3 / 12
第3話 肩凝っちゃったの
しおりを挟む
ぽかぽか日和の昼休み。
窓際の一番後ろ。俺の席は天国だ。
お腹もいっぱいになったし、心置きなくシエスタといきますか―――
のはずが、しかめっ面の悪魔が現れた。
「じゃんけんぽい」
今日は前置きも無しにいきなりかよ。
俺はチョキを出した。
いや、もう、結果は推して知るべし。
「本日はどのような」
「肩が凝っちゃったの」
俺のセリフに被せる勢いでひなこが言う。
「……ほう」
「バッキバキで動かし辛いの」
「ババアだな」
「違うから。昨日の夜、根詰めて油絵頑張ったからだもん」
「そうか、頑張ったんだな」
「ん。だから、もんで」
「ぶっふぉ」
こいつ、何を言い出すんだ!?
警戒心なさ過ぎだろ。
俺は何とか別の指令に変更させようと試みる。
「いつも一緒にいる……誰だっけ」
「遥香ちゃんだよ。相変わらず人の名前覚えないよね」
「そう、そいつにやってもらえばいいだろ」
「もうやってくれたの。でも指細いし優しいから、効かなかったの」
「……」
「まひろなら力あると思って。ね、一気にぐぐっとお願いします」
俺、一応警告したからな。
「ここ、この辺りね」
隣の椅子を引っ張り出して座ると、ひなこはさっさと俺に背を向ける。
ポニーテールの髪を前へ避けて、ぽんぽんと痛いところを指さした。
そっと指を添えてみれば、思ったより細くて壊れそうで怖くなる。
「早くぅ」
ったく。こいつ、何にも考えてねぇな。
俺のこの紳士な気遣いをありがたく思え。
少ーしずつ、力を込めていく。
「おお、いい感じ。効くわぁー」
「ご主人様、力加減はこんなもんでいかがでしょうか」
「いい、いい。やっぱり力が違うね。そう、そこそこ」
全く……完全にお婆さんのせりふだな。
「次はもう少し下、お願い」
「へいへい」
少しずつ、指の位置を変えていく。
「ふう~、イタ気持ちいい~」
「……」
「あっ……大丈夫。痛いけど続けて」
「……」
相変わらず人遣いの荒い奴だ。
最初の緊張がだんだん緩んでくる。
指先も疲れてきたし。
「あっ……ンァ……」
「!?」
えっ……
なんか、ひなこらしからぬ声が聞こえたぞ。
可愛らしくて、甘ったるくて。
やべぇ!
俺は無実だ。冤罪だっ。
鬼の形相を想像しながら、ひなこを見下ろす。
あれ?
なんか、大人しいぞ。
顔、赤いみたいな……
「……ん、もう、いい。ありがとう」
さっきまでの勢いはどこへやら。
すくっと立ち上がると、真っ赤な顔を隠すように下を向いたまま行ってしまった。
窓際の一番後ろ。俺の席は天国だ。
お腹もいっぱいになったし、心置きなくシエスタといきますか―――
のはずが、しかめっ面の悪魔が現れた。
「じゃんけんぽい」
今日は前置きも無しにいきなりかよ。
俺はチョキを出した。
いや、もう、結果は推して知るべし。
「本日はどのような」
「肩が凝っちゃったの」
俺のセリフに被せる勢いでひなこが言う。
「……ほう」
「バッキバキで動かし辛いの」
「ババアだな」
「違うから。昨日の夜、根詰めて油絵頑張ったからだもん」
「そうか、頑張ったんだな」
「ん。だから、もんで」
「ぶっふぉ」
こいつ、何を言い出すんだ!?
警戒心なさ過ぎだろ。
俺は何とか別の指令に変更させようと試みる。
「いつも一緒にいる……誰だっけ」
「遥香ちゃんだよ。相変わらず人の名前覚えないよね」
「そう、そいつにやってもらえばいいだろ」
「もうやってくれたの。でも指細いし優しいから、効かなかったの」
「……」
「まひろなら力あると思って。ね、一気にぐぐっとお願いします」
俺、一応警告したからな。
「ここ、この辺りね」
隣の椅子を引っ張り出して座ると、ひなこはさっさと俺に背を向ける。
ポニーテールの髪を前へ避けて、ぽんぽんと痛いところを指さした。
そっと指を添えてみれば、思ったより細くて壊れそうで怖くなる。
「早くぅ」
ったく。こいつ、何にも考えてねぇな。
俺のこの紳士な気遣いをありがたく思え。
少ーしずつ、力を込めていく。
「おお、いい感じ。効くわぁー」
「ご主人様、力加減はこんなもんでいかがでしょうか」
「いい、いい。やっぱり力が違うね。そう、そこそこ」
全く……完全にお婆さんのせりふだな。
「次はもう少し下、お願い」
「へいへい」
少しずつ、指の位置を変えていく。
「ふう~、イタ気持ちいい~」
「……」
「あっ……大丈夫。痛いけど続けて」
「……」
相変わらず人遣いの荒い奴だ。
最初の緊張がだんだん緩んでくる。
指先も疲れてきたし。
「あっ……ンァ……」
「!?」
えっ……
なんか、ひなこらしからぬ声が聞こえたぞ。
可愛らしくて、甘ったるくて。
やべぇ!
俺は無実だ。冤罪だっ。
鬼の形相を想像しながら、ひなこを見下ろす。
あれ?
なんか、大人しいぞ。
顔、赤いみたいな……
「……ん、もう、いい。ありがとう」
さっきまでの勢いはどこへやら。
すくっと立ち上がると、真っ赤な顔を隠すように下を向いたまま行ってしまった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
前世
かつエッグ
青春
大学生の俺は、コンビニでバイトをしている。後輩のリナが、俺の後からバイトを始めた。俺とリナは、ただの友だちで、シフトが重なればどうということのない会話を交わす。ある日、リナが、「センパイ、前世療法って知ってますか?」と聞いてきた。
「小説家になろう」「カクヨム」様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる