1 / 15
予期せぬ再会
しおりを挟む
高校二年生になったー春。
平凡すぎる穏やかな高校生活に、大きな変化が訪れることになろうとはまだ知る由もなかった。
「美結、おはよう。」
「陸!ごめんね待たせちゃって。」
「いいよ、気にしないで。」
山本美結と菅野陸。
二人は幼馴染で、もう10年の付き合いになる。
近所に住む二人はお互いの家を挟む小さな公園で待ち合わせをして、一緒に高校に通学するのが日課だった。
二人の関係は変わることはなく、同じ制服を着て、自転車で並んで登校する。
今日は、高校二年生の始業式の日であった。
「陸、今日も部活あるよね?」
「うん、あるよー。」
陸はバスケ部に所属していて、土日を含めて毎日部活に勤しんでいた。
一方の美結は入学した時から帰宅部のため、下校は陸と別であった。
入学時からクラスも違うため、朝の登校時間だけが唯一の二人の時間だった。
「ねぇ、今日紗夜の誕生日パーティーするんだけど陸も来れない?今年なんだかお母さん張り切って料理しちゃってさ。」
「部活終わったら行くよ!美結のお母さんのご飯なんて久しぶりだなー。」
美結は妹ー紗夜の誕生日の誘いに乗ってくれた陸に満面の笑顔を見せた。
陸もその可愛い笑顔を見ては癒しを感じて微笑み返した。
美結と陸の家は家族ぐるみで仲が良く、お互いの家に遊びに行くことも多かった。
「じゃあ夕方、家で待ってるね、陸!」
公園で待ち合わせして一緒に通学し、美結の教室の前まで陸が送るー一1時間程度の時間。
一日の中でみればほんの僅かな時間であるが、他愛ない会話をし心地よい時間だった。
二人はこれからもずっと変わらず続くものだと思っていた。
「みんな、おっはよー!」
美結は新しい教室に入ると、仲良しのメンバーの所に駆けて行った。
「美結!」
「おはよー!」
美結が駆け寄った先には、ショートカットで小柄な日向、ロングヘアーの大人っぽい海、そして短髪で華奢な隼人がいた。
「まさか、今年も同じクラスで本当良かった!海と隼人もよく同じクラスになったよねー。」
「本当だよー。でも隼人さ、数学得意なくせに文系にしたんだよ。」
「ちょっと海ー。みんなに言うなよ。」
「隼人は海と離れたくないんだね。」
「まあな。」
海と隼人は高校入学後すぐに付き合ったカップルだった。
互いに高身長で美男美女のお似合いの二人は、校内でも有名だった。
よく喧嘩もするが、ツンツンしたクールな海と人懐こい隼人は相性が良くとても仲が良かった。
「そういえば、美結は陸くんと前よりもクラス離れちゃったね。」
「うん、陸は理系だからね。」
「そんな感じする、陸は頭良さそう。バスケ部のエースだしまじ神だな。」
「理想の彼氏だよねー。」
「ちょっ、お前が言うーそれ。」
勝手に海と隼人が喧嘩をし出すのを美結は苦笑しながら、海の言った五文字の単語に頭を傾げて反応した。
「ん?誰の理想の彼氏?」
「美結のだよ。」
「え?もう、そんなんじゃないってば!」
美結は目を見開くと顔を真っ赤にして、両手を振って取り乱した。
毎朝の登校時の仲睦まじい美結と陸の姿を見れば誰もがそう思わざるを得ないだろうと、三人は思っていた。
長年幼なじみだからだと自分の気持ちに鈍感な美結の姿に、三人は陸に対して同情するのだった。
「そろそろ先生来そうだし、席戻るねー。」
美結は続けて三人にまた何かと陸とのことで揶揄われると察し、逃げるように自分の席に戻っていった。
そしてすぐに担任が入ってくると、号令がかかった。
「起立ー。」
美結は立ち上がった瞬間、久しぶりの早起きに急に眠気が襲いふらつき、机が前に少し動いてしまった。
その物音に、斜め前に座る日向が気付いた。
「美結、大丈夫?」
「ごめん!大丈夫ー!」
「ねぇ、美結。そういえば工が来てないね、まだ。」
礼をした後、日向が小さな声で美結の後ろの席を見つめていった。
「連絡来てないし、いつもの遅刻かなー。」
そして新しいクラスの担任が自己紹介を始めようとした時、教室のドアが勢いよく開いた。
それは、少し大きめのズボンを履き、シャツの胸下もだらしなさそうに制服を着る、茶髪の工だった。
クラス全員から冷ややかな視線を浴びた工だったが、くしゃっと笑って舌を出すと自分の席に座った。
「おい、山崎遅刻だぞー。」
「先生ごめん!寝坊しちゃってさ!」
そしてクラス中に笑われながらも全く反省の顔を見せない工に、担任は元からの工の評判を知ってか諦めた顔で溜息をついた。
「おいおいー。また前の席、美優かよー。」
「しょうがないじゃん、山崎と山本なんだから。」
工は一見不良にみえるものの、中身は楽観的で自由で、美結の仲良しメンバーの一人だった。
そんな工はムードメーカーとして、誰からも好かれていた。
「美結あのさ、これで荷物良かったか中身見てくれない?寝坊して、部屋の中にあるものかき集めて持ってきた。」
「工、テレビのリモコン入ってるよ。」
「まじ!やべ!兄貴、テレビ見れねーな。」
「いや、そこじゃないから。」
美結と工は担任の話も聞かず、美結は後ろを振り向きマイペースな工の荷物確認をして小さな声で笑っていた。
そしていつの間にか、クラス中が騒ついていることに気付く。
「ねぇ、転校生が来るらしいよ。」
「え?まじで?」
「美結、聞いてた?」
「知らないよ。初耳。」
どんな転校生が来るのだろうーとクラスメイトの期待がかかる中、担任が転校生の名を呼んだ。
「紹介する、入ってこい。篠崎。」
教室に転校生が入った瞬間、多くの女子は歓声やら悲鳴を上げた。
転校生は窓からの風に靡く少し長い茶髪に、切れ長の吊り目で非常に整った顔立ちをしていた。
そして先生の横に来ると、外見とは裏腹にふわっと人懐っこく笑顔を見せた。
「篠崎明人です。よろしくお願いします。」
「仲良くしてやってくれな。篠崎の席はあそこな。」
女子だけでなく男子も、明人に向かってイケメンだと好奇な視線を送っていた。
しかし、美結と工を除いては。
「なぁ、美結。あいつって……。」
工は転校生の名前を聞いた時、背中がゾクッとし冷汗が出るのを感じていた。
そしてすかさず美結の右肩を叩いたが、振り向くことはなかった。
「明人…。どうして?」
美結は目を見開いて固まってており、早速周りの生徒から歓迎される明人の姿をただ見つめていた。
※新連載始めました☺︎
3年前に完結したものを編集して投稿しています。
主人公には三人の男の子が取り巻くのですが、私の推しは工です!
作者が推しとかダメですね(笑)
雑文ですがどうぞよろしくお願いします!
平凡すぎる穏やかな高校生活に、大きな変化が訪れることになろうとはまだ知る由もなかった。
「美結、おはよう。」
「陸!ごめんね待たせちゃって。」
「いいよ、気にしないで。」
山本美結と菅野陸。
二人は幼馴染で、もう10年の付き合いになる。
近所に住む二人はお互いの家を挟む小さな公園で待ち合わせをして、一緒に高校に通学するのが日課だった。
二人の関係は変わることはなく、同じ制服を着て、自転車で並んで登校する。
今日は、高校二年生の始業式の日であった。
「陸、今日も部活あるよね?」
「うん、あるよー。」
陸はバスケ部に所属していて、土日を含めて毎日部活に勤しんでいた。
一方の美結は入学した時から帰宅部のため、下校は陸と別であった。
入学時からクラスも違うため、朝の登校時間だけが唯一の二人の時間だった。
「ねぇ、今日紗夜の誕生日パーティーするんだけど陸も来れない?今年なんだかお母さん張り切って料理しちゃってさ。」
「部活終わったら行くよ!美結のお母さんのご飯なんて久しぶりだなー。」
美結は妹ー紗夜の誕生日の誘いに乗ってくれた陸に満面の笑顔を見せた。
陸もその可愛い笑顔を見ては癒しを感じて微笑み返した。
美結と陸の家は家族ぐるみで仲が良く、お互いの家に遊びに行くことも多かった。
「じゃあ夕方、家で待ってるね、陸!」
公園で待ち合わせして一緒に通学し、美結の教室の前まで陸が送るー一1時間程度の時間。
一日の中でみればほんの僅かな時間であるが、他愛ない会話をし心地よい時間だった。
二人はこれからもずっと変わらず続くものだと思っていた。
「みんな、おっはよー!」
美結は新しい教室に入ると、仲良しのメンバーの所に駆けて行った。
「美結!」
「おはよー!」
美結が駆け寄った先には、ショートカットで小柄な日向、ロングヘアーの大人っぽい海、そして短髪で華奢な隼人がいた。
「まさか、今年も同じクラスで本当良かった!海と隼人もよく同じクラスになったよねー。」
「本当だよー。でも隼人さ、数学得意なくせに文系にしたんだよ。」
「ちょっと海ー。みんなに言うなよ。」
「隼人は海と離れたくないんだね。」
「まあな。」
海と隼人は高校入学後すぐに付き合ったカップルだった。
互いに高身長で美男美女のお似合いの二人は、校内でも有名だった。
よく喧嘩もするが、ツンツンしたクールな海と人懐こい隼人は相性が良くとても仲が良かった。
「そういえば、美結は陸くんと前よりもクラス離れちゃったね。」
「うん、陸は理系だからね。」
「そんな感じする、陸は頭良さそう。バスケ部のエースだしまじ神だな。」
「理想の彼氏だよねー。」
「ちょっ、お前が言うーそれ。」
勝手に海と隼人が喧嘩をし出すのを美結は苦笑しながら、海の言った五文字の単語に頭を傾げて反応した。
「ん?誰の理想の彼氏?」
「美結のだよ。」
「え?もう、そんなんじゃないってば!」
美結は目を見開くと顔を真っ赤にして、両手を振って取り乱した。
毎朝の登校時の仲睦まじい美結と陸の姿を見れば誰もがそう思わざるを得ないだろうと、三人は思っていた。
長年幼なじみだからだと自分の気持ちに鈍感な美結の姿に、三人は陸に対して同情するのだった。
「そろそろ先生来そうだし、席戻るねー。」
美結は続けて三人にまた何かと陸とのことで揶揄われると察し、逃げるように自分の席に戻っていった。
そしてすぐに担任が入ってくると、号令がかかった。
「起立ー。」
美結は立ち上がった瞬間、久しぶりの早起きに急に眠気が襲いふらつき、机が前に少し動いてしまった。
その物音に、斜め前に座る日向が気付いた。
「美結、大丈夫?」
「ごめん!大丈夫ー!」
「ねぇ、美結。そういえば工が来てないね、まだ。」
礼をした後、日向が小さな声で美結の後ろの席を見つめていった。
「連絡来てないし、いつもの遅刻かなー。」
そして新しいクラスの担任が自己紹介を始めようとした時、教室のドアが勢いよく開いた。
それは、少し大きめのズボンを履き、シャツの胸下もだらしなさそうに制服を着る、茶髪の工だった。
クラス全員から冷ややかな視線を浴びた工だったが、くしゃっと笑って舌を出すと自分の席に座った。
「おい、山崎遅刻だぞー。」
「先生ごめん!寝坊しちゃってさ!」
そしてクラス中に笑われながらも全く反省の顔を見せない工に、担任は元からの工の評判を知ってか諦めた顔で溜息をついた。
「おいおいー。また前の席、美優かよー。」
「しょうがないじゃん、山崎と山本なんだから。」
工は一見不良にみえるものの、中身は楽観的で自由で、美結の仲良しメンバーの一人だった。
そんな工はムードメーカーとして、誰からも好かれていた。
「美結あのさ、これで荷物良かったか中身見てくれない?寝坊して、部屋の中にあるものかき集めて持ってきた。」
「工、テレビのリモコン入ってるよ。」
「まじ!やべ!兄貴、テレビ見れねーな。」
「いや、そこじゃないから。」
美結と工は担任の話も聞かず、美結は後ろを振り向きマイペースな工の荷物確認をして小さな声で笑っていた。
そしていつの間にか、クラス中が騒ついていることに気付く。
「ねぇ、転校生が来るらしいよ。」
「え?まじで?」
「美結、聞いてた?」
「知らないよ。初耳。」
どんな転校生が来るのだろうーとクラスメイトの期待がかかる中、担任が転校生の名を呼んだ。
「紹介する、入ってこい。篠崎。」
教室に転校生が入った瞬間、多くの女子は歓声やら悲鳴を上げた。
転校生は窓からの風に靡く少し長い茶髪に、切れ長の吊り目で非常に整った顔立ちをしていた。
そして先生の横に来ると、外見とは裏腹にふわっと人懐っこく笑顔を見せた。
「篠崎明人です。よろしくお願いします。」
「仲良くしてやってくれな。篠崎の席はあそこな。」
女子だけでなく男子も、明人に向かってイケメンだと好奇な視線を送っていた。
しかし、美結と工を除いては。
「なぁ、美結。あいつって……。」
工は転校生の名前を聞いた時、背中がゾクッとし冷汗が出るのを感じていた。
そしてすかさず美結の右肩を叩いたが、振り向くことはなかった。
「明人…。どうして?」
美結は目を見開いて固まってており、早速周りの生徒から歓迎される明人の姿をただ見つめていた。
※新連載始めました☺︎
3年前に完結したものを編集して投稿しています。
主人公には三人の男の子が取り巻くのですが、私の推しは工です!
作者が推しとかダメですね(笑)
雑文ですがどうぞよろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる