24 / 91
第二章 使命を探す旅
第23話 家族の団らん
しおりを挟む
フィオナが言っていた通り、ドルトムントの稼ぎはあまり期待できないようである。
夕方になると、ハダルとジオは汗だくになって帰ってきた。
今日は香辛料店の棚卸の手伝いと帳簿付けだったから、割の良い仕事だったと言いながら、フィオナにお金を渡している。
フィオナはそれを拝むように受け取ると、大切そうにしまっていた。
フィオナも今日は、部屋で針仕事をしていた。
みんな自分のできることをして必死に生きている。
飛翔は何もしないで世話になるのが申し訳なくなってきた。
明日からは何かできることを探さなくては。
井戸水で体を清めたハダルとジオが入ってくると、夕食になった。
慎ましくも、フィオナの工夫に満ちた食卓に舌鼓を打つ。
「あー、食ったっ食ったー!」
ジオは満足そうに叫ぶと、ゴロンと長椅子に寝転がった。
「ちょっと! ジオ! 食べてすぐ寝ると 馬になるわよ!」
フィオナがすかさずそう言って、ジオを乱暴に揺り動かす。
「んなもん、なるわけないだろ! ほんとにそうなったらヒヒーンって鳴いてやる!」
「何よー! 心配して言ってるのに!」
「フィオナ、なんか甘いものないかな?」
暢気なドルトムントの言葉に、フィオナが冷たく答える。
「ありません。あってもあげません。それ以上太らないように」
たちまちしゅんとなるドルトムント。
ハダルはそんなみんなを笑いながら見ている。その眼差しは宝物を見るように温かい。
「飛翔、騒がしくて驚いたか? いつもこんな感じさ。だから、飛翔も気遣い不要だぜ」
ハダルのその優しい言葉が、一気に飛翔を仲間に引き入れてくれた。
「ジオも俺も行き倒れのところを拾ってもらったんだ。飛翔と一緒さ。でも、こんなふうに家族同然に受け入れてくれる。ドルトムントもフィオナも温かい人達だから、心配するな」
「うん、ありがとう」
飛翔は素直に頷いた。
「フィオナはいつも、ドルトムントの稼ぎが無いようなこと言っているけどな、実はドルトムントは凄い歴史学者なんだぜ。壮国の王都、 華陀の学校から招聘されるくらい優秀なんだ。でも、あの調子で堅苦しいのが嫌いだし、現場が好きな人だから、その誘いを断り続けているんだよね。だから、お金が無いだけなんだよ」
ちょっと肩をすくめて、こっそり教えてくれた。
「まあ、それでフィオナが苦労しているのは本当だけどな。でも、いい子だろ。どんなに苦しくても、絶対弱音を吐かないんだよ。ドルトムントの発掘現場は体力的にキツイ現場が多いのに、男の俺たちよりもタフでさ。いつも明るくて、あきらめない。だから俺も励まされているんだ」
そう言って愛おしそうにフィオナを見つめるハダルを見て、飛翔は思わず突っ込みたくなった。
ハダルと話していると、まるで飛王と話している時のような安心感を得て不思議に思う。出会って間もないのに、落ち着く……なぜだろう?
達観したような眼差しと、温かい笑顔のせいだろうか。
何故かはわからないが、飛王と同じ雰囲気を感じて話しやすかった。
まあ、飛王と好きな 女性の話をしたことは無かったけどな……
でも、もしも、二人共にリフィアを想っていたのでなければ、こんなふうに、気安く突っ込み合えたのかも知れない……そんなことを考えながら、ハダルに声をかける。
「ハダルはフィオナが好きなんだな」
「まあな」
思いきり素直に肯定して、ハダルは照れ臭そうに笑った。
その甘い笑顔は、どんな女性も虜にしてしまいそうなくらい魅力的だった。
「初めてフィオナと出会った時のことは忘れられない。世界が変わった瞬間だったぜ」
「世界が変わった瞬間か……」
飛翔も思わずリフィアと出会った時のことを思い出した。
優しい笑顔になった飛翔を見て、ハダルも突っ込んでくる。
「飛翔も、そんな 女性いるみたいだな」
「まあな」
「どんな女性なんだ」
「優しくて、儚くて、でも真がしっかりしていて、いざとなると強い」
ハダルが笑い出した。
「結局女は強いって話か!」
「確かに!」
二人で楽しそうに笑っているのに気づいたフィオナが、訝し気に聞いてきた。
「なーに? そんなに面白い事あったの?」
「なんだよー。俺にも教えてくれよー」
ジオも口を挟んでくる。
ようやく立ち直ったドルトムントも、目をまん丸にして見つめてくる。
ハダルと顔を見合わせた後、飛翔はもう一度、心の底から笑った。
そんな飛翔を見て、ハダルも、フィオナもジオもドルトムントも安心したような顔になる。
そしてみんなもつられて、嬉しそうに笑った。
夕方になると、ハダルとジオは汗だくになって帰ってきた。
今日は香辛料店の棚卸の手伝いと帳簿付けだったから、割の良い仕事だったと言いながら、フィオナにお金を渡している。
フィオナはそれを拝むように受け取ると、大切そうにしまっていた。
フィオナも今日は、部屋で針仕事をしていた。
みんな自分のできることをして必死に生きている。
飛翔は何もしないで世話になるのが申し訳なくなってきた。
明日からは何かできることを探さなくては。
井戸水で体を清めたハダルとジオが入ってくると、夕食になった。
慎ましくも、フィオナの工夫に満ちた食卓に舌鼓を打つ。
「あー、食ったっ食ったー!」
ジオは満足そうに叫ぶと、ゴロンと長椅子に寝転がった。
「ちょっと! ジオ! 食べてすぐ寝ると 馬になるわよ!」
フィオナがすかさずそう言って、ジオを乱暴に揺り動かす。
「んなもん、なるわけないだろ! ほんとにそうなったらヒヒーンって鳴いてやる!」
「何よー! 心配して言ってるのに!」
「フィオナ、なんか甘いものないかな?」
暢気なドルトムントの言葉に、フィオナが冷たく答える。
「ありません。あってもあげません。それ以上太らないように」
たちまちしゅんとなるドルトムント。
ハダルはそんなみんなを笑いながら見ている。その眼差しは宝物を見るように温かい。
「飛翔、騒がしくて驚いたか? いつもこんな感じさ。だから、飛翔も気遣い不要だぜ」
ハダルのその優しい言葉が、一気に飛翔を仲間に引き入れてくれた。
「ジオも俺も行き倒れのところを拾ってもらったんだ。飛翔と一緒さ。でも、こんなふうに家族同然に受け入れてくれる。ドルトムントもフィオナも温かい人達だから、心配するな」
「うん、ありがとう」
飛翔は素直に頷いた。
「フィオナはいつも、ドルトムントの稼ぎが無いようなこと言っているけどな、実はドルトムントは凄い歴史学者なんだぜ。壮国の王都、 華陀の学校から招聘されるくらい優秀なんだ。でも、あの調子で堅苦しいのが嫌いだし、現場が好きな人だから、その誘いを断り続けているんだよね。だから、お金が無いだけなんだよ」
ちょっと肩をすくめて、こっそり教えてくれた。
「まあ、それでフィオナが苦労しているのは本当だけどな。でも、いい子だろ。どんなに苦しくても、絶対弱音を吐かないんだよ。ドルトムントの発掘現場は体力的にキツイ現場が多いのに、男の俺たちよりもタフでさ。いつも明るくて、あきらめない。だから俺も励まされているんだ」
そう言って愛おしそうにフィオナを見つめるハダルを見て、飛翔は思わず突っ込みたくなった。
ハダルと話していると、まるで飛王と話している時のような安心感を得て不思議に思う。出会って間もないのに、落ち着く……なぜだろう?
達観したような眼差しと、温かい笑顔のせいだろうか。
何故かはわからないが、飛王と同じ雰囲気を感じて話しやすかった。
まあ、飛王と好きな 女性の話をしたことは無かったけどな……
でも、もしも、二人共にリフィアを想っていたのでなければ、こんなふうに、気安く突っ込み合えたのかも知れない……そんなことを考えながら、ハダルに声をかける。
「ハダルはフィオナが好きなんだな」
「まあな」
思いきり素直に肯定して、ハダルは照れ臭そうに笑った。
その甘い笑顔は、どんな女性も虜にしてしまいそうなくらい魅力的だった。
「初めてフィオナと出会った時のことは忘れられない。世界が変わった瞬間だったぜ」
「世界が変わった瞬間か……」
飛翔も思わずリフィアと出会った時のことを思い出した。
優しい笑顔になった飛翔を見て、ハダルも突っ込んでくる。
「飛翔も、そんな 女性いるみたいだな」
「まあな」
「どんな女性なんだ」
「優しくて、儚くて、でも真がしっかりしていて、いざとなると強い」
ハダルが笑い出した。
「結局女は強いって話か!」
「確かに!」
二人で楽しそうに笑っているのに気づいたフィオナが、訝し気に聞いてきた。
「なーに? そんなに面白い事あったの?」
「なんだよー。俺にも教えてくれよー」
ジオも口を挟んでくる。
ようやく立ち直ったドルトムントも、目をまん丸にして見つめてくる。
ハダルと顔を見合わせた後、飛翔はもう一度、心の底から笑った。
そんな飛翔を見て、ハダルも、フィオナもジオもドルトムントも安心したような顔になる。
そしてみんなもつられて、嬉しそうに笑った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那様、不倫を後悔させてあげますわ。
りり
恋愛
私、山本莉子は夫である圭介と幸せに暮らしていた。
しかし、結婚して5年。かれは、結婚する前から不倫をしていたことが判明。
しかも、6人。6人とも彼が既婚者であることは知らず、彼女たちを呼んだ結果彼女たちと一緒に圭介に復讐をすることにした。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる