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6話
しおりを挟む友達じゃなくていい。
恋人じゃなくていい。
ただ、ルイ王子の大切な人を救いたい。
悠理はそう強く思った。
自分でも可笑しいと思う。
出会って間もないルイ王子のために、ここまでする必要があるのだろうか、と。
それでも悠理は、ルイ王子の悲しむ顔を見たくなかった。ルイ王子には、いつも笑っていて欲しい。ただそれだけの理由だ……。
「わ、私に見せてください」
悠理が意を決してそう告げると、ルイ王子は首をゆっくりと横に振った。
「ユウリの気持ちはよく分かった。でも、これは無理だよ……ここまで傷が深いとなると、どんなに治療魔法をかけても完治することはできない」
ルイ王子はそう言うと、悔しそうに顔を歪めた。そして、自分の拳を床に勢いよく叩き始める。
「何が王族だ……友一人の命を救えずして、民の命を救えるのかッ!? くそッ!!」
「で、殿下!! おやめください!!」
周囲の制止を振り切って、ひたすら拳を床に振り落とし続けるルイ王子。
悠理の耳には確かに聞こえた。ルイ王子の心の叫びが……。
その声に悠理の心臓がズキリと痛んだ。悠理は目の前の男性を知らない。でも、ルイ王子にとっては大切な人。だから、助けてあげたかった。ルイ王子のために……。それが原因で自分の本当の職業がバレてしまっても……。
無力な自分を責めるルイ王子の手を、悠理はそっと握った。そして、ボロボロになったルイ王子の手に治癒魔法をかける。
「ッ……ぁ、ありがとう、ユウリ」
ルイ王子は少し落ち着きを取り戻し、大人しく悠理の治癒を受けている。
治療が完了した悠理は、ルイ王子の柔らかく、フワフワとした髪の毛をそっと撫でる。
「大丈夫、私があなたの苦しみをすべて取り除いてあげるから……」
悠理は、ルイ王子に優しく微笑んだ。それを見たルイ王子の目が微かに見開かれる。
「ゆ、悠理……君は一体何をしようと……」
不思議そうに首を傾げるルイ王子に、悠理は思わず笑みをこぼしてしまった。
「ふふ、見てて」
悠理は自信に満ち溢れた声でそう言うと、床に寝せられている男性の隣に座った。途端、血の鉄臭い匂いが鼻をついてくる。思わず鼻をつまみたくなる衝動に駆られながらも、男性の患部に手を当てる。生暖かい血が手に付着するのが分かった。
「我は“女神の加護”を受けし者。慈悲深い女神よ、我に力を貸したまえ」
脳内に浮かぶ言葉をそのまま口に出して唱えた途端、男性の患部を眩い光が包み込む。光は変形し、腕のような形を取り始め、光がおさまるとそこには先ほどまで無かった男性の腕があった。
「な、なんてことだ……」
「……私は夢でも見ているのだろうか?」
「あ、有り得ない」
傍観していた医者たちから驚きの声が上がる。それもそのはず、この世界で欠損した腕を再生させるような、常識外れの魔法は存在していないからだ。
腕まで再生してしまったことに悠理自身も驚きを隠せない。
ただ止血できればいいかな? と思って施したつもりだったのだが……どうやら、それ以上の効力を発揮してしまったようだ。
これが聖女としての資質なのか、それとも女神の加護の影響なのか、当事者である悠理自身にも分からない。ただ言えること、それは自分の力が異常だということだ。
普通だったら「チート来たぁぁぁああ!!」と喜ぶところなのだが、全く喜べる状況ではない。
その場にいた誰もが悠理に怪訝の目を向けてきた。
「ユウリ……一体君は何を?」
ルイ王子が悠理に問いかけてくる。
「た、ただ、この人を助けたかった、だけで……」
このとき悠理は、ルイ王子の顔を見るのが怖かった。もしルイ王子が彼らみたいな目で自分を見ていたら……。そう思うと、怖くて自然と視線が下に落ちてしまう。
「……ユウリ……どうして顔を上げてくれないの?」
いきなり悠理の顎にルイ王子の手を触れたかと思いきや、強引に顔を上げさせられる。すると、悠理の視界いっぱいにルイ王子の顔が飛び込んでくる。
「あ……」
ルイ王子は……笑っていた。とても嬉しそうに……。
「ユウリ、ありがとう。私の大切な人を救ってくれて」
ルイ王子にそう言われたとき、悠理はどこかホッとする。
同時に悠理の中の緊張の糸がプツンと切れた。そして、身体中から力が抜け、悠理はその場に崩れ落ちた。それをルイ王子が慌てて抱き止める。
「…本当に……ありがとう。流石私の選んだ人……」
気を失った悠理を腕におさめ、ルイ王子はそうポツリと呟いた。
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更新が大幅に遅れてしまい、すみません。
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