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★閑話4(視点:姫川麻里)

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[視点:姫川麻里]


 私の名前は姫川麻里。女子高校生である。
 清楚で、誰からも好かれる存在、それが私だ。
 私は、自分自身を特別な存在だと自負している。
 だって、そうでしょう? 誰もが私に見惚れ、好きになってしまうのだから……。

 そんな私は、可哀想な子によく手を差し伸べる。だって、可哀想だと思わない?
 容姿もパッとしなければ、これといった特技もない。なんて憐れな存在なのだろう。

 可哀想な子に手を差し伸べる度に、周囲は「まるで聖女様みたいだ」と私を持て囃した。悪い気はしない。だって、聖女って誰からも愛される存在じゃない? まさに私みたいだと思わない?

 でも、私には……手を差し伸べる気になれなかった相手が一人いた。

 その人の名は、東雲悠理。地味でブスで、これといった特技もない。

 私とは正反対。

 なのに……私は彼女を怖いと思ってしまった。

 何もかも私の方が上。

 そんな私が唯一東雲悠理に劣っていたもの……それが勉強である。

 私もそこそこ頭がいい方だが、東雲悠理には敵わない。なんせ東雲悠理は、学年一位の成績をずっと維持しているのだから……。

 努力をする生徒は、先生に好まれる傾向がある。まさしく東雲悠理がそれだ。

 入学当初の東雲悠理は、中の上といった成績だった。

 しかし、東雲悠理は努力をした。

 他人が友達と遊んでいる時間を、東雲悠理はひたすら勉強に注ぎ込んだのだ。

 東雲悠理は、可哀想な子ではない。

 私は、東雲悠理をそうランク付けた。

 だから、東雲悠理が加賀美浩介の取り巻き達にいじめられていたようが、無視してきた。逆にもっとやれと思う自分がいた……。

 そんなある日、私たちは異世界に召喚された。
 突然のことに戸惑っていると、一人の少年が声をかけてきた。
 私は、その少年に目が釘付けになった。

 御伽の国から飛び出してきたような王子様みたいな彼に……。

 『彼が欲しい』

 私はそう思った。だから、隙をついて彼に話しかけた。

「あの、ルイ王子。私のこと、どう思いますか?」

 私がそう尋ねると、ルイ王子は少し困った顔をした。

「あなたのこと、ですか? とても可愛らしいと思いますよ」

 色んな人から「可愛い」と言われてきたが……心がこんなにも高揚したことがあっただろうか?

「本当、ですか? お世辞は入りませんよ」

「いえ、お世辞ではありません。とても魅力的な女性だと思いますよ」

 私はこのとき確信した。両思いだと。

 だから、私は気付かなかった。

 ルイ王子が私ではない女──東雲悠理をずっと目で追っていたことを……。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 ステータスを確認した結果、私は『聖職者』であることが判明した。少しだけがっかりした。だって、『聖女』ではなかったのだから……。

 でも、どうやら三年六組の生徒の中で聖属性の魔法を使えるのは私だけらしい。つまり私は特別ってことだ。

 訓練が本格的に始まろうとしていたとき、私達は大広間に呼び出された。
 これから爽やか美少年であるレオン様に名前が呼ばれた者は、他の生徒とは違って別内容の訓練が用意されているらしい。
 そして、お世話係とは別に、王族の一人が特別にバックアップについてくれるらしい。

 私は歓喜した。

 だって、私は『聖職者』よ? この中で唯一聖属性の魔法が使える存在。

 最初に、勇者である加賀美浩介が呼ばれ、次に私の名前が呼ばれた。

 ああ…これで彼を、ルイ王子を手に入れることができる。

 私はそう思いながら、ルイ王子の下へと行った。

「ルイ王子、そ、その……」

 緊張で声が震えてしまう。

「ん? ヒメカワ様の担当は私ではなく、ハルスですよ?」

「え……?」

 私は自分の耳を疑った。

 どうして? 私は特別な存在なのよ? 違う男に私を任せるの? 私の気持ちを知っていて、そんなことを言うの? 残酷だわ!!

 私の中でドス黒い彼女が湧き起こる。そんな私に一人の美少年が声をかけてくる。

「俺はハルス・アルフォード。マリは、俺が命に代えても守ってやるから安心しろ」

 私はすぐに目を奪われた。ルイ王子の雰囲気とはかなり違う…けれど目を見張るような容姿の持ち主だったからだ。

「え、あ……よろしくお願いします」

 私はなんとか言葉を紡ぎ出す。

 それから私はハルス王子に口説かれた。レオン様が止めに入るまで……。

 ハルス王子のおかげで、先ほどのドス黒い気持ちが身を潜めたと思った瞬間、私は奈落に突き落とされた。

 レオン様が東雲悠理の名を呼んだのだ。

 そして、唖然とする東雲悠理に近づくのは、私が愛して止まない存在であるルイ王子。

 どうして、その女なの!? だってその女は魔法使いじゃない! 特別な存在である私とは違うわ!

 許さない、私からルイ王子を奪うなんて。

 再び湧き上がるドス黒い感情。

「奪えばいいのよ」

 私の中で誰かがそう呟いた。

 ふふ……そうよ、奪えばいいんだわ。だって、彼女は特別な存在じゃないもの……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 女の嫉妬をイメージして書いてみたのですが、かなり難しいと思いました。
 個人的に姫川麻里は、悠理の恋のライバル?(ルイ王子は悠理にゾッコンで、姫川麻里には全く興味がありません)のような設定です。
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