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第二章 使命を探す旅
第19話 旅行記
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飛翔は部屋へ戻ると、ドルトムントから貰った、メッキの禿げた腕輪を出した。そして、腕輪の内側にある仕掛けをそっと開けた。
そこには、少しだけ空洞ができていて、大切な物をしまっておくことができるようになっているのだ。
この腕輪は、宝燐山の西の民、キリト人が婚礼の際に交わした物で、新郎と新婦が互いに自分の誕生石を入れて交換し合うお守りであった。その当時は美しい金色で覆われ、宝石などもあしらわれていたはずである。
飛翔は、リフィアの両親が交わした腕輪を見せてもらったことがあったので、よく知っていたと同時に、思い出深い品でもあった。
ベッドの下から青い肌着を取り出すと、胸元の縫い目をほどいて、星光石の指輪を取り出した。
それは、見事な美しい球体をしており、宇宙のような深い群青に星のような煌めきを宿した石だった。
飛翔はそれを大切そうに腕輪の内側に入れて、自分の腕にはめた。
そして青い肌着をもう一度ベッドの下に押し込んだ。
ドルトムントに渡された旅行記。
深い緑色の表紙で、中は手書きの天花語で書かれている。
最初のページをめくった飛翔は、軽い衝撃を受けた。
『亡き延世王様に捧ぐ』とある。
飛翔からすれば、神親王の末裔というだけで、憎しみの対象となる人物が、実は国民から慕われていたと言う可能性を見つけて、複雑な気分になる。
『延世王の全土統一の功績により、国土は安定し、交通網が整備され、私のような旅人が自由に、安全に歩くことができるようになった。その功績をたたえ、ここにこの旅行記を捧げます』
続く言葉を見て、更に言葉を失った。
確かに……国土を統一すると言うことは、平和と発展の基本だな。
その過程で、どれだけ血なまぐさい戦があったとしても、統一を成し遂げることができれば、その後に生きる子孫にとって、これほど大きな贈り物は無いんだな……
聖杜の民は、戦わないことを旨としていた。
それは今でも間違っているとは思わない。けれど、それで滅びてしまえば、それでも戦わなかったことを良しと言えるのだろうか?
聖杜の子孫の未来をつぶしてしまう事では無かったのか。
今になって、真成が言っていた言葉、『民を守る』の意味が重く胸に迫って来た。
国を守るとは?
国民を守るとは?
王子として、俺は何をなすべきだったのか?
これから何をなすべきなのか?
飛王はあの後、どうやって民を守ったのか?
一人でどうやって……
聖杜国のその後を知るには、まず千年後の、現在の姿を知らなければ始まらない。
飛翔は自らの心を奮い立たせるように続きを読み始めた。
この旅行記の著者であり、旅人の来幸は、荘国の王都、華陀の貴族の出身で、王立学院にて学び、登用試験を受けて租税部に配属された。
そこで延世王より王命を受けて、各地域の産物を調べて、課税方法や課税率、生産性の向上のために、何が必要かを報告するように言われたのが、旅の始まりであった。
延世王はなかなかの賢王だったのかもしれないと、飛翔は思い始めた。
この本が書かれたのは三十年ほど前のようだが、延世王は現在の玉英王の曽祖父と言っていたはず。と言うことは、次期王の玉英王の祖父と、次の父親の在位は短かったようだ。
そう言えば、今は荘暦六十八年と言っていたな。
と言うことは、延世王の在位の間に、壮暦を定めたということか。
そんな事を考えながら続きをめくった。
王都、華陀は、内陸の盆地に作られている。
周りを取り囲む山々が天然の要塞となって、天空国以来、遷都することなく、生き残ってこれた都だった。
建造物は周りの山から切り出された木造建築が主流。
四季があり寒暖の差も激しいため、冬は雪が降ることもある。
皇帝の住まう王宮を中心として、統省、裁省、陸省、祈省と言う建物が、王宮を取り囲むように整備されていた。
それぞれ、統省は経済に関する法を整備し、その遂行管理を司る場所。
裁省は、刑罰に関する法を整備し、またそれに照らし合わせて裁くところ。
陸省は軍事を司り、祈省は星読みをして祭事を行うと言う役割が与えられていた。
一見すると、分権化された公正な政治が行われていそうに見える。
だが実際には、この上の最高機関として、絶対権限を持つ王府があった。
千年の時を超えてもなお、絶対君主制を維持していたのである。
皇帝の警戒ぶりは、王都の街並みにも表れている。
華陀の街並みは、四省が王宮を四方から守る様に取り囲むのと同じように、正確な四角に区切られていて、通りは全て真っ直ぐに整備されていた。
ところが、その道は所々で行き止まりが作られ、右へ左へと方向を変えながらしか、前に進めないようになっている。
王宮まで一本の道で進むことができないように用心を重ねた作りとなっていた。
来幸は、そんな華陀の街で生まれ育ち、登用試験を受けて、統省の租税部に配属になった若者だった。
王都育ちには珍しく、外の世界への興味が大きかった来幸は、延世王の長栄港の塩田視察に随行したのをきっかけに、延世王から王命を受けることとなる。
そこには、少しだけ空洞ができていて、大切な物をしまっておくことができるようになっているのだ。
この腕輪は、宝燐山の西の民、キリト人が婚礼の際に交わした物で、新郎と新婦が互いに自分の誕生石を入れて交換し合うお守りであった。その当時は美しい金色で覆われ、宝石などもあしらわれていたはずである。
飛翔は、リフィアの両親が交わした腕輪を見せてもらったことがあったので、よく知っていたと同時に、思い出深い品でもあった。
ベッドの下から青い肌着を取り出すと、胸元の縫い目をほどいて、星光石の指輪を取り出した。
それは、見事な美しい球体をしており、宇宙のような深い群青に星のような煌めきを宿した石だった。
飛翔はそれを大切そうに腕輪の内側に入れて、自分の腕にはめた。
そして青い肌着をもう一度ベッドの下に押し込んだ。
ドルトムントに渡された旅行記。
深い緑色の表紙で、中は手書きの天花語で書かれている。
最初のページをめくった飛翔は、軽い衝撃を受けた。
『亡き延世王様に捧ぐ』とある。
飛翔からすれば、神親王の末裔というだけで、憎しみの対象となる人物が、実は国民から慕われていたと言う可能性を見つけて、複雑な気分になる。
『延世王の全土統一の功績により、国土は安定し、交通網が整備され、私のような旅人が自由に、安全に歩くことができるようになった。その功績をたたえ、ここにこの旅行記を捧げます』
続く言葉を見て、更に言葉を失った。
確かに……国土を統一すると言うことは、平和と発展の基本だな。
その過程で、どれだけ血なまぐさい戦があったとしても、統一を成し遂げることができれば、その後に生きる子孫にとって、これほど大きな贈り物は無いんだな……
聖杜の民は、戦わないことを旨としていた。
それは今でも間違っているとは思わない。けれど、それで滅びてしまえば、それでも戦わなかったことを良しと言えるのだろうか?
聖杜の子孫の未来をつぶしてしまう事では無かったのか。
今になって、真成が言っていた言葉、『民を守る』の意味が重く胸に迫って来た。
国を守るとは?
国民を守るとは?
王子として、俺は何をなすべきだったのか?
これから何をなすべきなのか?
飛王はあの後、どうやって民を守ったのか?
一人でどうやって……
聖杜国のその後を知るには、まず千年後の、現在の姿を知らなければ始まらない。
飛翔は自らの心を奮い立たせるように続きを読み始めた。
この旅行記の著者であり、旅人の来幸は、荘国の王都、華陀の貴族の出身で、王立学院にて学び、登用試験を受けて租税部に配属された。
そこで延世王より王命を受けて、各地域の産物を調べて、課税方法や課税率、生産性の向上のために、何が必要かを報告するように言われたのが、旅の始まりであった。
延世王はなかなかの賢王だったのかもしれないと、飛翔は思い始めた。
この本が書かれたのは三十年ほど前のようだが、延世王は現在の玉英王の曽祖父と言っていたはず。と言うことは、次期王の玉英王の祖父と、次の父親の在位は短かったようだ。
そう言えば、今は荘暦六十八年と言っていたな。
と言うことは、延世王の在位の間に、壮暦を定めたということか。
そんな事を考えながら続きをめくった。
王都、華陀は、内陸の盆地に作られている。
周りを取り囲む山々が天然の要塞となって、天空国以来、遷都することなく、生き残ってこれた都だった。
建造物は周りの山から切り出された木造建築が主流。
四季があり寒暖の差も激しいため、冬は雪が降ることもある。
皇帝の住まう王宮を中心として、統省、裁省、陸省、祈省と言う建物が、王宮を取り囲むように整備されていた。
それぞれ、統省は経済に関する法を整備し、その遂行管理を司る場所。
裁省は、刑罰に関する法を整備し、またそれに照らし合わせて裁くところ。
陸省は軍事を司り、祈省は星読みをして祭事を行うと言う役割が与えられていた。
一見すると、分権化された公正な政治が行われていそうに見える。
だが実際には、この上の最高機関として、絶対権限を持つ王府があった。
千年の時を超えてもなお、絶対君主制を維持していたのである。
皇帝の警戒ぶりは、王都の街並みにも表れている。
華陀の街並みは、四省が王宮を四方から守る様に取り囲むのと同じように、正確な四角に区切られていて、通りは全て真っ直ぐに整備されていた。
ところが、その道は所々で行き止まりが作られ、右へ左へと方向を変えながらしか、前に進めないようになっている。
王宮まで一本の道で進むことができないように用心を重ねた作りとなっていた。
来幸は、そんな華陀の街で生まれ育ち、登用試験を受けて、統省の租税部に配属になった若者だった。
王都育ちには珍しく、外の世界への興味が大きかった来幸は、延世王の長栄港の塩田視察に随行したのをきっかけに、延世王から王命を受けることとなる。
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