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Episode2 プロデュース第一弾

寄り添うための一歩 (一華side)③

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「実は俺、今まで誰かとお付き合いしたこと無いんです。友人は男女問わずいるんですけれど、特別な関係になったことなくて。だから、カッコイイ口説き文句も、男女の機微もわからない。それに、嘘つけないし」
「うふふ。嘘つけないんですか?」

「つけないですね。だから言っちゃいます。三十二歳にもなって誰とも付き合ったこと無いって言ったら引かれるから、絶対言うなって五十嵐さんに厳命されていたんですけど」
「五十嵐さん?」
「ああ、俺の先輩です。仕事もプライベートもお世話になっています。今度紹介したいです」

 ああ、だから。と一華は納得する。
 あきらかにデート慣れしていない彼の後ろに見え隠れするブレインの陰は、とっくに気づいていた。それが、この五十嵐さんなのか。

「そうだったんですか。でも、良い先輩に恵まれて良かったですね」
「ええ。マッチングアプリのことも、五十嵐さんが教えてくれました。その時色々教えてくれて。『三十二年彼女無し』って肩書は、相手の女性に不安やプレッシャーを与えるからわざわざ言わない方がいいって。でも俺、隠し事したくないんです。事実だし」
 屈託のない笑顔でにっこり。

 なんて誠実なの……いや、馬鹿正直と言うべきか。
 ブレイン五十嵐が危惧していたのは、彼のこんなところなのだろうなと思う。
 
 私だから良かったものの……

 そしてついつい冷静に分析してしまう。
  
 素敵な恋を男性に主導してもらいたい夢見る女子だったら、こんな明け透けな情報はいらないわね。
 刺激的な恋を求めている女性だったら、邪鬼の無さは興ざめを生むし。
 安定堅実な恋に安らぎを感じる女性なら……ぎりぎりいけるけど、とってもゆっくりな恋になりそう。
 
 なにより婚活、恋愛アプリにおいて、『三十二年彼女無し』の情報は微妙だ。

 だって……つい色々と勘繰ってしまうものでしょう。
 実は性格に難ありなのかなとか、女性の気持ちに鈍感なのかなとか、性的不能なのかなとか……
 
 良く知らない相手を推し量るためには、情報と常識を組み合わせて推理するしかないのだから。 


 そう思ったところで、一華は重大なことに気づいた。
 なぜ、ブレイン五十嵐が『三十二年彼女無し』の事実をばらすなと釘を刺していたのか。
 その真の意味を。

 つまり、彼は……童て……

 無邪気に笑っている龍輝を見て思う。

 あ~あ。この恋は前途多難ね。

 と思うと同時に、ふつふつとやる気が湧いてきた。

 うふふ。最高の一夜をプロデュースできるなんて。
 ラッキー!
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