ティアル・ナ・エストレア ―青髪の双子の王子―

涼月

文字の大きさ
上 下
11 / 91
第二章 使命を探す旅

第10話 砂漠

しおりを挟む
「飛翔!」
 頭の中に、悲痛な飛王の声が響いた。

「ひ……」
 答えようとしても声にならない。喉がカラカラだった。暑くて重くて体も動かない。

 俺はいったいどうなってしまったんだ?
 このまま死ぬのだろうか……

「良かったー、生きているわ。お父さん!」

 その時、明るい少女の声がした。その直後、体がスーッと楽になる。

 そうか……この暑さは照り付ける日差しのせいか。

 どうやら少女が飛翔の体に覆いをかけて影を作ってくれたようだ。
 心遣いがありがたくて恩人の顔を見たいと思ったが、じゃりじゃりした砂が痛くて目を開けることができなかった。

 ここはどこだろう?
 飛王の元へ戻れたわけでは……無いな。

 少女は次に手慣れたしぐさで、飛翔の首を持ち上げて自分の膝の上に乗せた。そして、慎重に濡れた布で顔を拭き始めた。丁寧にいたわる様に。最後に、口の端に少し水を含ませてくれた。生き返るようだった。

 ああ! 俺は生きている! 生きられた!

 ゆっくりと目を開ける。覗き込む影を見上げてハッとした。

 リフィア!

 でも、その面影は瞬く間に消えた。リフィアであるはずがない。
 逆光の中、もう一度目を凝らして少女をよく見た。

 リフィアと同じ金髪だ。
 でも、瞳の色が違う…
 雰囲気も…

「目を開けたわ! 良かった」
 ほっとしたような声が降ってきた。

「あなた、なんだって、こんな所に倒れていたのよ。たまたま私たちがここで発掘作業していたからよかったけど、普段は誰もいないのよ! 死んじゃうわよ! しかもこんな軽装で!」

 呆れたようにいいながら、「でも、本当に良かったわ、生きていて」と少女が微笑んだ。

「私の名前はフィオナよ。よろしくね。あなたは? 名前言える?」
「あ……ありがとう……助けてくれて。私の名前は……飛翔ヒショウ……」

 かすれた声で、なんとか言葉を絞り出すが、飛翔は力が抜けてそれ以上続けられなかった。

「ああ、ごめんなさい。少しずつ水をあげるから、ゆっくり一滴ずつ飲んでいって。少し休まないとね。荷台に乗せて行ってあげるから、ゆっくり休むといいわ」

 俺はどこに来てしまったのだろう……
 これでは飛王を助けられないじゃないか。

 悔しくて悲しくて涙が出そうになったが、涙すら流せないほどカラカラに乾いていた。

 フィオナがくれる一滴ずつの水が、じわじわと体を潤していく。

 まさに生き返るとはこのことだなぁと思いながら、飛翔はいつしかまた眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

処理中です...