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星降る夜に
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「キース様、一体どこにいくんですか?もう夜も更けてきましたよ。私、疲れていて眠いです。」
「夜更け…だからこそ向かってるんだ。大丈夫、眠気も吹っ飛ぶだろうから。」
眠い目を擦りながら、私はキースに強引に連れられ、邸宅の裏の森を歩いた。
そして森を抜けとようとしたところで、私はキースから両手で目隠しをされた。
「着いたよ。ほら、ルーナ。目を開けてごらん。」
「これは…。」
「今日は一年に一度、流星群が観れる日なんだ。」
私達がたどり着いたのは、小さな湖だった。
湖面には、夜空をかける無数の流星群が反射していた。
「綺麗。まるで、星が湖に落ちているようです。」
そういえば、マヤが明日は格別だと言っていたのを思い出す。
それはきっと、この流星群のことだったのだろう。
「今年は、ルーナと一緒にこの場所で、流星群を観たいと思っていたんだよ。だから、ヒューズ侯爵の結婚式にルーナを連れて来たんだ。」
ヒューズ侯爵の結婚式は、エレンの予測した通り、気持ちが揺れ動くものだった。
キースがこのために結婚式に連れ出したことを知り、私は胸が熱くなった。
「ルーナ。一緒に、船に乗ろう。」
キースはそう言って私の手を取ると、湖畔に用意されていた小舟へ乗った。
「キース様、すごい。船を漕げるんですね。」
「あぁ。小舟ならなんとかね。」
そして私の後ろでキースは舵を取り、船をゆっくりと前へ進めた。
「綺麗ですね。本当に。この世のものとは思えない。」
「あぁ、私も今まで観た景色の中で一番綺麗だと思う。ルーナと一緒に見れて、本当に良かった。」
「キース様…連れて来ていただいてありがとうございます。」
絶景に圧倒され、私は感動していた。
そして湖の中心に来ると、キースは舵を取る手を止めた。
キースは静かに、私の身体を後ろから包みこむように抱きしめた。
「…ルーナはもう、望みはないと言っていたね。」
「そうですね…。」
「今もまだ、望みはないかい?」
望みなど、もう二度と願うことはないと思っていた。
私はキースの華奢な手の上に、自分の両手を重ねた。
背中からキースの居心地の良い温もりを感じる。
私は端正なキースの顔を見上げた。
「これは望みとは違うのかもしれませんが、一つだけ思いつきました。」
「なんだい?」
「…このまま時間が止まればいいのに。」
それは、切な願いだった。
キースと寄り添って星空を眺められるこの瞬間が、とても幸せだと思った。
そして今の私にはその言葉でしか、キースへの想いを言い表すことができなかった。
「ルーナ。私も同じことを思っていたよ。」
そう言ってキースは微笑むと、私を抱きしめる手に力を込めた。
キースと抱き合えば、気持ちが和らぎ、温かくなった。
しかし私の胸はまた強く締め付けられ、苦しくなっていた。
「ルーナ、もしかして泣いてる?」
「え…?」
そして私の頬には、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
無自覚であった。
きっと、キースへの想いが溢れて心が耐えきれなくなったんだと感じた。
この想いを言葉にすればきっともっと苦しむことになるんだろうと、私はずっと無意識に隠していたんだと思う。
キースは私のことを愛さないだろう。
欲望を叶えるために、私を選んだ。
私達の関係は、契約婚のようなもの。
キースに期待はしていないからこそ、お互い楽な関係でいられた。
一生このままで、いいはずだった。
きっかけははっきりと分からなくて。
私を決して愛することがないキースを、私はいつの間にか好きになっていた。
一生叶わないだろう恋を自覚するのは、とても怖かった。
私は涙を拭うとキースと向き合い、アイスブルーの瞳をじっと見つめた。
今日だけは、今この瞬間だけは、私だけがキースの瞳に写ってほしいと思えた。
「ルーナ。」
静かな湖に、キースが私の名を呼ぶ心地よい声色が響く。
そして一瞬のうちに私の視界は、キースだけのものになっていた。
「…キース様。」
キースは私に、お互いの唇が触れるだけの軽いキスをしたのだ。
私は高鳴る胸を抑えて、キースの胸の中に抱きついた。
そしてしばらくして落ち着くと、キースを見上げた。
キースは目を細めて意地悪な表情をしていた。
「ルーナ。まだ、足りない。」
そして星空の下で、まるで互いを求め合うかのように、私たちは何度も何度も激しくキスをした。
「夜更け…だからこそ向かってるんだ。大丈夫、眠気も吹っ飛ぶだろうから。」
眠い目を擦りながら、私はキースに強引に連れられ、邸宅の裏の森を歩いた。
そして森を抜けとようとしたところで、私はキースから両手で目隠しをされた。
「着いたよ。ほら、ルーナ。目を開けてごらん。」
「これは…。」
「今日は一年に一度、流星群が観れる日なんだ。」
私達がたどり着いたのは、小さな湖だった。
湖面には、夜空をかける無数の流星群が反射していた。
「綺麗。まるで、星が湖に落ちているようです。」
そういえば、マヤが明日は格別だと言っていたのを思い出す。
それはきっと、この流星群のことだったのだろう。
「今年は、ルーナと一緒にこの場所で、流星群を観たいと思っていたんだよ。だから、ヒューズ侯爵の結婚式にルーナを連れて来たんだ。」
ヒューズ侯爵の結婚式は、エレンの予測した通り、気持ちが揺れ動くものだった。
キースがこのために結婚式に連れ出したことを知り、私は胸が熱くなった。
「ルーナ。一緒に、船に乗ろう。」
キースはそう言って私の手を取ると、湖畔に用意されていた小舟へ乗った。
「キース様、すごい。船を漕げるんですね。」
「あぁ。小舟ならなんとかね。」
そして私の後ろでキースは舵を取り、船をゆっくりと前へ進めた。
「綺麗ですね。本当に。この世のものとは思えない。」
「あぁ、私も今まで観た景色の中で一番綺麗だと思う。ルーナと一緒に見れて、本当に良かった。」
「キース様…連れて来ていただいてありがとうございます。」
絶景に圧倒され、私は感動していた。
そして湖の中心に来ると、キースは舵を取る手を止めた。
キースは静かに、私の身体を後ろから包みこむように抱きしめた。
「…ルーナはもう、望みはないと言っていたね。」
「そうですね…。」
「今もまだ、望みはないかい?」
望みなど、もう二度と願うことはないと思っていた。
私はキースの華奢な手の上に、自分の両手を重ねた。
背中からキースの居心地の良い温もりを感じる。
私は端正なキースの顔を見上げた。
「これは望みとは違うのかもしれませんが、一つだけ思いつきました。」
「なんだい?」
「…このまま時間が止まればいいのに。」
それは、切な願いだった。
キースと寄り添って星空を眺められるこの瞬間が、とても幸せだと思った。
そして今の私にはその言葉でしか、キースへの想いを言い表すことができなかった。
「ルーナ。私も同じことを思っていたよ。」
そう言ってキースは微笑むと、私を抱きしめる手に力を込めた。
キースと抱き合えば、気持ちが和らぎ、温かくなった。
しかし私の胸はまた強く締め付けられ、苦しくなっていた。
「ルーナ、もしかして泣いてる?」
「え…?」
そして私の頬には、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
無自覚であった。
きっと、キースへの想いが溢れて心が耐えきれなくなったんだと感じた。
この想いを言葉にすればきっともっと苦しむことになるんだろうと、私はずっと無意識に隠していたんだと思う。
キースは私のことを愛さないだろう。
欲望を叶えるために、私を選んだ。
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一生このままで、いいはずだった。
きっかけははっきりと分からなくて。
私を決して愛することがないキースを、私はいつの間にか好きになっていた。
一生叶わないだろう恋を自覚するのは、とても怖かった。
私は涙を拭うとキースと向き合い、アイスブルーの瞳をじっと見つめた。
今日だけは、今この瞬間だけは、私だけがキースの瞳に写ってほしいと思えた。
「ルーナ。」
静かな湖に、キースが私の名を呼ぶ心地よい声色が響く。
そして一瞬のうちに私の視界は、キースだけのものになっていた。
「…キース様。」
キースは私に、お互いの唇が触れるだけの軽いキスをしたのだ。
私は高鳴る胸を抑えて、キースの胸の中に抱きついた。
そしてしばらくして落ち着くと、キースを見上げた。
キースは目を細めて意地悪な表情をしていた。
「ルーナ。まだ、足りない。」
そして星空の下で、まるで互いを求め合うかのように、私たちは何度も何度も激しくキスをした。
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