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解毒魔法をかけてやる

この人何者?

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「耐えて耐えて耐えきった毒が、全身に回り切ってしまってるぜ。こりゃ、ちょっと時間かかるけれど、解毒魔法かけてやっから、ちょっと待ってな」

 そう言ってさっさとカウンターへ戻って行った男性てんちょう
 
 私は呆気にとられてその背中を目で追った。

 解毒魔法ですって? この男性ひと何者?

 魔法使い? それとも中二病の人?

 でも、その時気づいた。彼が歩くとき、ほんの少しだけれど右足を引きずっていることを。
 さっきの右腕の傷といい、きっと何か大きな事故にあったことがあるんだと思った。死にそうな思いをしたのかもしれない。

 そして、何か能力に目覚めたのかしら? 異能みたいなものに? まさかね。

 流れ落ちた涙は乾ききっていないけれど、抑えきれずに溢れ出てしまった激情は少し落ち着きを取り戻していた。ちょっとだけ好奇心が沸き上がる。
 カウンター内でせわしく動き回っている彼の動きを、目で追うだけの余裕が戻ってきた。
 一体何を作っているのかわからないが、冷蔵庫やオーブンを開け閉めして食材を盛り付けているのが分かった。

 お腹なんか空いていないわ。結婚式の食事、あんまり喉を通らなかったけれど。

 視線を窓の外に向ければ、すっかり暗くなってしまっていて、電灯のぼうっとした灯りがスポットライトのように道を照らすばかり。駅前とは違って、この辺りはマンションが多いから、余分なネオンが光っていない。
 
 こんなところにお店を構えていて、良く潰れないわね。
 
 ふと沸き上がった疑問が心の中を通り過ぎた。

 ま、別に私には関係ないことだけれど。

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