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第三幕
ストックに纏わる建国神話①
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約200年前の話である。
アリセナ国とクルート国が顕在するティナ島は、アリセナ族とクルート族が共に見つけた場所だった。
大国リュートで仲が良かった二つの種族だったが、島を見つけてからは領地争いで仲違いしてしまった。
そして二国を挟むように屈強な国境が作られ、二国は敵対するようになってしまった。
「ねぇ、私王女様なんてなんだか照れくさいんだけど。そう思わない?ニオ。」
「そうですね。私もアリッサ王女様と呼び慣れません。」
アリセナ初代国王ソンジェには十七歳の双子の娘ーアンジェラとアリッサというがいた。
姉のアンジェラ王女様は落ち着いていて聡明であるのに対し、妹のアリッサ王女様は明るくお天馬娘だった。
この日も昼過ぎにアリッサ王女様は護衛騎士のニオと和やかにお茶の時間を過ごしていた。
ニオは元々孤児で、幼い頃から傭兵として働いていた腕をソンジェに見初められ、七年前からアリッサ王女様の従者となった。
「アルの魔法が見たいなぁ。ニオもそう思わない?」
「そうですね、でもアリッサ王女様は美味しいお菓子を取り寄せてとか無人島に飛んで行きたいとか、アルト王子様に無茶な魔法を使わせようとして困らせているじゃないですか。」
「いいの。アルはそんな私の無理強いを楽しんでくれるんだもの。次はいつアリセナ国に来てくれるのかしら。」
アル王子様と言うのは、クルート初代国王ケビンの息子、クルート国第二王子様のアルトのことだった。
大人しく穏やかなアルト王子様は、アリッサ王女様が大国にいた頃からの幼馴染だった。
アルト王子様は類稀な強い魔力を持っており、クルート国の次期王様として期待されていた。
アリッサ王女様は自室のバルコニーに出て、遥か遠く、クルート国の王城がある方向へを見つめ手摺に手をかけた。
建国初期のアリセナ国の王城は、アデナ城であった。
アルト王子様は、二国間の仲が険悪になってしまっても、アデナ城にアリッサ王女に会うために来ていのだ。
「アリッサ王女様は、不安にならないのですか?」
「ニオ?なんの不安?」
「アリッサ王女様とアルト王子様の関係がいつか公になってしまうことです。」
「それは…。」
今や敵対してしまった国同士の王女様と王子様が会うことなど、世間では決して許されないだろう。
アリッサ王女様とアルト王子様は、夜中にアリッサ王女様のバルコニーの手摺にロープをかけて密会をしていた。
物心ついた時から想いを寄せ合う若い二人は、ただ会えることだけで幸福で、ニオの心配する将来のことは考えていなかった。
「もし公になってしまったら、アルは国を捨てて私と逃げてくれるのかしら?なんて、物語みたいなこと言っていたらニオに馬鹿にされるわよね。」
「内心馬鹿にしたいですけど、それほどまでにアリッサ王女様はアルト王子様に恋をしているのですね。」
両頬を紅らめて照れている素直なアリッサ王女様の姿に、ニオは胸が苦しくなった。
アリッサ王女様はニオと出会った頃から、自分の存在を差別せずに受け入れて認めてくれた。
ニオは自由奔放なアリッサ王女様に振り回されながらも、その太陽のような明るさに想いを寄せるまで、時間はかからなかった。
「言わなきゃ良かった。」
アルト王子様への恋情に溢れるアリッサ王女様の姿に、ニオは小さな声でそう呟いた。
「アルト。いつまで、隠れてアリセナ国の王女のところに行くんだ?」
「またその話ですか。お兄様。」
同じ時間、クルート国の王城にて。
自室で公務をしていたアルト王子様のところに、第一王子のカレラ王子様が訪問した。
アルト王子様は、第一声からカレラ王子様に小言を言われた。
真面目で堅苦しいカレラ王子様には、アルト王子様が幼馴染に恋焦がれる気持ちを何度伝えても、通じなかった。
今日もまた終着点のない口喧嘩が始まるのかと、アルト王子様は深くため息をついた。
「そろそろお父様に、アルトの密会のことを話そうと思っているところなんだぞ。お前がアリセナ国で捕まったら、この国は一体どうなるんだ。」
「そんなヘマはしませんよ。私には魔力がありますから。」
アルト王子様はそう言うと左手から炎の球を出し、自由自在に動かした。
同じ兄弟ながら珍しい力を持つ弟を、カレラ王子様は内心羨ましく思っていた。
しかしカレラ王子様はアルト王子様に嫉妬心よりも、普段穏やかな割に怖いもの知らずで、恋をしてからは我をも失う言動をしている弟に最近は心底不安に思っていた。
「お前には何を言っても通じないな。そういえばアザミお祖母様がもう長くないらしい。明日、一緒に会いに行かないか?最期お前に大層会いたがってるようだ。」
「アザミお祖母様が。分かりました。」
カレラ王子様の突然の誘いに、アルト王子様は素直に従った。
アザミは父方の祖母で平均寿命を超え長生きしていたが、心臓が悪くなりアデナ城から少し離れた城で療養していた。
「勝手なことはするなよ。本当に。」
カレラ王子様はアルト王子様にそう忠告すると、アルト王子様は部屋を出て行った。
そんな忠告など聞き流すかのようにアルト王子様は、今晩アリッサ王女様の下に行く予定で心待ちにしていた。
いつか訪れるだろう二人の別れを不安に思うことはないほど、アルト王子様は恋に心酔していた。
その晩、白い光の球がアリッサ王女様の窓辺に光った。
それはアルト王子様が城下に来ている合図だった。
アリッサ王女様はバルコニーに出て周りの人気がないことを確認すると、手摺りにロープをかけて地面下に下ろした。
「アリッサ。」
「会いたかったわ。一週間ぶりね。」
ロープを登ったアルト王子様はアリッサ王女様に会うと、その身体を強く抱きしめた。
そして二人は微笑み合い、接吻を交わした。
「今日はどんな話をする?」
アルト王子様がそう言うと、アリッサ王女様はアルト王子様の胸の中に抱かれながら寄り添い、バルコニーのベンチに腰掛けた。
二人は懐かしい昔の話や他愛無い話をして、笑い合った。
アリッサ王女様にとってアルト王子様との密会は、苦手な勉学に励む日々の癒しの時間であった。
「この時間がずっと続けばいいのに。」
「私もそう思ってるよ。」
想い合うアリッサ王女様とアルト王子様の甘い時間が永遠に続かないことを、二人は心のどこかで分かっていた。
お互い切ない想いを抱きながら、アルト王子様はアリッサ王女様の頭を胸元に寄せて優しく撫でた。
「ねぇアル。もし、二つの国が一つになれば私はアルのお嫁さんになれるのかしら?」
「そうだね。でも私は堅苦しい王家に縛られるより、二人で平民になって静かに暮らしたいな。」
「そうね。私は王妃様に向かなそうだし。」
決して叶わない未来を想像しては、アリッサ王女様とアルト王子様で余計に悲しくなってしまった。
アルト王子様はアリッサ王女様を慰めるように、無数の小さな光を出した。
光は蛍のようで、二人の周りを囲んで光り輝いた。
アリッサ王女様はアルト王子様の膝に頭を寄せると、無数の光に向けて両手を伸ばした。
「私がアルに会った日も、こんな夜だったわね。」
「あぁ。あの頃は類稀な魔力を持つ私は周りから異質だと避けられていた。そんな私の魔法を初めて綺麗だと言ってくれたのはアリッサだった。」
アルト王子様はそう言うと、幼き日にアリッサ王女様に出会った日のことを思い返した。
アルト王子様は自分の魔法を受け入れてくれるアリッサ王女様に出会い、その自由奔放な明るさに触れ合っていつしか自信を取り戻していた。
そして周りから受け入れられた魔法は、期待という形で重荷に変わっていった。
あると王子様のそんな息苦しい日々も、アリッサ王女様と共に過ごす幸福な時間が今を生きる希望となっていた。
「アリッサ。愛しているよ。」
「私もよ。アル。」
永遠には叶えられない運命でも、少しでも長く続けばいいとアリッサ王女様とアルト王子様は夜空に願った。
しかし現実は残酷で、二人の幸福な時間はもう終焉に近付いていた。
アリセナ国とクルート国が顕在するティナ島は、アリセナ族とクルート族が共に見つけた場所だった。
大国リュートで仲が良かった二つの種族だったが、島を見つけてからは領地争いで仲違いしてしまった。
そして二国を挟むように屈強な国境が作られ、二国は敵対するようになってしまった。
「ねぇ、私王女様なんてなんだか照れくさいんだけど。そう思わない?ニオ。」
「そうですね。私もアリッサ王女様と呼び慣れません。」
アリセナ初代国王ソンジェには十七歳の双子の娘ーアンジェラとアリッサというがいた。
姉のアンジェラ王女様は落ち着いていて聡明であるのに対し、妹のアリッサ王女様は明るくお天馬娘だった。
この日も昼過ぎにアリッサ王女様は護衛騎士のニオと和やかにお茶の時間を過ごしていた。
ニオは元々孤児で、幼い頃から傭兵として働いていた腕をソンジェに見初められ、七年前からアリッサ王女様の従者となった。
「アルの魔法が見たいなぁ。ニオもそう思わない?」
「そうですね、でもアリッサ王女様は美味しいお菓子を取り寄せてとか無人島に飛んで行きたいとか、アルト王子様に無茶な魔法を使わせようとして困らせているじゃないですか。」
「いいの。アルはそんな私の無理強いを楽しんでくれるんだもの。次はいつアリセナ国に来てくれるのかしら。」
アル王子様と言うのは、クルート初代国王ケビンの息子、クルート国第二王子様のアルトのことだった。
大人しく穏やかなアルト王子様は、アリッサ王女様が大国にいた頃からの幼馴染だった。
アルト王子様は類稀な強い魔力を持っており、クルート国の次期王様として期待されていた。
アリッサ王女様は自室のバルコニーに出て、遥か遠く、クルート国の王城がある方向へを見つめ手摺に手をかけた。
建国初期のアリセナ国の王城は、アデナ城であった。
アルト王子様は、二国間の仲が険悪になってしまっても、アデナ城にアリッサ王女に会うために来ていのだ。
「アリッサ王女様は、不安にならないのですか?」
「ニオ?なんの不安?」
「アリッサ王女様とアルト王子様の関係がいつか公になってしまうことです。」
「それは…。」
今や敵対してしまった国同士の王女様と王子様が会うことなど、世間では決して許されないだろう。
アリッサ王女様とアルト王子様は、夜中にアリッサ王女様のバルコニーの手摺にロープをかけて密会をしていた。
物心ついた時から想いを寄せ合う若い二人は、ただ会えることだけで幸福で、ニオの心配する将来のことは考えていなかった。
「もし公になってしまったら、アルは国を捨てて私と逃げてくれるのかしら?なんて、物語みたいなこと言っていたらニオに馬鹿にされるわよね。」
「内心馬鹿にしたいですけど、それほどまでにアリッサ王女様はアルト王子様に恋をしているのですね。」
両頬を紅らめて照れている素直なアリッサ王女様の姿に、ニオは胸が苦しくなった。
アリッサ王女様はニオと出会った頃から、自分の存在を差別せずに受け入れて認めてくれた。
ニオは自由奔放なアリッサ王女様に振り回されながらも、その太陽のような明るさに想いを寄せるまで、時間はかからなかった。
「言わなきゃ良かった。」
アルト王子様への恋情に溢れるアリッサ王女様の姿に、ニオは小さな声でそう呟いた。
「アルト。いつまで、隠れてアリセナ国の王女のところに行くんだ?」
「またその話ですか。お兄様。」
同じ時間、クルート国の王城にて。
自室で公務をしていたアルト王子様のところに、第一王子のカレラ王子様が訪問した。
アルト王子様は、第一声からカレラ王子様に小言を言われた。
真面目で堅苦しいカレラ王子様には、アルト王子様が幼馴染に恋焦がれる気持ちを何度伝えても、通じなかった。
今日もまた終着点のない口喧嘩が始まるのかと、アルト王子様は深くため息をついた。
「そろそろお父様に、アルトの密会のことを話そうと思っているところなんだぞ。お前がアリセナ国で捕まったら、この国は一体どうなるんだ。」
「そんなヘマはしませんよ。私には魔力がありますから。」
アルト王子様はそう言うと左手から炎の球を出し、自由自在に動かした。
同じ兄弟ながら珍しい力を持つ弟を、カレラ王子様は内心羨ましく思っていた。
しかしカレラ王子様はアルト王子様に嫉妬心よりも、普段穏やかな割に怖いもの知らずで、恋をしてからは我をも失う言動をしている弟に最近は心底不安に思っていた。
「お前には何を言っても通じないな。そういえばアザミお祖母様がもう長くないらしい。明日、一緒に会いに行かないか?最期お前に大層会いたがってるようだ。」
「アザミお祖母様が。分かりました。」
カレラ王子様の突然の誘いに、アルト王子様は素直に従った。
アザミは父方の祖母で平均寿命を超え長生きしていたが、心臓が悪くなりアデナ城から少し離れた城で療養していた。
「勝手なことはするなよ。本当に。」
カレラ王子様はアルト王子様にそう忠告すると、アルト王子様は部屋を出て行った。
そんな忠告など聞き流すかのようにアルト王子様は、今晩アリッサ王女様の下に行く予定で心待ちにしていた。
いつか訪れるだろう二人の別れを不安に思うことはないほど、アルト王子様は恋に心酔していた。
その晩、白い光の球がアリッサ王女様の窓辺に光った。
それはアルト王子様が城下に来ている合図だった。
アリッサ王女様はバルコニーに出て周りの人気がないことを確認すると、手摺りにロープをかけて地面下に下ろした。
「アリッサ。」
「会いたかったわ。一週間ぶりね。」
ロープを登ったアルト王子様はアリッサ王女様に会うと、その身体を強く抱きしめた。
そして二人は微笑み合い、接吻を交わした。
「今日はどんな話をする?」
アルト王子様がそう言うと、アリッサ王女様はアルト王子様の胸の中に抱かれながら寄り添い、バルコニーのベンチに腰掛けた。
二人は懐かしい昔の話や他愛無い話をして、笑い合った。
アリッサ王女様にとってアルト王子様との密会は、苦手な勉学に励む日々の癒しの時間であった。
「この時間がずっと続けばいいのに。」
「私もそう思ってるよ。」
想い合うアリッサ王女様とアルト王子様の甘い時間が永遠に続かないことを、二人は心のどこかで分かっていた。
お互い切ない想いを抱きながら、アルト王子様はアリッサ王女様の頭を胸元に寄せて優しく撫でた。
「ねぇアル。もし、二つの国が一つになれば私はアルのお嫁さんになれるのかしら?」
「そうだね。でも私は堅苦しい王家に縛られるより、二人で平民になって静かに暮らしたいな。」
「そうね。私は王妃様に向かなそうだし。」
決して叶わない未来を想像しては、アリッサ王女様とアルト王子様で余計に悲しくなってしまった。
アルト王子様はアリッサ王女様を慰めるように、無数の小さな光を出した。
光は蛍のようで、二人の周りを囲んで光り輝いた。
アリッサ王女様はアルト王子様の膝に頭を寄せると、無数の光に向けて両手を伸ばした。
「私がアルに会った日も、こんな夜だったわね。」
「あぁ。あの頃は類稀な魔力を持つ私は周りから異質だと避けられていた。そんな私の魔法を初めて綺麗だと言ってくれたのはアリッサだった。」
アルト王子様はそう言うと、幼き日にアリッサ王女様に出会った日のことを思い返した。
アルト王子様は自分の魔法を受け入れてくれるアリッサ王女様に出会い、その自由奔放な明るさに触れ合っていつしか自信を取り戻していた。
そして周りから受け入れられた魔法は、期待という形で重荷に変わっていった。
あると王子様のそんな息苦しい日々も、アリッサ王女様と共に過ごす幸福な時間が今を生きる希望となっていた。
「アリッサ。愛しているよ。」
「私もよ。アル。」
永遠には叶えられない運命でも、少しでも長く続けばいいとアリッサ王女様とアルト王子様は夜空に願った。
しかし現実は残酷で、二人の幸福な時間はもう終焉に近付いていた。
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