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第4章:人の痛み
3話
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「私達は相撲部だけれど、ちゃんこ鍋ばっかり食べるわけじゃないのよ。今日のメニューは親子丼なんだけれど、よければ一緒にどうかしらね?」
部活がないならばささっと帰ればいいのにそうしないということは、きっと帰りたくない理由があるのだ。それを察した明日香は、食事に誘うことで家に帰る時間を遅らせようと考えた。
そして少女も考える。帰らないといけないが、帰りたくない。帰らないで駅前をうろうろしているのは危険だけれど、この神社ならば危険はないだろうし、腹ごしらえも出来る。所詮現実逃避でしかないことは分かっていても、家に帰るくらいなら……と、少女は明日香の考えに乗ることにした。
「はい……頂いていいですか?」
「もちろんよ。何か悩んでいるみたいだけれど、気軽に相談してね。ここは神様が見守る聖域、貴方にもタケミカヅチの加護がきっとあるから」
頷いた少女の答えを聞いて、明日香は微笑んで語り掛けた。
「そういえば、名前聞いていなかったね。私は本宮明日香」
「えっと、真田 真由美です」
「うん、真田真由美ね。覚えた」
「俺は三橋裕也」
「私は及川素華。よろしくね」
明日香に便乗するように二人も自己紹介を行う。
「真田……真由美です」
改めて自己紹介をした彼女の声は消え入りそうなもので、その顔もうつむいたまま。悩み、などという言葉ではどうやら足りないような深刻な悩みを抱えているようであった。
夜となり肌寒くなってきたため、一行は真由美を社務所へと連れて行き、風をしのげる場所で休ませる。明日香は料理を始め、素華と裕也はひたすら外で基礎トレを続行する。真由美は明日香が料理をする光景を浮かない顔で見ながら、しきりにスマートフォンの画面を確認したりなどして落ち着かない。
「貴方、帰らなくていいの?」
真由美の顔を見ることなく、鍋の様子を見ながら明日香が尋ねる。
「……帰りたくないです」
帰らなきゃいけないかどうかではないので、質問の答えにはなっていない。けれど、質問の答え以上のものが返ってきた。彼女は本音を漏らしてくれた。
「そっか。それじゃあとりあえず、夕食を食べてからいろいろ考えよっか」
明日香は真由美の言葉を重く受け止めることはせず、かといって軽く考えることもなく、優しく受け入れる。頷いた後何も言わずにスマートフォンを見つめている真由美を見て、とりあえずは時間稼ぎくらいは出来そうだと明日香は一安心だ。
時間さえかければ、心を開かずとも口だけは開いてくれるだろう。明日香のそんな目論見は結論から言えば成功し、炊飯器で炊き上げたごはんが少しずつ香り初めても、結局真由美はずっと神社にいた。本来ならば、料理当番ではない裕也と素華はまだ体を動かしていなきゃいけない時間なのだが、気になって鍛錬も切り上げてしまっている。
部活がないならばささっと帰ればいいのにそうしないということは、きっと帰りたくない理由があるのだ。それを察した明日香は、食事に誘うことで家に帰る時間を遅らせようと考えた。
そして少女も考える。帰らないといけないが、帰りたくない。帰らないで駅前をうろうろしているのは危険だけれど、この神社ならば危険はないだろうし、腹ごしらえも出来る。所詮現実逃避でしかないことは分かっていても、家に帰るくらいなら……と、少女は明日香の考えに乗ることにした。
「はい……頂いていいですか?」
「もちろんよ。何か悩んでいるみたいだけれど、気軽に相談してね。ここは神様が見守る聖域、貴方にもタケミカヅチの加護がきっとあるから」
頷いた少女の答えを聞いて、明日香は微笑んで語り掛けた。
「そういえば、名前聞いていなかったね。私は本宮明日香」
「えっと、真田 真由美です」
「うん、真田真由美ね。覚えた」
「俺は三橋裕也」
「私は及川素華。よろしくね」
明日香に便乗するように二人も自己紹介を行う。
「真田……真由美です」
改めて自己紹介をした彼女の声は消え入りそうなもので、その顔もうつむいたまま。悩み、などという言葉ではどうやら足りないような深刻な悩みを抱えているようであった。
夜となり肌寒くなってきたため、一行は真由美を社務所へと連れて行き、風をしのげる場所で休ませる。明日香は料理を始め、素華と裕也はひたすら外で基礎トレを続行する。真由美は明日香が料理をする光景を浮かない顔で見ながら、しきりにスマートフォンの画面を確認したりなどして落ち着かない。
「貴方、帰らなくていいの?」
真由美の顔を見ることなく、鍋の様子を見ながら明日香が尋ねる。
「……帰りたくないです」
帰らなきゃいけないかどうかではないので、質問の答えにはなっていない。けれど、質問の答え以上のものが返ってきた。彼女は本音を漏らしてくれた。
「そっか。それじゃあとりあえず、夕食を食べてからいろいろ考えよっか」
明日香は真由美の言葉を重く受け止めることはせず、かといって軽く考えることもなく、優しく受け入れる。頷いた後何も言わずにスマートフォンを見つめている真由美を見て、とりあえずは時間稼ぎくらいは出来そうだと明日香は一安心だ。
時間さえかければ、心を開かずとも口だけは開いてくれるだろう。明日香のそんな目論見は結論から言えば成功し、炊飯器で炊き上げたごはんが少しずつ香り初めても、結局真由美はずっと神社にいた。本来ならば、料理当番ではない裕也と素華はまだ体を動かしていなきゃいけない時間なのだが、気になって鍛錬も切り上げてしまっている。
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