ま、私は相撲よりも空手や柔道でそういうのを見てきた口だけれど」
「そうそう」
 適当にごまかしつつ、明日香と裕也は続ける。
「とにかく、怪我をさせられているのなら、悠長なことを言っちゃだめよ。それに妹もいるんでしょ? 妹を守らなきゃなんて言ってるけれど、今まで手を出されなかったとしたら、それはたぶん偶然によるもの。よっぽど妹が可愛いとかじゃなきゃ、いずれはあなたと同じになる。あなたより小さな子が暴力を受けるかもしれないだなんて絶対に許しちゃいけない!」
 明日香が熱くなっている。真由美は困り顔をして、目を泳がせる。
「あのさ、真由美さん。ちょっとこの二人、うさん臭く思えるかもしれないけれど、その……私も、ちょっと前まではバレーボール部だったんだよね。だけれど、そこで私いじめにあっててさ……それを助けてくれたのは、この二人と、もう一人三年生の先輩だったんだよ。
 いきなり人助けをしたいとか、裏があるかもしれないとか信じられないって思うかもしれないけれどさ。信じてみるといいと思うなぁ……私は、なんも出来ないけれどさ。この二人、すごいんだ。私以外にも人助けしてて、参拝客もちょっとだけ増えたみたいでさ。最終的にはあなたが判断するしかないことなのはわかっているけれどさ。とりあえずは信じてあげるといいんじゃないかな?」
 少しせかし気味な明日香をフォローするべく、素華が言う。素華は、二人の事情は知らないながらも、人助けをしたいという二人の言葉に嘘偽りはないと信じている。胡散臭く思えるかもしれないが、安全だということを必死に伝える。
 真由美は迷っていたが、素華まで説得に加わったおかげもあったのだろう、やがて意を決する。

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