19 / 19
エピローグ
しおりを挟む
百合が亡くなって半月が過ぎた。
喪失感を抱きながらも、出産に向けて麗は穏やかな毎日を送っていた。
メイドの琴乃は約束通り変わらず通って来ており、身体に気遣われながら話し相手になってくれた。
百合は多額の財産を残していたが、多量のドレスのデザインも残していた。
百合のおかげで生活は成り立っていたが、麗は料理が得意だったためいつかは自分で生計を立てたいと思っていた。
そして臨月まで数日となった夕方、麗は1日中感じていた下腹部の不規則な張りが激痛へと変わった。
陣痛にしてはもがき苦しむ麗についていた琴乃は救急車を呼び、大病院へと搬送された。
搬送中に大量出血が起き、麗は辿々しい意識で病院へ向かった。
診断は早期胎盤剥離だった。
胎盤は子宮への癒着も強く、母子の状態が悪かったため、すぐに全身麻酔下で手術が行われた。
それから麗は三日間、目を覚まさなかった。
大量出血で生死を彷徨っていたのだ。
麗の夢の中では亡き祖母や母が、赤ちゃんを抱き上げてあやしていた。
そしてある男性が現れ、代わって赤ちゃんを抱きしめて優しく微笑みかけている。
それは愛する静流だったー。
「麗!!!」
麗が目を開けると、白衣を着た人物が赤ちゃんを抱っこしていた。
霞む目をこすり、自分の名を呼ぶ人物を見上げた。
「静流…。」
静流は赤ちゃんを抱いたまま、涙を流していた。
すると赤ちゃんも泣き出した。
その泣いた顔は静流にそっくりで、麗はつい笑みが溢れた。
そして凹んだ下腹部に触れ、恐る恐る聞いた。
「私、無事に出産できたの?」
「あぁ。ただ…子宮はそのまま摘出になっちゃったんだ。」
「そう。よかった。この世に無事に生まれて来てくれたのね。」
麗は静流が抱き上げる赤ちゃんの頰に指を触れた。
赤ちゃんの小さな指が麗の指に触れ、微笑んだ気がした。
そのまま静流が呼んだ主治医や看護師が訪れ、静流達はいなくなってしまった。
そして回診も落ち着き酸素マスクを外した麗の下に、静流は一人でまた部屋を訪れた。
赤ちゃんは新生児室に置いて来たそうだった。
「ねぇ麗。おじいさんから全部聞いたよ。」
「おじいちゃん?」
「心配してアメリカに来てるんだよ。今はホテルで休んでる。」
麗は祖父が自分を気にかけてくれたことに驚いた。
そして静流は少し不機嫌な口調で言うのであった。
「俺と兄弟だと思っていたの?」
「…うん。」
麗はずっと一人抱え込んだ事実の真相に、鼓動が早くなった。
しかし静流は呆れたようにため息をついて言ったのだ。
「俺は確実に父さんの子だよ。血液型が証明してる。なんでそんな誤解、早く言ってくれなかったんだよ。」
「だって…静流がお父さんを慕っているから。本当に静流と血が繋がってるかなんて聞けるわけないじゃない。」
「はぁ。本当に分かってない。もしそれでもいいよ。俺は。血なんて関係ないさ。」
静流はいつも底無し沼のような無垢な優しさを自分に抱いてくれる。
そして静流は麗に近付き、深く抱き締めると言った。
「こうやって血の繋がりのない麗のことだってずっと愛しているんだから。もう離れたいなんて言わせないからな。二人で子供を幸せにしよう。」
「ありがとう、静流。よろしくお願いします。」
麗が涙を堪えながらそう言うと、二人は深く接吻をした。
赤ちゃんの泣き声が遠くから聞こえた気がした。
お互い嘘をついて何度も別れを繰り返し、ここまできた。
しかし静流がずっと想ってくれたことだけは信用できる。
麗も静流への深い愛を誓い、二人はようやく共に生きていくのであった。
fin
作者により紆余曲折された二人でした。笑
静流のようにいつまでも純粋に自分を思ってくれる人と出会えたら幸せですよね。
ここまでご閲覧してくださった方、誠にありがとうございました♡
2021年恋愛大賞、エタニティ賞に応募中です(^^)
喪失感を抱きながらも、出産に向けて麗は穏やかな毎日を送っていた。
メイドの琴乃は約束通り変わらず通って来ており、身体に気遣われながら話し相手になってくれた。
百合は多額の財産を残していたが、多量のドレスのデザインも残していた。
百合のおかげで生活は成り立っていたが、麗は料理が得意だったためいつかは自分で生計を立てたいと思っていた。
そして臨月まで数日となった夕方、麗は1日中感じていた下腹部の不規則な張りが激痛へと変わった。
陣痛にしてはもがき苦しむ麗についていた琴乃は救急車を呼び、大病院へと搬送された。
搬送中に大量出血が起き、麗は辿々しい意識で病院へ向かった。
診断は早期胎盤剥離だった。
胎盤は子宮への癒着も強く、母子の状態が悪かったため、すぐに全身麻酔下で手術が行われた。
それから麗は三日間、目を覚まさなかった。
大量出血で生死を彷徨っていたのだ。
麗の夢の中では亡き祖母や母が、赤ちゃんを抱き上げてあやしていた。
そしてある男性が現れ、代わって赤ちゃんを抱きしめて優しく微笑みかけている。
それは愛する静流だったー。
「麗!!!」
麗が目を開けると、白衣を着た人物が赤ちゃんを抱っこしていた。
霞む目をこすり、自分の名を呼ぶ人物を見上げた。
「静流…。」
静流は赤ちゃんを抱いたまま、涙を流していた。
すると赤ちゃんも泣き出した。
その泣いた顔は静流にそっくりで、麗はつい笑みが溢れた。
そして凹んだ下腹部に触れ、恐る恐る聞いた。
「私、無事に出産できたの?」
「あぁ。ただ…子宮はそのまま摘出になっちゃったんだ。」
「そう。よかった。この世に無事に生まれて来てくれたのね。」
麗は静流が抱き上げる赤ちゃんの頰に指を触れた。
赤ちゃんの小さな指が麗の指に触れ、微笑んだ気がした。
そのまま静流が呼んだ主治医や看護師が訪れ、静流達はいなくなってしまった。
そして回診も落ち着き酸素マスクを外した麗の下に、静流は一人でまた部屋を訪れた。
赤ちゃんは新生児室に置いて来たそうだった。
「ねぇ麗。おじいさんから全部聞いたよ。」
「おじいちゃん?」
「心配してアメリカに来てるんだよ。今はホテルで休んでる。」
麗は祖父が自分を気にかけてくれたことに驚いた。
そして静流は少し不機嫌な口調で言うのであった。
「俺と兄弟だと思っていたの?」
「…うん。」
麗はずっと一人抱え込んだ事実の真相に、鼓動が早くなった。
しかし静流は呆れたようにため息をついて言ったのだ。
「俺は確実に父さんの子だよ。血液型が証明してる。なんでそんな誤解、早く言ってくれなかったんだよ。」
「だって…静流がお父さんを慕っているから。本当に静流と血が繋がってるかなんて聞けるわけないじゃない。」
「はぁ。本当に分かってない。もしそれでもいいよ。俺は。血なんて関係ないさ。」
静流はいつも底無し沼のような無垢な優しさを自分に抱いてくれる。
そして静流は麗に近付き、深く抱き締めると言った。
「こうやって血の繋がりのない麗のことだってずっと愛しているんだから。もう離れたいなんて言わせないからな。二人で子供を幸せにしよう。」
「ありがとう、静流。よろしくお願いします。」
麗が涙を堪えながらそう言うと、二人は深く接吻をした。
赤ちゃんの泣き声が遠くから聞こえた気がした。
お互い嘘をついて何度も別れを繰り返し、ここまできた。
しかし静流がずっと想ってくれたことだけは信用できる。
麗も静流への深い愛を誓い、二人はようやく共に生きていくのであった。
fin
作者により紆余曲折された二人でした。笑
静流のようにいつまでも純粋に自分を思ってくれる人と出会えたら幸せですよね。
ここまでご閲覧してくださった方、誠にありがとうございました♡
2021年恋愛大賞、エタニティ賞に応募中です(^^)
0
お気に入りに追加
23
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ after story
けいこ
恋愛
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~
のafter storyになります😃
よろしければぜひ、本編を読んで頂いた後にご覧下さい🌸🌸
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる