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第五章 シャクラ砂漠へ
第46話 デュークス星
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次の朝早くに一行は出発した。ここから先は、オアシスも無い。
ラクダに荷物を括り付け、荷車に水を載せて牽かせ、人は歩いて行く。
歩き始めは、ごつごつとした岩山に囲まれた谷間を進んだが、だんだん砂丘へと変わり、太陽を遮るものが無くなっていった。
砂丘は刻々と姿を変えて、道しるべは全くない。
進むべき方角を決めるには、ドルトムントが持っている 方位磁針と、砂漠の経験が豊富なオルカとイデオの勘頼りだった。
厳しい日差しを避けるには、朝早くと、夕方に移動する方が効率が良いので、途中で休憩をいれながら、夜が更けるまで歩き続ける。
砂漠の夜は冷えてくるが、オルカとイデオが天幕を張ってくれたので、その中で布に包まって寝ることができた。
みんな疲れて、あっという間に眠りに落ちたが、飛翔は目がさえてしまい、外に出て 宇宙を眺めていた。
美しい満天の星空。夏の星が輝いていて、飛翔は懐かしくなった。
星と方角については、瑠月が詳しかったな。
おやじさんから教えてもらったと言っていた。
そういえば、三人で森の中で迷子になったことがあったな。
飛翔は、幼馴染の瑠月の事を思い出していた。
瑠月と飛王と飛翔は同い年で、学校で学び始めた時から、いつも一緒に過ごしていた。
瑠月はレンガ職人の息子だったが、ほっそりとした秀才で、いつも本を小脇に抱えているようなタイプだった。
冷静沈着で穏やか。だが、核心をついた発言は鋭くて、おおらかで真っすぐな性格の飛王と、なぜかとても馬が合った。
当然飛翔も仲良くなり、いつも三人で過ごしていたのだった。
あれは、十歳くらいの時だったか、宝燐山の麓に、夜光石が採れる岩場があると言う話を聞いて、確かめに行ったことがあった。
学校が終わった後、心配して引き留めるリフィアと流花に、グリフィス先生への伝言を頼んで、水筒とおやつを持って、三人で森の奥へと入っていった。
でも、結局迷子になってしまい、危うく遭難しかけたのだ。
その時、瑠月が星を頼りに、聖杜のある方角を見つける方法を教えてくれた。
それはレンガ職人である彼の父親が、家を建てる時に方角を決めるために使っていた、様々な知識の一つだった。
あの時瑠月は確か……
普段無駄口をきかない瑠月が、珍しく饒舌に星について語ってくれた。
二人を励まそうという心遣いだったのかもしれない。
大きく輝く星が、いつどの位置に出てくるのか、星にまつわる物語、そして目安星、 寧空星のこと。
エストレア語ではデュークス星と呼ぶ。
あの時瑠月は、目安星のデュークス星を背に歩いていけば、聖杜国に辿り着けると言っていたっけ。
あの時は宝燐山から帰るときだったけど、今回は宝燐山に向かって歩いているから反対と考えればいいんだな。
という事は、あれがデュークス星だから……
飛翔はデュークス星を探しあてると、その真下に視線を向けた。
この先に、『聖杜国』があるんだ!
いや、もう今は隠す必要が無いのかもしれない。
千年後のこの世界では、『知恵の泉』の事を知る者はいないのだから。
心の中で言葉にしてみる。
この先に『エストレア国』が眠っているんだな……
飛翔の胸に郷愁の念が沸き上がってきた。
だが、目の前にはどこまでも続く砂丘が広がるだけ。
あの頃の森も川も、王宮も人々の生活も、想像すらできない。
それでも、必ず見つけ出して、何が起こったのかを調べなければならないと改めて心に誓った。
そういえばあの時、瑠月は色々な薀蓄も語ってくれたな。
デュークス星のデュークスは、エストレア語の 道標が転じた名前だとか。
宝燐山はエストレア語の 聖なる 山をひっくり返して 青海国の文字に当て字したものだとか。
あの豆知識は、一体どこから仕入れていたのだろう?
親の職業に関係無く、自分の進む道を決められるエストレアで、彼はレンガ職人である父親の職業では無く政治の道へと進んだ。
そして、陰ひなたに、飛王と飛翔を助けてくれることになったのだった。
あいつ、頭も良かったけれど、剣の腕っぷしも強かったしな。
瑠月はやっぱり凄い奴だよ。
瑠月の青グレーの髪と、凪いだ泉のような瞳を思う。
そんな瑠月が付いているんだ。
むざむざ 神親王に エストレアが蹂躙されるようなことにはならないはず。
もし自然災害が起こったとしても、事前にちゃんと予測して、避難していたに違いない。
飛翔はそう考えて、沸き上がる不安に必死で歯止めをかけていた。
それにしても……あの瑠月が星にまつわる恋愛物語を語ったと思うと、笑えるよな。
涼しい顔して、意外にロマンチストだったんだな。
飛翔は急に面白くなって、思わず噴き出した。
「何思い出し笑いしているんだい?」
いきなりドルトムントに声をかけられて、飛翔は飛びのいた。
「あ! ドルトムント!」
「すまんすまん。そんなに驚くとは思わなかったんだよ。眠れないのかい? 私も興奮して起きてしまってな。で、何がそんなに面白かったんだい?」
「いえ、ちょっと友人の事を思い出して。彼には星の事を教えてもらったんです」
「星か! 確かに満天の綺麗な星だ」
ドルトムントは飛翔の隣に腰を下ろすと、一緒に 宇宙を眺めた。
「飛翔君、こんなふうに思ったことは無いかい? この星空を、きっと昔の人も見上げていたんだろうなぁーって。昔の人も星を見て、きれいだな~なんて誰かと語りあったんだと思うと、なんだか嬉しくなって、繋がっている気分にならないかい」
「そうですね、思います」
確かに、あの日三人で見た星空と一緒だな……
あの日と繋がっているんだと気づいて、心が温かくなった。
「ドルトムント、あの星の事は何て呼んでいますか?」
目安星デュークス星の事を指さしながら、ドルトムントに尋ねてみる。
「あの星かい? ミザロではガイダール星と呼んでいるよ。方角を確認する時の目安星だよね。 壮語では 寧導星って呼んでるよ」
「ガイダール星はやっぱり目安星なんですね」
名前は違っても、目安星の役目は変わっていないんだな。
飛翔はもう一度デュークス星を見上げた。
「飛翔君は砂漠に倒れていたけれど、砂漠の民という訳ではなさそうだね。」
おもむろに、ドルトムントが言った。
「え! はい、どちらかというと森の民です」
飛翔はドギマギしながら答える。
「じゃあ、これからの旅は辛いと思うが、水分と塩分の補給だけは忘れないでくれよ」
「はい、ありがとうございます」
ドルトムントの愛情のこもった眼差しに、飛翔は心の底から感謝した。
「君はこの砂丘をどう思ったかな?」
「どうとは?」
「この前も話したと思うけど、想像以上に厳しい自然だろう! 人を寄せ付けない厳しさ。まるで人から何かを守っているみたいに感じないかい? 番兵みたいだよね。いったい何を守っているんだろうね? 私はそれを見てみたいんだ。砂丘が守っている物をね」
砂丘が守っている物……
飛翔はまた エストレアを思い出す。
「……早く見てみたい」
そう呟くと、ドルトムントが嬉しそうにニッコリと笑った。
ラクダに荷物を括り付け、荷車に水を載せて牽かせ、人は歩いて行く。
歩き始めは、ごつごつとした岩山に囲まれた谷間を進んだが、だんだん砂丘へと変わり、太陽を遮るものが無くなっていった。
砂丘は刻々と姿を変えて、道しるべは全くない。
進むべき方角を決めるには、ドルトムントが持っている 方位磁針と、砂漠の経験が豊富なオルカとイデオの勘頼りだった。
厳しい日差しを避けるには、朝早くと、夕方に移動する方が効率が良いので、途中で休憩をいれながら、夜が更けるまで歩き続ける。
砂漠の夜は冷えてくるが、オルカとイデオが天幕を張ってくれたので、その中で布に包まって寝ることができた。
みんな疲れて、あっという間に眠りに落ちたが、飛翔は目がさえてしまい、外に出て 宇宙を眺めていた。
美しい満天の星空。夏の星が輝いていて、飛翔は懐かしくなった。
星と方角については、瑠月が詳しかったな。
おやじさんから教えてもらったと言っていた。
そういえば、三人で森の中で迷子になったことがあったな。
飛翔は、幼馴染の瑠月の事を思い出していた。
瑠月と飛王と飛翔は同い年で、学校で学び始めた時から、いつも一緒に過ごしていた。
瑠月はレンガ職人の息子だったが、ほっそりとした秀才で、いつも本を小脇に抱えているようなタイプだった。
冷静沈着で穏やか。だが、核心をついた発言は鋭くて、おおらかで真っすぐな性格の飛王と、なぜかとても馬が合った。
当然飛翔も仲良くなり、いつも三人で過ごしていたのだった。
あれは、十歳くらいの時だったか、宝燐山の麓に、夜光石が採れる岩場があると言う話を聞いて、確かめに行ったことがあった。
学校が終わった後、心配して引き留めるリフィアと流花に、グリフィス先生への伝言を頼んで、水筒とおやつを持って、三人で森の奥へと入っていった。
でも、結局迷子になってしまい、危うく遭難しかけたのだ。
その時、瑠月が星を頼りに、聖杜のある方角を見つける方法を教えてくれた。
それはレンガ職人である彼の父親が、家を建てる時に方角を決めるために使っていた、様々な知識の一つだった。
あの時瑠月は確か……
普段無駄口をきかない瑠月が、珍しく饒舌に星について語ってくれた。
二人を励まそうという心遣いだったのかもしれない。
大きく輝く星が、いつどの位置に出てくるのか、星にまつわる物語、そして目安星、 寧空星のこと。
エストレア語ではデュークス星と呼ぶ。
あの時瑠月は、目安星のデュークス星を背に歩いていけば、聖杜国に辿り着けると言っていたっけ。
あの時は宝燐山から帰るときだったけど、今回は宝燐山に向かって歩いているから反対と考えればいいんだな。
という事は、あれがデュークス星だから……
飛翔はデュークス星を探しあてると、その真下に視線を向けた。
この先に、『聖杜国』があるんだ!
いや、もう今は隠す必要が無いのかもしれない。
千年後のこの世界では、『知恵の泉』の事を知る者はいないのだから。
心の中で言葉にしてみる。
この先に『エストレア国』が眠っているんだな……
飛翔の胸に郷愁の念が沸き上がってきた。
だが、目の前にはどこまでも続く砂丘が広がるだけ。
あの頃の森も川も、王宮も人々の生活も、想像すらできない。
それでも、必ず見つけ出して、何が起こったのかを調べなければならないと改めて心に誓った。
そういえばあの時、瑠月は色々な薀蓄も語ってくれたな。
デュークス星のデュークスは、エストレア語の 道標が転じた名前だとか。
宝燐山はエストレア語の 聖なる 山をひっくり返して 青海国の文字に当て字したものだとか。
あの豆知識は、一体どこから仕入れていたのだろう?
親の職業に関係無く、自分の進む道を決められるエストレアで、彼はレンガ職人である父親の職業では無く政治の道へと進んだ。
そして、陰ひなたに、飛王と飛翔を助けてくれることになったのだった。
あいつ、頭も良かったけれど、剣の腕っぷしも強かったしな。
瑠月はやっぱり凄い奴だよ。
瑠月の青グレーの髪と、凪いだ泉のような瞳を思う。
そんな瑠月が付いているんだ。
むざむざ 神親王に エストレアが蹂躙されるようなことにはならないはず。
もし自然災害が起こったとしても、事前にちゃんと予測して、避難していたに違いない。
飛翔はそう考えて、沸き上がる不安に必死で歯止めをかけていた。
それにしても……あの瑠月が星にまつわる恋愛物語を語ったと思うと、笑えるよな。
涼しい顔して、意外にロマンチストだったんだな。
飛翔は急に面白くなって、思わず噴き出した。
「何思い出し笑いしているんだい?」
いきなりドルトムントに声をかけられて、飛翔は飛びのいた。
「あ! ドルトムント!」
「すまんすまん。そんなに驚くとは思わなかったんだよ。眠れないのかい? 私も興奮して起きてしまってな。で、何がそんなに面白かったんだい?」
「いえ、ちょっと友人の事を思い出して。彼には星の事を教えてもらったんです」
「星か! 確かに満天の綺麗な星だ」
ドルトムントは飛翔の隣に腰を下ろすと、一緒に 宇宙を眺めた。
「飛翔君、こんなふうに思ったことは無いかい? この星空を、きっと昔の人も見上げていたんだろうなぁーって。昔の人も星を見て、きれいだな~なんて誰かと語りあったんだと思うと、なんだか嬉しくなって、繋がっている気分にならないかい」
「そうですね、思います」
確かに、あの日三人で見た星空と一緒だな……
あの日と繋がっているんだと気づいて、心が温かくなった。
「ドルトムント、あの星の事は何て呼んでいますか?」
目安星デュークス星の事を指さしながら、ドルトムントに尋ねてみる。
「あの星かい? ミザロではガイダール星と呼んでいるよ。方角を確認する時の目安星だよね。 壮語では 寧導星って呼んでるよ」
「ガイダール星はやっぱり目安星なんですね」
名前は違っても、目安星の役目は変わっていないんだな。
飛翔はもう一度デュークス星を見上げた。
「飛翔君は砂漠に倒れていたけれど、砂漠の民という訳ではなさそうだね。」
おもむろに、ドルトムントが言った。
「え! はい、どちらかというと森の民です」
飛翔はドギマギしながら答える。
「じゃあ、これからの旅は辛いと思うが、水分と塩分の補給だけは忘れないでくれよ」
「はい、ありがとうございます」
ドルトムントの愛情のこもった眼差しに、飛翔は心の底から感謝した。
「君はこの砂丘をどう思ったかな?」
「どうとは?」
「この前も話したと思うけど、想像以上に厳しい自然だろう! 人を寄せ付けない厳しさ。まるで人から何かを守っているみたいに感じないかい? 番兵みたいだよね。いったい何を守っているんだろうね? 私はそれを見てみたいんだ。砂丘が守っている物をね」
砂丘が守っている物……
飛翔はまた エストレアを思い出す。
「……早く見てみたい」
そう呟くと、ドルトムントが嬉しそうにニッコリと笑った。
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