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エピローグ

白いストックの花

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二国の戦争が終わって、二年半の月日が経とうとしていた時のことである。
どちらの国もすっかり穏やかさを取り戻し、四季は秋が終わろうとしていた。

王都ハルクを去ったセラには一年に一度だけ、離れて過ごす家族が集まる日があった。
それは大切な亡き母親シェリーの命日だった。

しかし今年のシェリーの命日セラは、旅の途中でトラブルに巻き込まれてしまった。
セラはシェリーの命日の翌日、シェリーの眠る墓地に辿り着いた。

シェリーの墓地は町外れの辺鄙な場所にあったが、常に雑草一つなく綺麗に整えられていた。
テン王様が自ら臣下に命令してシェリーの墓地を整えており、それはいずれ王権をカラに譲ってもずっと受け継がせていくとテン王様は話していた。

シェリーの墓地は既に大量の白百合の花で覆われ、墓石の前に赤色のバラが一輪あった。
毎年恒例のこの風景だが、今日は赤いバラの花の隣に一輪の白い花が置いてあることをセラは気付いた。

「この花は、ストック?」

セラは墓前に置いてあった白いストックの花を摘み、周りを見渡した。
するとシェリーの墓前の影に、飴玉柄の小さなショルダーバッグが落ちていた。

セラがバッグを拾おうと手にしようとした時、幼い少女の声が聞こえた。
そしてどこからともなくセラの前に小さな幼い少女が現れた。

「それ、私のバッグ。」

少女はクリクリの大きな碧色の目に、綺麗な金色の髪をツインテールにして結んでいた。
そして少女は辿々しい言葉で、自分のものであるバッグを指差して言ったのである。

「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」

セラが跪いて小さな少女にバッグを渡すと、少女は両頬の笑窪を上げクシャッと笑った。
少女の笑顔は、何十年前に自分が見つけた大切な人によく似けいるとセラは思った。

そしてセラは思わず、少女が首にかけていた藍色のアクアマリン石のネックレスに目が釘付けになった。

『お母様からもらったネックレスをなぜ、この子がしているんだ?まさか。』

セラはシェリーの墓前にある白いストックの花を手に取ると、その花を見て思い出す愛する人への懐かしい想いを馳せた。
少女はセラの光景を見て、不思議そうな顔付きで言った。

「その花、ママが置いたのよ。」
「ママ?」
「…サン!」

高くこだまする声が聞こえセラがゆっくりと振り向くと、少女の笑顔に似た人物がその場に立ち尽くしていた。

「レイ!」

少女の名前を呼んだのは、亜麻色の長い髪を揺らしたレイだったのだ。
セラとサンの下に走ってきたレイは息を荒げ、胸を抑えてしゃがみ込んだ。

セラはサンの手を取ってレイの下に駆け寄り、跪いてレイと見つめ合った。 
サンはレイの下に戻ると、セラの手を離してレイの背中に隠れた。

「レイ、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと心臓が悪くてね。」

レイは呼吸を整え、振り返ってサンの髪を撫でながら呟いた。

「ねぇ、セラ。サンはお父様に似た髪と目の色なのよ。」

そう言ったレイはセラに優しく微笑んでいた。
金髪碧目のサンの外観は、鏡に映る自分によく似ているとセラは自嘲しながらも戸惑っていた。

「レオも…まだ一緒にいるのかい?」
「レオは、私が妊娠してから側で助けてくれたけど、産後落ち着いてからは自分の実家に戻ったわ。この子は…その。正真正銘、セラの子供よ。」

セラはレイの言葉を聞くと安堵し、改めて愛くるしい我が子を見つめた。
そしてそのままレイとサンを包み込むように抱きしめて言った。

「レイ、サン。ずっと会いたかった…。」
「私も…。」


それから三人は近くにあるレイの小さな平屋へと向かった。
すっかりセラに懐いたサンは、セラから肩車してもらっていた。

「ここの花畑はレイが?」
「そうよ。サンと生きていくためにね。」

家の周りには色とりどりの花畑が広がっており、レイは生計のために細々と花を作って売ってるようだった。

レイの家に入ると昼飯用に用意してあったサンドウィッチを三人で食べた。
セラはこの二年間、ティナ島中を旅し、いろんな街で多くの人と出会ったことを話した。
そしてセラは旅の中でずっとレイを探し回っていたことを告げ、出会ってからいくつか疑問に思っていたことをレイに聞いた。

「どうして去年まで、私は母親の墓前の近くにレイが住んでいることを気づかなかったんだろう?」
「それは…ね。私たち、お母さんのところにお世話になっていたの。お母さんの実家は立派な領家で、ここも今年の春から領地を借りて家を建ててもらったの。随分とお世話になってしまったわ。」

自分のせいで危ない目に遭ってしまったナタリーに頼ることは、申し訳ないことであったとレイは思っていた。
しかしレイはアデナ城への帰りに切迫早産となり、母子で命を彷徨ってしまっていた。
レイの命はサンの聖力が救ったのだが、レイは後遺症が残り心臓を悪くしてしまった。

そんなレイにレオだけでなく、ナタリーもエルベラに呼び寄せられ、産後の母子を助けてくれたのだ。

ちなみにサンは母親の命を救う際に持って生まれた大きな力を使ったことで、大聖女になる道が閉ざされてしまった。
しかしそのおかげで母親であるレイと引き離されて別れることなく、共に生きていくことができた。

「でもレイ。私からの手紙は届いてた?」
「ええ、届いていたわ。ごめんなさい、手紙は返せなかった。なかなか体調が落ち着かなくて、自分はいつ死んでもおかしくないと思っていたの。またセラと再会して、三度目の別れを経験するのは考えるだけで辛かった。」
「レイ…。私はそれでも、もっと早くレイに会いたかった。苦労をかけてしまって、申し訳ない。」

セラはそう言うと頭を下げ、レイは涙が込み上げてくるのをグッと抑えた。
この二年間、レイとセラは遠く離れた場所でも互いを思い合っていた。

「レイ、まだ白いストックの花は外に咲いてる?」
「ええ。」
「一輪だけ、取ってきてもいいかい?」

セラはそう言うと、家を出ると花畑から一輪の白いストックの花を取ってきた。
そして寝てしまったサンの髪を優しく撫でていたレイの前にセラは跪き、ストックの花を差し出した。

「レイ。私の子供を産んでくれてありがとう。結婚して欲しい。」
「もちろん、喜んで。」

ストックの花を受け取ったレイは満面の笑みでセラを見つめた。
そしてストックの花に込められた逸話を思い出し、レイは目を瞑った。

『私はセラとの愛を貫くことができた。』

セラはレイの身体を柔らかく抱き寄せると、深い接吻を交わした。
そして二人は互いを労わりながら、サント三人で末長く幸福に暮らしていったのである。


brrilance  fin.





この度は最後までご閲覧いただき誠にありがとうございました。
ビギナーな私の拙い文章をここまで読んでいただき、それだけで本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

この話は数十年前、ロードオブザリングが流行った頃に思い描いていたものです。
ロードオブザリングは恋愛物ではありませんが…笑

レイとセラを悲恋にしようか、実は最後の最後まで迷っていました。
しかし私自身大好きな二人には、後世幸せに生きて欲しいと思いこの結末となりました。

また題名のbrillanceは英語で「光輝な~」という意味ですが、主人公二人だけでなく、許されない想いを抱きながら共に生きてきたマリアやゼロ、決して報われない恋に対して勇敢に主人公を支えたレオやロクなど脇役人物も指しています。
戦争のことはもっと掘り下げて書きたかったのですが、文才がないので皆様のご想像にお任せします。笑

続けて、護衛達の過去や未来を綴った短編を載せていきます。
引き続きよろしくお願いします(^^)
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