上 下
3 / 91
第一章 伝説の始まり

第3話 双子の王子

しおりを挟む
 聖杜セイトの神殿に、二人の青年が並んでひざまずいていた。

 二人の面立ちはとても似ていたが、長い髪の色はわずかに濃淡の差があり、一人は深夜を思わせる群青、もう一人は暁の光を帯びたような瑠璃色の髪をしていた。

 二人の目の前には透けた蒼の水面を湛える泉。
 
 周りを取り囲む腰丈ほどの白い大理石の壁には美しい花の様な模様が施されていて、人々から大切にされていることが伝わってくる。
 聖杜セイトの民から『知恵の泉』と呼ばれていて、この泉の周りでくつろげば、必ず良い考えが浮かび悩みが解決できると言われていた。

 そして、この『知恵の泉』こそ、忘れ去られた始まりのであり、剣と指輪が授けられた地であった。


飛翔ひしょう、あれはちゃんと持って来ているな」
「大丈夫だよ、飛王ひおう。リフィアに頼んだから完璧さ」
「そうか……」

 群青色の髪を後ろで高く結んだ飛王の瞳に、少し寂し気な色が浮かんだように見えたが、直ぐに気を引き締めて言葉を続けた。

「父上があのような死を迎えられたからには、今日のこの禊祭みそぎさいも狙われているはずだ。俺はこの剣があるから戦えるが、お前は今、何の武器も持っていない。外で瑠月りゅうげつが待機しているから、何かあったらまず逃げろ。そして瑠月を呼びに走ってくれ」
「俺がそんな役立たずに見えるのか、飛王?」

 同じく一つ結びの瑠璃色の飛翔はそう言いながら祭祀服の裾をまくって、一振りの剣を指差した。 

「禊祭は武器帯同が許されて無かったはずだがな」

 飛王はニヤリとして囁くと、同じく隠し持っていたもう一振りの自分の剣を、服の下からちらりと見せた。

「とりあえず、援軍が来るまでこれでなんとかなるかな。」
 二人は互いに頷き合った。

 飛王が『あれ』と言ったのは、星光石せいこうせきの指輪(ルス・エストレア)のことであり、自身が携えている剣こそが、星砕剣せいかいけん(ロアル・エスパーダ)であった。

 どちらも、『ティアル・ナ・エストレア』の継承者の証。

 禊祭みそぎさい……それは王の交代が行われる前に、宇宙の神へ継承者の交代を報告する儀式である。

 飛王と飛翔は双子の王子。
 そして、兄である飛王は、次期王位継承者でもあった。

 つまり、聖杜の国王は、古より代々『ティアル・ナ・エストレア』の継承者だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

旦那様、不倫を後悔させてあげますわ。

りり
恋愛
私、山本莉子は夫である圭介と幸せに暮らしていた。 しかし、結婚して5年。かれは、結婚する前から不倫をしていたことが判明。 しかも、6人。6人とも彼が既婚者であることは知らず、彼女たちを呼んだ結果彼女たちと一緒に圭介に復讐をすることにした。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...