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エピローグ
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百合が亡くなって半月が過ぎた。
喪失感を抱きながらも、出産に向けて麗は穏やかな毎日を送っていた。
メイドの琴乃は約束通り変わらず通って来ており、身体に気遣われながら話し相手になってくれた。
百合は多額の財産を残していたが、多量のドレスのデザインも残していた。
百合のおかげで生活は成り立っていたが、麗は料理が得意だったためいつかは自分で生計を立てたいと思っていた。
そして臨月まで数日となった夕方、麗は1日中感じていた下腹部の不規則な張りが激痛へと変わった。
陣痛にしてはもがき苦しむ麗についていた琴乃は救急車を呼び、大病院へと搬送された。
搬送中に大量出血が起き、麗は辿々しい意識で病院へ向かった。
診断は早期胎盤剥離だった。
胎盤は子宮への癒着も強く、母子の状態が悪かったため、すぐに全身麻酔下で手術が行われた。
それから麗は三日間、目を覚まさなかった。
大量出血で生死を彷徨っていたのだ。
麗の夢の中では亡き祖母や母が、赤ちゃんを抱き上げてあやしていた。
そしてある男性が現れ、代わって赤ちゃんを抱きしめて優しく微笑みかけている。
それは愛する静流だったー。
「麗!!!」
麗が目を開けると、白衣を着た人物が赤ちゃんを抱っこしていた。
霞む目をこすり、自分の名を呼ぶ人物を見上げた。
「静流…。」
静流は赤ちゃんを抱いたまま、涙を流していた。
すると赤ちゃんも泣き出した。
その泣いた顔は静流にそっくりで、麗はつい笑みが溢れた。
そして凹んだ下腹部に触れ、恐る恐る聞いた。
「私、無事に出産できたの?」
「あぁ。ただ…子宮はそのまま摘出になっちゃったんだ。」
「そう。よかった。この世に無事に生まれて来てくれたのね。」
麗は静流が抱き上げる赤ちゃんの頰に指を触れた。
赤ちゃんの小さな指が麗の指に触れ、微笑んだ気がした。
そのまま静流が呼んだ主治医や看護師が訪れ、静流達はいなくなってしまった。
そして回診も落ち着き酸素マスクを外した麗の下に、静流は一人でまた部屋を訪れた。
赤ちゃんは新生児室に置いて来たそうだった。
「ねぇ麗。おじいさんから全部聞いたよ。」
「おじいちゃん?」
「心配してアメリカに来てるんだよ。今はホテルで休んでる。」
麗は祖父が自分を気にかけてくれたことに驚いた。
そして静流は少し不機嫌な口調で言うのであった。
「俺と兄弟だと思っていたの?」
「…うん。」
麗はずっと一人抱え込んだ事実の真相に、鼓動が早くなった。
しかし静流は呆れたようにため息をついて言ったのだ。
「俺は確実に父さんの子だよ。血液型が証明してる。なんでそんな誤解、早く言ってくれなかったんだよ。」
「だって…静流がお父さんを慕っているから。本当に静流と血が繋がってるかなんて聞けるわけないじゃない。」
「はぁ。本当に分かってない。もしそれでもいいよ。俺は。血なんて関係ないさ。」
静流はいつも底無し沼のような無垢な優しさを自分に抱いてくれる。
そして静流は麗に近付き、深く抱き締めると言った。
「こうやって血の繋がりのない麗のことだってずっと愛しているんだから。もう離れたいなんて言わせないからな。二人で子供を幸せにしよう。」
「ありがとう、静流。よろしくお願いします。」
麗が涙を堪えながらそう言うと、二人は深く接吻をした。
赤ちゃんの泣き声が遠くから聞こえた気がした。
お互い嘘をついて何度も別れを繰り返し、ここまできた。
しかし静流がずっと想ってくれたことだけは信用できる。
麗も静流への深い愛を誓い、二人はようやく共に生きていくのであった。
fin
作者により紆余曲折された二人でした。笑
静流のようにいつまでも純粋に自分を思ってくれる人と出会えたら幸せですよね。
ここまでご閲覧してくださった方、誠にありがとうございました♡
2021年恋愛大賞、エタニティ賞に応募中です(^^)
喪失感を抱きながらも、出産に向けて麗は穏やかな毎日を送っていた。
メイドの琴乃は約束通り変わらず通って来ており、身体に気遣われながら話し相手になってくれた。
百合は多額の財産を残していたが、多量のドレスのデザインも残していた。
百合のおかげで生活は成り立っていたが、麗は料理が得意だったためいつかは自分で生計を立てたいと思っていた。
そして臨月まで数日となった夕方、麗は1日中感じていた下腹部の不規則な張りが激痛へと変わった。
陣痛にしてはもがき苦しむ麗についていた琴乃は救急車を呼び、大病院へと搬送された。
搬送中に大量出血が起き、麗は辿々しい意識で病院へ向かった。
診断は早期胎盤剥離だった。
胎盤は子宮への癒着も強く、母子の状態が悪かったため、すぐに全身麻酔下で手術が行われた。
それから麗は三日間、目を覚まさなかった。
大量出血で生死を彷徨っていたのだ。
麗の夢の中では亡き祖母や母が、赤ちゃんを抱き上げてあやしていた。
そしてある男性が現れ、代わって赤ちゃんを抱きしめて優しく微笑みかけている。
それは愛する静流だったー。
「麗!!!」
麗が目を開けると、白衣を着た人物が赤ちゃんを抱っこしていた。
霞む目をこすり、自分の名を呼ぶ人物を見上げた。
「静流…。」
静流は赤ちゃんを抱いたまま、涙を流していた。
すると赤ちゃんも泣き出した。
その泣いた顔は静流にそっくりで、麗はつい笑みが溢れた。
そして凹んだ下腹部に触れ、恐る恐る聞いた。
「私、無事に出産できたの?」
「あぁ。ただ…子宮はそのまま摘出になっちゃったんだ。」
「そう。よかった。この世に無事に生まれて来てくれたのね。」
麗は静流が抱き上げる赤ちゃんの頰に指を触れた。
赤ちゃんの小さな指が麗の指に触れ、微笑んだ気がした。
そのまま静流が呼んだ主治医や看護師が訪れ、静流達はいなくなってしまった。
そして回診も落ち着き酸素マスクを外した麗の下に、静流は一人でまた部屋を訪れた。
赤ちゃんは新生児室に置いて来たそうだった。
「ねぇ麗。おじいさんから全部聞いたよ。」
「おじいちゃん?」
「心配してアメリカに来てるんだよ。今はホテルで休んでる。」
麗は祖父が自分を気にかけてくれたことに驚いた。
そして静流は少し不機嫌な口調で言うのであった。
「俺と兄弟だと思っていたの?」
「…うん。」
麗はずっと一人抱え込んだ事実の真相に、鼓動が早くなった。
しかし静流は呆れたようにため息をついて言ったのだ。
「俺は確実に父さんの子だよ。血液型が証明してる。なんでそんな誤解、早く言ってくれなかったんだよ。」
「だって…静流がお父さんを慕っているから。本当に静流と血が繋がってるかなんて聞けるわけないじゃない。」
「はぁ。本当に分かってない。もしそれでもいいよ。俺は。血なんて関係ないさ。」
静流はいつも底無し沼のような無垢な優しさを自分に抱いてくれる。
そして静流は麗に近付き、深く抱き締めると言った。
「こうやって血の繋がりのない麗のことだってずっと愛しているんだから。もう離れたいなんて言わせないからな。二人で子供を幸せにしよう。」
「ありがとう、静流。よろしくお願いします。」
麗が涙を堪えながらそう言うと、二人は深く接吻をした。
赤ちゃんの泣き声が遠くから聞こえた気がした。
お互い嘘をついて何度も別れを繰り返し、ここまできた。
しかし静流がずっと想ってくれたことだけは信用できる。
麗も静流への深い愛を誓い、二人はようやく共に生きていくのであった。
fin
作者により紆余曲折された二人でした。笑
静流のようにいつまでも純粋に自分を思ってくれる人と出会えたら幸せですよね。
ここまでご閲覧してくださった方、誠にありがとうございました♡
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