昭和少年愚連隊 友人たち

友人たち

栗原さん

 
 

栗原さんは俺の上司だった人だ。
 
酒が大好きで、いつも酒臭い。
 

普段は荒れることは無いが
 
社員旅行に行くと暴れだす。
 
服を脱いで踊りだすのが癖だ。
 
 
 
ある旅行のとき。
 
宴会の席でやはり大酒を飲み
 
ゆかたを脱ぎだした。
 
 
 
真っ白なブリーフ姿になると
 
その中に両手を入れて
 
大事なイチモツを握る。
 
 
 
女子社員は、怪訝な顔。
 
上司たちは
 
「また、始まった」と呆れ顔である。
 
 
 
でも、俺たちはそれを見て大騒ぎ。
 
ゲラゲラ笑っている
 
 
 
その格好で各々の席へ行き
 
酒をついで回る。
 
（イチモツを握った手で・・・）
 
そして、自分も返杯をもらう。
 
それが彼の飲み芸だ。
 
気兼ねなく大酒を飲める仕組み。
 
 
 
宴会が終わるまでにはぶっ倒れて
 
処構わずブリーフのみで、いびきをかいて寝てしまっている。
 
そうしているうちに宴会が終了するのがパターンだ。
 
 
 
起こしても起きないので誰も起こそうとしない。
 
放っておいて皆、２次会会場へ向かってしまう。
 
 
 
心配になって見に行くと
 
旅館の仲居さんに起こされ
 
部屋の隅で、静かに一人でゆかたを着ている。
 
その姿はいつも淋しそうだった。
 
仲居さんには冷たい目で見られ
 
皿を片付けるカチャカチャした音の中で
 
一人、壁を向いてゆかたを着ていた。
 
 
 
あまりにも淋しそうなので
 
後ろから「２次会へ行きましょう」と声をかけると
 
うれしそうに俺を見た。
 
 
 
２次会は旅館内のスナック。
 
皆はすでにカラオケで盛り上がっていた。
 
 
 
すると、その盛り上がりに便乗して
 
また、ゆかたを脱ぎだす。
 
調子に乗ってブリーフも脱ぎだす。
 
スナックは貸し切り状態なので、他の客は居ないが
 
ママや女の子に冷たい目で見られる。
 
お構いなしに踊り狂う栗原さん。
 
それが、彼の２次会芸だ。
 
 
 
最後はやはり店の隅の方で、
 
一人淋しくゆかたを着る。
 
その繰り返しだ。
 
 
 
翌朝は、誰よりも遅く起きて
 
集合時間間近だというのに風呂に行く。
 
皆を待たしても平気。
 
こそこそと現れ、いつの間にか合流している。
 
皆が「栗ちゃん、まだかよ！」などと言っていると
 
後ろでタバコを吸っていたりする。
 
それが彼の朝芸だ。
 
 
 
 
 
しばらく経った年の社員旅行の時。
 
栗原さんは奥さんを連れてやってきた。
 
その年の初め結婚し、まだ新婚だった。
 
 
 
「まさか、今回は脱がないよな！」
 
皆が口々に言っていた。
 
 
 
そして、その日の宴会。
 
皆の期待を裏切り（裏切らず？）
 
また、いつものようにゆかたを脱ぎだした。
 
ブリーフはトランクスに変わっていた。
 
（そんなこと、どうでもいい。）
 
 
 
奥さんは真っ赤になって下を向いていた。
 
何もお構いなしに大暴れ。
 
皆は大盛り上がり。
 
大盛況のうちに宴会は終了した。
 
 
 
ただ、いつもと違うのは
 
部屋の隅でゆかたを着るとき
 
一人ではなく、奥さんが手伝っていること。
 
子供のようにゆかたを着せてもらっている栗原さんは
 
それを見ていた俺を見つけ
 
満面の笑顔でＷピースをしていた。
 
 
 
なんなんだ、この男は？　と思った。
 
 
 
だが、愛の力は偉大だとも思った。