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第2話 事の発端
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事の発端は、『頬杖を突く少女』という絵画の紛失だった。
この絵は、片田舎のみかん山の一部が崩れた際に、土の中から発見されたもので、特に有名な画家の手とは思われなかった。だが、そのみかん農園の辺りは、有名な化学者、海塔 探治の出身地であり、彼は絵画なども嗜んだと言われていたことから、若き日の海塔の筆かもしれないとの憶測が飛び交った。
そんな情報が拡散された途端、発見者から件の絵画が消えたと言う届け出があったのだ。
科学者、海塔 探治……彼は今からたかだか二十五年ほど前の人物だ。
当時はエネルギー事情が逼迫しており、温暖化現象も加速していた。
そんな中、彼の発見が救世主となる。瑠砂と響酸ガスから熱源を作りだすことに成功したのだ。どちらも身近な素材であり、循環して使えるところが活気的な発見だった。
その上少量で大きなエネルギーを生み出すことがわかり、急速なエネルギー事情の変化をもたらしたのだった。
当然、世界貢献の高い化学技術を湛える『エクスカリバー賞』の受賞も決まっていた。
だが……授与式の直前、彼は実験の事故によってこの世を去ってしまう。
どんな実験だったのか、それは今も謎のままだ。だが、だからこそ、人々は彼を神格化して、尊敬していた。
そんな彼の絵だとしたら……しかもこの女性は彼とどんな関係があったのか。
人々の関心がスキャンダラスな方向に進んだ途端、肝心の絵画が消えてしまった。
どんなに噂好きな世論でも、関心は直ぐに移り変わっていく。
だが、世の中が忘れても忘れない人もいる。
治安維持省の遺失物捜査班班長、馬場 昭雄だ。どう見ても窓際族という風貌の茫洋としたおっさん。遺失物捜査なんて、陽の当らない職場にいて、毎日ちまちまと捜査に当たり、見つけても大して感謝してもらえない日々を過ごしている彼は、時々思い出したように、うちの事務所に頼みごとをしてくる。
うちの事務所としては、協力費も雀の涙なので、あってもなくても良い案件なのだけれど、玄子さんは嫌な顔一つせずに引き受ける。それは、時々、こんなでっかい山に繋がる時があるからだ。
紛失した絵画の行方については、片田舎のことなので情報が少ない。
だが、情報屋、迦楼羅の技術を持ってすれば、行先はすぐに確認することができる。周辺道路の監視カメラの情報をパズルのように組み合わせて、たった一台の車を割り出したのだ。
その行先は、物流界のドン。渡瀬 昇象の私宅だった。
一代でこの綺メ羅大国の物流会社を一手に担う大財閥となりおおせた、謎多き人物。
彼がどのような手で物流企業を買収していったのか、その裏で動いた莫大な金の資金源はどこにあるのか……不思議に思う人は少なくなかっただろう。
だが、触れてはいけないことのように、マスコミも騒いではいなかった。
まるで暗黙の情報統制でも敷かれたように。
だから、俺たちも迂闊に手を出せずにいたんだ。
「この人、前から胡散臭いと思っていたのよね」
「でも、紹介されている姿は若くてイケメンですよ」
「別に。私は鈴村君の方がカッコいいと思っているもの」
「はいはい。ありがとうございます」
そう言って俺は首を差し出す。
「違うわよ」
玄子さんはそう言ってツンとそっぽを向いた。
血を飲みたくてお世辞を言ったわけでは無いらしい。
「そうじゃなくて、若作りしててキモイって言ってるの!」
「もっとデカい証拠が欲しいな」
ギシギシと椅子を揺らしながら筋トレ中の來田。
「この映像だけでは難しいですかね……」
しょんぼりと耳を下に向けた迦楼羅。
そんな重苦しい空気を変えてくれたのは、迷いネコの捜索依頼だった。
この絵は、片田舎のみかん山の一部が崩れた際に、土の中から発見されたもので、特に有名な画家の手とは思われなかった。だが、そのみかん農園の辺りは、有名な化学者、海塔 探治の出身地であり、彼は絵画なども嗜んだと言われていたことから、若き日の海塔の筆かもしれないとの憶測が飛び交った。
そんな情報が拡散された途端、発見者から件の絵画が消えたと言う届け出があったのだ。
科学者、海塔 探治……彼は今からたかだか二十五年ほど前の人物だ。
当時はエネルギー事情が逼迫しており、温暖化現象も加速していた。
そんな中、彼の発見が救世主となる。瑠砂と響酸ガスから熱源を作りだすことに成功したのだ。どちらも身近な素材であり、循環して使えるところが活気的な発見だった。
その上少量で大きなエネルギーを生み出すことがわかり、急速なエネルギー事情の変化をもたらしたのだった。
当然、世界貢献の高い化学技術を湛える『エクスカリバー賞』の受賞も決まっていた。
だが……授与式の直前、彼は実験の事故によってこの世を去ってしまう。
どんな実験だったのか、それは今も謎のままだ。だが、だからこそ、人々は彼を神格化して、尊敬していた。
そんな彼の絵だとしたら……しかもこの女性は彼とどんな関係があったのか。
人々の関心がスキャンダラスな方向に進んだ途端、肝心の絵画が消えてしまった。
どんなに噂好きな世論でも、関心は直ぐに移り変わっていく。
だが、世の中が忘れても忘れない人もいる。
治安維持省の遺失物捜査班班長、馬場 昭雄だ。どう見ても窓際族という風貌の茫洋としたおっさん。遺失物捜査なんて、陽の当らない職場にいて、毎日ちまちまと捜査に当たり、見つけても大して感謝してもらえない日々を過ごしている彼は、時々思い出したように、うちの事務所に頼みごとをしてくる。
うちの事務所としては、協力費も雀の涙なので、あってもなくても良い案件なのだけれど、玄子さんは嫌な顔一つせずに引き受ける。それは、時々、こんなでっかい山に繋がる時があるからだ。
紛失した絵画の行方については、片田舎のことなので情報が少ない。
だが、情報屋、迦楼羅の技術を持ってすれば、行先はすぐに確認することができる。周辺道路の監視カメラの情報をパズルのように組み合わせて、たった一台の車を割り出したのだ。
その行先は、物流界のドン。渡瀬 昇象の私宅だった。
一代でこの綺メ羅大国の物流会社を一手に担う大財閥となりおおせた、謎多き人物。
彼がどのような手で物流企業を買収していったのか、その裏で動いた莫大な金の資金源はどこにあるのか……不思議に思う人は少なくなかっただろう。
だが、触れてはいけないことのように、マスコミも騒いではいなかった。
まるで暗黙の情報統制でも敷かれたように。
だから、俺たちも迂闊に手を出せずにいたんだ。
「この人、前から胡散臭いと思っていたのよね」
「でも、紹介されている姿は若くてイケメンですよ」
「別に。私は鈴村君の方がカッコいいと思っているもの」
「はいはい。ありがとうございます」
そう言って俺は首を差し出す。
「違うわよ」
玄子さんはそう言ってツンとそっぽを向いた。
血を飲みたくてお世辞を言ったわけでは無いらしい。
「そうじゃなくて、若作りしててキモイって言ってるの!」
「もっとデカい証拠が欲しいな」
ギシギシと椅子を揺らしながら筋トレ中の來田。
「この映像だけでは難しいですかね……」
しょんぼりと耳を下に向けた迦楼羅。
そんな重苦しい空気を変えてくれたのは、迷いネコの捜索依頼だった。
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