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Case 9 ピンクの石 シンフリアン
第20話 魔法石は国境を超える
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次の日、リリアとレギウスは、 治安警備隊の本部を訪れた。
ピンクのシンフリアンの指輪を持って。
昨日レギウスが事情を伝えていたお陰で、直ぐにエールリック総隊長の元へと通された。
頬に一筋の傷が走る迫力ある風貌。全てを見通されそうな厳しい眼差しに、自然と背筋が伸びる。
余分なものが何一つ置かれていない執務室は、広く見えた。
真ん中に置かれたテーブルを囲んで、リリアとレギウスはエールリック総隊長と、側近のカーゼル大佐に昨夜の鑑定結果を伝えた。そして、このシンフリアンは悪意によって分割されたために魔力を強めていること。早急にその欠片を国内から集めて一つにする必要があることを告げた。
「仔細、承りました。と言っても、四十四の欠片を集めると言うのは至難の業ですね」
カーゼル大佐の言葉に、レギウスが付け加える。
「実はこのシンフリアンに協力してもらっているんです。欠片の持ち主に、テラ教への勧誘の代わりにリリアの魔宝石店を目指すように促してもらっています」
「それはつまり、店の近辺で待っていれば良いと言うことですか」
「まあ、既にジラート神崇拝の暗示が掛かっているので、そう簡単にはいかないかも知れません。最近テラ教について話し始めた人達へのアプローチと合わせて対策していただければ助かります」
「なるほど。了解しました。では、早速隊員たちに向かわせましょう。なんとしても鎮魂祭までに集めきらなければ」
「それから、そのシンフリアンを売っていた露店商のことも分ったら教えてください。危険な人物かもしれませんので」
頷いたカーゼル大佐は、指示を出すために席を立った。
その時、リリアが小さな声で願い出る。
「あの……実は集めたシンフリアンを買い取りたいんです。でも、その、お金が足りなくて」
頷き聞いていたエールリック総隊長の視線が、入口とは別の扉に動いた。
リリアとレギウスに緊張が走る。
カチャリと開いた扉の向こうから、聞き覚えのある声と拍手。
「こんなに直ぐにお会いできるとは思っていませんでしたよ。リリア嬢」
そう言いながらにこやかに現れたのは、ユリウス皇太子とお付きの者だった。
「ユリウス様!」
リリアは驚いて席を立ち、レギウスの眉間に皺が寄る。
「流石リリア嬢。またしてもお手柄のようですね。その話、もう少し詳しく聞かせてもらいましょうか」
エールリック総隊長が自ら案内する形で、ユリウスはリリアの真正面に陣取った。
更に詳細な説明を聞いて、少し考えるように沈黙する。
「ウォルシェ国の国教が関わっているけれど……今回のケースでは布教活動による侵害行為や、我が国民の混乱を招く意図などの明確な証拠にはならないでしょうね。ウォルシェ国へ事の次第を報告して、抗議するには至らない案件か」
「そんな、国同士の問題に発展しかねないことだったのですね。うわ、大変」
驚いて目を見張るリリアを見て、ユリウス皇太子は愛おしそうな顔になる。
「ええ、一歩間違えれば危険でした。でもあなたのお陰で未遂に終わりそうで良かった。相手も非常にうまい方法で仕掛けてきています。鎮魂祭の魔法石需要を見込んで売り込んできただけと言われれば何も言い返せない。そんな危険な魔法石だとは知らなかったとしらを切られたら、証拠はありませんからね。でも、これを放置していたら、確実に混乱を招いたことでしょう。ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください。お役に立てたなら良かったです」
慌てるリリアを真っ直ぐに見つめると、今度は嬉しそうにテーブルに身を乗り出してきた。
「ええ、もの凄く。やっぱりあなたは素晴らしい魔法石鑑定士ですよ。こう見えて、私は 治安警備隊の最高責任者なんですよ。鎮魂祭の警備は大変ですからね。ちょうど今日は隊員たちへの激励に来ていたところなのですが、こんな時まであなたと出会ってしまう。やっぱり運命を感じずにはいられませんよ」
「ゲホン」「ゲフン」
咳ばらいをしたのはレギウスだけでは無かった。エールリック総隊長が、ユリウス皇太子に圧を送っている。
「おっと、剣の師匠の前でとんだ惚気話をしてしまいました。エールリック師匠は厳しいですからね。甘い話の続きはいずれまた」
笑いながらレギウスをチラリ。
またもや拳を握っているレギウス。リリアが慌てて手を添える。
「今回のことは国外事情も絡んだ話。何かあった時のために魔法石店へ護衛の者を送りましょう」
「これ以上つけるってことか?」
「これ以上って?」
リリアは驚いてレギウスの顔を見る。
「流石、リリアさんの相棒。気づいていたのですね」
「俺はアイボウって名前じゃない」
「失敬。でも、私は男性の名前を覚えるのが得意じゃないんですよ。どうしても綺麗な女性の名前しか受け付けない頭になっているようで。だから悪気は無いのです」
悪気だらけの口調でレギウスに言う。
「ねえ、これ以上ってどういうこと? まだ護衛の人が店の周りに居たってこと?」
「ああ、たくさんな」
「気づいていなかったわ。そんな……ユリウス様、私は大丈夫です。しがない魔法石鑑定士なんて狙う人いませんよ」
「まあ、私がいつでも行かれるようにしておくだけですから。ね」
そう言ってにこやかに笑ったユリウス。さぞかしレギウスが噛みつくだろうと思いきや、「ケッ!」と小さく一声あげただけであっさりと引き下がったことに、リリアは驚いた。
レギウスも護衛が必要って思っているのね。それくらい、今回のことは危ない話だったってことなのかしら……
魔法石自身は国を選ばない。国境を越えて、人々の思惑のままに運ばれて、時に悪用される。一生懸命浄化する魔法石鑑定士がいる一方で、利用しようとする鑑定士もいることに、リリアはちょっとショックを受けていた。
せめて、アウラさんだけは……願いを叶えてあげたい。
ピンクのシンフリアンの指輪を持って。
昨日レギウスが事情を伝えていたお陰で、直ぐにエールリック総隊長の元へと通された。
頬に一筋の傷が走る迫力ある風貌。全てを見通されそうな厳しい眼差しに、自然と背筋が伸びる。
余分なものが何一つ置かれていない執務室は、広く見えた。
真ん中に置かれたテーブルを囲んで、リリアとレギウスはエールリック総隊長と、側近のカーゼル大佐に昨夜の鑑定結果を伝えた。そして、このシンフリアンは悪意によって分割されたために魔力を強めていること。早急にその欠片を国内から集めて一つにする必要があることを告げた。
「仔細、承りました。と言っても、四十四の欠片を集めると言うのは至難の業ですね」
カーゼル大佐の言葉に、レギウスが付け加える。
「実はこのシンフリアンに協力してもらっているんです。欠片の持ち主に、テラ教への勧誘の代わりにリリアの魔宝石店を目指すように促してもらっています」
「それはつまり、店の近辺で待っていれば良いと言うことですか」
「まあ、既にジラート神崇拝の暗示が掛かっているので、そう簡単にはいかないかも知れません。最近テラ教について話し始めた人達へのアプローチと合わせて対策していただければ助かります」
「なるほど。了解しました。では、早速隊員たちに向かわせましょう。なんとしても鎮魂祭までに集めきらなければ」
「それから、そのシンフリアンを売っていた露店商のことも分ったら教えてください。危険な人物かもしれませんので」
頷いたカーゼル大佐は、指示を出すために席を立った。
その時、リリアが小さな声で願い出る。
「あの……実は集めたシンフリアンを買い取りたいんです。でも、その、お金が足りなくて」
頷き聞いていたエールリック総隊長の視線が、入口とは別の扉に動いた。
リリアとレギウスに緊張が走る。
カチャリと開いた扉の向こうから、聞き覚えのある声と拍手。
「こんなに直ぐにお会いできるとは思っていませんでしたよ。リリア嬢」
そう言いながらにこやかに現れたのは、ユリウス皇太子とお付きの者だった。
「ユリウス様!」
リリアは驚いて席を立ち、レギウスの眉間に皺が寄る。
「流石リリア嬢。またしてもお手柄のようですね。その話、もう少し詳しく聞かせてもらいましょうか」
エールリック総隊長が自ら案内する形で、ユリウスはリリアの真正面に陣取った。
更に詳細な説明を聞いて、少し考えるように沈黙する。
「ウォルシェ国の国教が関わっているけれど……今回のケースでは布教活動による侵害行為や、我が国民の混乱を招く意図などの明確な証拠にはならないでしょうね。ウォルシェ国へ事の次第を報告して、抗議するには至らない案件か」
「そんな、国同士の問題に発展しかねないことだったのですね。うわ、大変」
驚いて目を見張るリリアを見て、ユリウス皇太子は愛おしそうな顔になる。
「ええ、一歩間違えれば危険でした。でもあなたのお陰で未遂に終わりそうで良かった。相手も非常にうまい方法で仕掛けてきています。鎮魂祭の魔法石需要を見込んで売り込んできただけと言われれば何も言い返せない。そんな危険な魔法石だとは知らなかったとしらを切られたら、証拠はありませんからね。でも、これを放置していたら、確実に混乱を招いたことでしょう。ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください。お役に立てたなら良かったです」
慌てるリリアを真っ直ぐに見つめると、今度は嬉しそうにテーブルに身を乗り出してきた。
「ええ、もの凄く。やっぱりあなたは素晴らしい魔法石鑑定士ですよ。こう見えて、私は 治安警備隊の最高責任者なんですよ。鎮魂祭の警備は大変ですからね。ちょうど今日は隊員たちへの激励に来ていたところなのですが、こんな時まであなたと出会ってしまう。やっぱり運命を感じずにはいられませんよ」
「ゲホン」「ゲフン」
咳ばらいをしたのはレギウスだけでは無かった。エールリック総隊長が、ユリウス皇太子に圧を送っている。
「おっと、剣の師匠の前でとんだ惚気話をしてしまいました。エールリック師匠は厳しいですからね。甘い話の続きはいずれまた」
笑いながらレギウスをチラリ。
またもや拳を握っているレギウス。リリアが慌てて手を添える。
「今回のことは国外事情も絡んだ話。何かあった時のために魔法石店へ護衛の者を送りましょう」
「これ以上つけるってことか?」
「これ以上って?」
リリアは驚いてレギウスの顔を見る。
「流石、リリアさんの相棒。気づいていたのですね」
「俺はアイボウって名前じゃない」
「失敬。でも、私は男性の名前を覚えるのが得意じゃないんですよ。どうしても綺麗な女性の名前しか受け付けない頭になっているようで。だから悪気は無いのです」
悪気だらけの口調でレギウスに言う。
「ねえ、これ以上ってどういうこと? まだ護衛の人が店の周りに居たってこと?」
「ああ、たくさんな」
「気づいていなかったわ。そんな……ユリウス様、私は大丈夫です。しがない魔法石鑑定士なんて狙う人いませんよ」
「まあ、私がいつでも行かれるようにしておくだけですから。ね」
そう言ってにこやかに笑ったユリウス。さぞかしレギウスが噛みつくだろうと思いきや、「ケッ!」と小さく一声あげただけであっさりと引き下がったことに、リリアは驚いた。
レギウスも護衛が必要って思っているのね。それくらい、今回のことは危ない話だったってことなのかしら……
魔法石自身は国を選ばない。国境を越えて、人々の思惑のままに運ばれて、時に悪用される。一生懸命浄化する魔法石鑑定士がいる一方で、利用しようとする鑑定士もいることに、リリアはちょっとショックを受けていた。
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