30 / 91
第二章 使命を探す旅
第29話 千年後の世界の様子
しおりを挟む
「それにしても、すっごく精密な地図ですね。五百年前にこんな技術があったなんて!」
ハダルが驚いたように言った。
「バンドスの船乗りの友人からもらったんだけどね」
ドルトムントも頷く。
「しっかし、こうやってみると、世界の勢力地図はどんどん変化していってるんだな。国の名前なんてころころ変わって覚えきれないよ!」
ジオがあきれたように、でも今更気づいたようにため息をついた。
「国が変わると言うことは、争いが絶えないということかな」
ドルトムントが悲しげにつぶやくと、みんなの表情も曇る。
飛翔はふと思った。
ハダルもジオも、今までに辛い経験をしてきたのではないだろうか。飛翔だけでは無く、ドルトムントの家に集った彼らもまた、様々な事情を抱えているに違いない。
「もう少し教えてもらってもいいですか?」
「なんでも聞いていいよ」
「壮国以外の国について教えて欲しいんですけど」
「いいぞー」
ドルトムントが嬉しそうに、今度は現在の地図を持ってきた。
「そうだね。強国から言えば、さっき話した騎馬民族国家のフェルテだね。戦闘向きの馬を飼育して、精鋭揃いの騎馬部隊が国境を守っているんだ。鉱物資源が豊富だから、丈夫な鉄製の武器の生産が盛んだよ。それ以外では、羊毛やチーズかな」
「鉱物の配合を変えると、強度の違う鉄製品を作ることができるんだぜ」
ジオが得意そうに付け加えた。
「もう一つの大国、キルディア国についてはこの前話したからいいかな。次は中立の立場を貫くルシア国。ここは北側が山、南側が海で雨がちゃんと降るから砂漠ではないんだよ。すぐ隣なのに気候が違って面白いよね。隊商路の両側では綿花の栽培が盛んなんだ。秋の収穫時期に雨が少ない気候が綿花栽培に合っているんだよ。その綿糸から織られた布は、模様が綺麗でこの地域の専売品だね」
「そう! ルシア織よね。私も好きよ!」
「ルシア織?」
「これもそうよ!」
フィオナが玄関の扉に付けられた暖簾を指した。青地に白で花や葉の美しい模様が織り込まれていた。
「これは私たちでも買える安いお品だけど、値段が高いものになると、もっと色が増えて色とりどりで綺麗なのよー」
フィオナがうっとりした表情で言った。
ルシア織……この模様はまるでリフィアが織ったみたいだ!
もしかしたら、聖杜を自然災害が襲う前に、みんな逃げられたかもしれない。
わずかながら希望を見出したような気がして、飛翔は少しほっとして地図に視線を戻した。
「キルディア国の隣にはアルタ国だね。それから、海に目を移すと島がいくつかあるだろう。アルタ国に近いところから、壮国へ向かうルート順に説明すると、ボルドン島、イリス島、モルダリア島の三つが大きい島だね」
「産物については俺が説明するぜ!」
ハダルが後を引き継いだ。
「アルタ国は農産物の生産が盛んで、広く開墾された畑では大人数で効率的に作物栽培しているんだよ。作物の種類も豊富だし、色々工夫して、気候や病気に強い作物も作り出しているしね。壮国でも玄灰川の河口には大規模な稲作地域があるけれど、最近は洪水がまた酷くなってきていて、収穫量が落ちていてね。だからアルタ国からの食料は壮国にとっても貴重なんだ」
ハダルは地図を指さしながら説明を続けた。
「ボルドン島はコーヒーの産地、イリス島は香水やハーブが有名で、医術にも使われているよ。モルダリア島は珪砂や石灰が豊富で、バンドスのガラス作りはここの資源を使っているんだよ。バンドスの港からはガラス細工と楽器、葡萄酒なんかが出荷されているね」
「ハダルは、歩く世界産業地図だな!」
飛翔が感心して言うと、ハダルは照れ臭そうに笑った。
ドルトムントもうずうずして話し出す。
「地形的には、ミザロの南にあるアトラス山地は、気候にも統治にも影響を与えているんだよ。バンドスが長く独立国家として続いてこれたのは、このアトラス山地が敵の侵入を抑えていたからだろうね。アトラス山地はそんなに高い山ではないけれど、北側の乾燥地帯と南側の湿潤な気候を分けている、重要な役目を果たしているんだと思うよ。山を越えると景色が一変するからね。南側はぶどうがいっぱいだよ。」
「だからバンドスの葡萄酒はうまいんだぜ」
ジオも負けずに口を挟んできた。
「ジオはお酒が飲めるのか?」
飛翔が驚いて尋ねると、
「え? 飛翔は葡萄酒飲んだことないのか! あれは子どもでも飲めるぜ」
「いや、子どもは飲めないけど、余り強いお酒では無いから飲みやすいってことだよ」
ハダルが慌てたように付け加える。
聖杜国では、二十二歳の成人前の飲酒は禁じられていたので、飛翔は国によっていろいろ違うんだなと改めて思った。
「うぉほん! 確かにバンドスの葡萄酒は美味しい。滅多にフィオナは買って来てくれないけれどな」
ドルトムントの言葉に、フィオナがきっとなって睨む。
「葡萄酒代を稼いでから言ってください!」
ドルトムントは一瞬しまった! と言う顔をしたが、また素知らぬ顔に戻って地図の説明を始めた。
「天燐山脈の中央辺りに、一番高い宝燐山があるね。この宝燐山は今でも万年雪を被った山だよ。けれど、その麓はシャクラ砂漠が迫っている。標高差と寒暖差、厳しい土地だよ。まるで、人が入るのを拒んでいるみたいだね。王都華陀からこの山へ向かうのは難しいから、今も宝燐山は謎のまま、神秘の地となっているのさ」
人を拒んでいるようだと言うドルトムントの言葉に、飛翔はハッとした。
そうか!
そう言うことだったんだ!
泉を守るために、星砕剣の盾の力が発動したに違いない。
その力がどんなものなのか、飛翔は分からない。
だから、もしかしたらその力は、自然災害を引き起こして砂漠化させることだったかもしれない。
でも、いつ?
俺がいなくなって直ぐか?
禊祭の時に発動されていたとしたら、飛王は?
みんなは?
無事ではないはずだ……
ハダルが驚いたように言った。
「バンドスの船乗りの友人からもらったんだけどね」
ドルトムントも頷く。
「しっかし、こうやってみると、世界の勢力地図はどんどん変化していってるんだな。国の名前なんてころころ変わって覚えきれないよ!」
ジオがあきれたように、でも今更気づいたようにため息をついた。
「国が変わると言うことは、争いが絶えないということかな」
ドルトムントが悲しげにつぶやくと、みんなの表情も曇る。
飛翔はふと思った。
ハダルもジオも、今までに辛い経験をしてきたのではないだろうか。飛翔だけでは無く、ドルトムントの家に集った彼らもまた、様々な事情を抱えているに違いない。
「もう少し教えてもらってもいいですか?」
「なんでも聞いていいよ」
「壮国以外の国について教えて欲しいんですけど」
「いいぞー」
ドルトムントが嬉しそうに、今度は現在の地図を持ってきた。
「そうだね。強国から言えば、さっき話した騎馬民族国家のフェルテだね。戦闘向きの馬を飼育して、精鋭揃いの騎馬部隊が国境を守っているんだ。鉱物資源が豊富だから、丈夫な鉄製の武器の生産が盛んだよ。それ以外では、羊毛やチーズかな」
「鉱物の配合を変えると、強度の違う鉄製品を作ることができるんだぜ」
ジオが得意そうに付け加えた。
「もう一つの大国、キルディア国についてはこの前話したからいいかな。次は中立の立場を貫くルシア国。ここは北側が山、南側が海で雨がちゃんと降るから砂漠ではないんだよ。すぐ隣なのに気候が違って面白いよね。隊商路の両側では綿花の栽培が盛んなんだ。秋の収穫時期に雨が少ない気候が綿花栽培に合っているんだよ。その綿糸から織られた布は、模様が綺麗でこの地域の専売品だね」
「そう! ルシア織よね。私も好きよ!」
「ルシア織?」
「これもそうよ!」
フィオナが玄関の扉に付けられた暖簾を指した。青地に白で花や葉の美しい模様が織り込まれていた。
「これは私たちでも買える安いお品だけど、値段が高いものになると、もっと色が増えて色とりどりで綺麗なのよー」
フィオナがうっとりした表情で言った。
ルシア織……この模様はまるでリフィアが織ったみたいだ!
もしかしたら、聖杜を自然災害が襲う前に、みんな逃げられたかもしれない。
わずかながら希望を見出したような気がして、飛翔は少しほっとして地図に視線を戻した。
「キルディア国の隣にはアルタ国だね。それから、海に目を移すと島がいくつかあるだろう。アルタ国に近いところから、壮国へ向かうルート順に説明すると、ボルドン島、イリス島、モルダリア島の三つが大きい島だね」
「産物については俺が説明するぜ!」
ハダルが後を引き継いだ。
「アルタ国は農産物の生産が盛んで、広く開墾された畑では大人数で効率的に作物栽培しているんだよ。作物の種類も豊富だし、色々工夫して、気候や病気に強い作物も作り出しているしね。壮国でも玄灰川の河口には大規模な稲作地域があるけれど、最近は洪水がまた酷くなってきていて、収穫量が落ちていてね。だからアルタ国からの食料は壮国にとっても貴重なんだ」
ハダルは地図を指さしながら説明を続けた。
「ボルドン島はコーヒーの産地、イリス島は香水やハーブが有名で、医術にも使われているよ。モルダリア島は珪砂や石灰が豊富で、バンドスのガラス作りはここの資源を使っているんだよ。バンドスの港からはガラス細工と楽器、葡萄酒なんかが出荷されているね」
「ハダルは、歩く世界産業地図だな!」
飛翔が感心して言うと、ハダルは照れ臭そうに笑った。
ドルトムントもうずうずして話し出す。
「地形的には、ミザロの南にあるアトラス山地は、気候にも統治にも影響を与えているんだよ。バンドスが長く独立国家として続いてこれたのは、このアトラス山地が敵の侵入を抑えていたからだろうね。アトラス山地はそんなに高い山ではないけれど、北側の乾燥地帯と南側の湿潤な気候を分けている、重要な役目を果たしているんだと思うよ。山を越えると景色が一変するからね。南側はぶどうがいっぱいだよ。」
「だからバンドスの葡萄酒はうまいんだぜ」
ジオも負けずに口を挟んできた。
「ジオはお酒が飲めるのか?」
飛翔が驚いて尋ねると、
「え? 飛翔は葡萄酒飲んだことないのか! あれは子どもでも飲めるぜ」
「いや、子どもは飲めないけど、余り強いお酒では無いから飲みやすいってことだよ」
ハダルが慌てたように付け加える。
聖杜国では、二十二歳の成人前の飲酒は禁じられていたので、飛翔は国によっていろいろ違うんだなと改めて思った。
「うぉほん! 確かにバンドスの葡萄酒は美味しい。滅多にフィオナは買って来てくれないけれどな」
ドルトムントの言葉に、フィオナがきっとなって睨む。
「葡萄酒代を稼いでから言ってください!」
ドルトムントは一瞬しまった! と言う顔をしたが、また素知らぬ顔に戻って地図の説明を始めた。
「天燐山脈の中央辺りに、一番高い宝燐山があるね。この宝燐山は今でも万年雪を被った山だよ。けれど、その麓はシャクラ砂漠が迫っている。標高差と寒暖差、厳しい土地だよ。まるで、人が入るのを拒んでいるみたいだね。王都華陀からこの山へ向かうのは難しいから、今も宝燐山は謎のまま、神秘の地となっているのさ」
人を拒んでいるようだと言うドルトムントの言葉に、飛翔はハッとした。
そうか!
そう言うことだったんだ!
泉を守るために、星砕剣の盾の力が発動したに違いない。
その力がどんなものなのか、飛翔は分からない。
だから、もしかしたらその力は、自然災害を引き起こして砂漠化させることだったかもしれない。
でも、いつ?
俺がいなくなって直ぐか?
禊祭の時に発動されていたとしたら、飛王は?
みんなは?
無事ではないはずだ……
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
旦那様、不倫を後悔させてあげますわ。
りり
恋愛
私、山本莉子は夫である圭介と幸せに暮らしていた。
しかし、結婚して5年。かれは、結婚する前から不倫をしていたことが判明。
しかも、6人。6人とも彼が既婚者であることは知らず、彼女たちを呼んだ結果彼女たちと一緒に圭介に復讐をすることにした。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる