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第一章 伝説の始まり

第9話 時の輪の中で

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『知恵の泉』に落ちた飛翔は、沸き上がる泡にもみくちゃにされた。水面を目指して必死で泳ぐも、一向に辿り着けない。

「飛王! 大丈夫か!」

 叫ぼうとして、ごふっと水を飲み込んだ。鼻もツーンとする。

 一体どうなっているんだ!

 意識が朦朧とする中、温かく白い光に包まれるのを感じた。

 俺はこのまま死ぬのか?
 いや、まだ死ねない!
 飛王の元に戻ならなければ……

 そこまで思ったところで、完全に意識が途切れた。


 どれくらい時がたったのだろうか……

 気づくと、星空の中を漂っていた。

 俺は今、宇宙にいるのか?

 その時、頭の中に直接声が降ってきた。

 これが宇宙そらの神の声なのか?

 少し高くて細いけれど、優しく温かい声だった。


 人の子よ。私に何用だ。


 飛翔は必死で願った。

 飛王のところへ帰してください!
 飛王を助けなければならないんです!
 だから、元いた場所へ帰して欲しい!


 そうか…

 宇宙の神は静かに言った。

 そろそろ時が満ちたと思っていたのだが、そなたは自分の使命を知らぬようだな。

 私の使命?

 飛翔は驚いて尋ねる。

 神の声は静かに告げてきた。

 よかろう! 
『ティアル・ナ・エストレア』の片割れよ。
 これから、そなたに大切な役割を与える。
『ティアル・ナ・エストレア』の本当の使命を見つけ出すのだ。
 それは遠い昔に失われ、少し違った形で伝わってしまったようだ。
 だから、まずは、本当の使命を探せ。


 飛翔は混乱と落胆の心のまま、神に頼んだ。

 なぜ、今それを教えていただけないのですか?
 もともと、神であるあなたが私たちに下された使命なのですよね。
 ならば、今、ここで教えてください!

 
 ほほほほ…

 宇宙の神は面白そうに笑った。

 なぜ私が教えてやらねばならぬ。
 私は人を作った。そして、知恵を与えた。
 その知恵を使ってどう生きていくのか。
 それは、そなたたち人の自由だ。
 私がどうこうする話ではない。
 だが……


 その声が、自愛に満ちた響きに変わる。

 知恵が人を生かす時もある。
 知恵が人を陥れる時もある。
 そなたの求める真実が、簡単に辿り着けるとは限らぬ。
 探し続けるか、あきらめるか。
 それもまた、そなたたち人の自由だ。

 さあ、おしゃべりはここまで。
 おまえのなすべきことをせよ。
 おまえの片割れも、今そのことに気づいたようだ。
 本当の使命を知った時、そなたたちがどのような道を選択するのか。
 それは、そなたたち次第である。

 大丈夫だ。
 そなたたちは二人で一人。
 剣と指輪がそろわなければ、『ティアル・ナ・エストレア』の役目も果たせぬ。

 大丈夫。
 そなたたちは、いずれまた必ず会える。
 だから心置き無く、そなたはそなたの役割を果たせ。


 そうだな、一つだけヒントをやろう!

『ティアル・ナ・エストレア』のは『希望』を表すと言われているが、最初は別の意味だったのだ。
『希望』などという不確定で明るい言葉では無かった。
 が、いつの間に『希望』と言う意味に変わったのか。
 なぜ意味を変えたのか。

 さあ、謎解きの時間の始まりだ!


 その言葉が終わると同時に、飛翔はまた光に包まれた。

 有無を言わさぬ光の渦の中で、飛翔はそれでも、飛王の元へ帰れることを願っていた。

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