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憧れの人
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それから私も入浴に行き、その帰りに少し涼もうと、ホールのベランダに出た。
ベランダから見える夜景に、私は息を飲んだ。
「田舎の夜空は綺麗だろう。王都とはまた違った魅力がある。それに明日はまた格別なんだがな。」
「ヒューズ侯爵様。」
「ルーナ様、ちょっと二人で話さないか?」
その場で立ち尽くしている私に声をかけたのは、マヤだった。
「キース王子殿下とは仲が良いんだね。ルーナ。」
「…そうですね。あの、ヒューズ侯爵も恋愛結婚だと伺いました。馴れ初めを聞いても?」
「あぁ。いいよ。」
私はなんだかマヤとはキースの話をしたくなくて、ついエレンが興味を示していたことを話題に上げた。
そんな私にマヤは、頬を緩めながら夫との馴れ初めを丁寧に話してくれた。
マヤと夫は、長年友人関係だった。
夫はマヤの良き理解者でありパートナーになることを望んでいた。
しかし夫は長子であったため、家督を弟に譲れる環境を整えてから、マヤにプロポーズをしたのだった。
「…素敵でした。そんな小説のような話があるんですね。」
「ははは、小説みたいか。表向きには婚期を逃した私を拾ってくれた、大親友さ。」
そう微笑むマヤは、満たされているようだった。
私はマヤから幸せを分けてもらえた気分になった。
「キース王子殿下も、愛する人を見つけたようで良かったよ。」
「そう…ですか。」
マヤは世間からの反応と同じように、私たちの関係を誤解しているようだった。
私は諭されないよう、必死に笑みを作っていた。
「ここだけの話、キース王子殿下は拗れてるだろう?」
「拗れてる…?」
「キース王子殿下は小さい頃から、母親を虐める貴族が嫌いでな。だから、あまり良くない噂が立つこともしていたんだ。」
「そうだったんですね。」
確かに、何故キースに悪い噂があるのか不思議に思うことはあった。
キースと一緒に過ごしていると、キースの余裕のある佇まいからは、ただの好色家だとは思えなかった。
「しかしルーナ様と婚約してから、一途にルーナ様だけを愛していると知って安心したよ。きっと、ルーナ様がキース王子殿下を本当に想っておられるのだろう。」
キースが私と結婚を決めた理由を思い浮かべると、私はマヤに返す言葉が思い浮かばなかった。
そして私は胸がギュッと締め付けられるように、苦しくなっていることに気付いた。
その理由が何故か、今の私には分からなかった。
それから他愛のない話をマヤと交わし、私は貴賓室へと戻った。
キースはまだ帰っていなかった。
私はわざと心揺さぶられるこの感情と向き合うことはせず、ベッドに横たわり目を瞑り眠りの世界に落ちた。
そして翌日、マヤの結婚式が行われた。
着飾ったマヤは飛び切り綺麗で、本当に幸せそうだった。
そんなマヤの姿を見つめるキースの視線はどこか切なげで、私の胸はまた痛むのであった。
「素敵な結婚式でしたね。」
「あぁ…本当に素敵だった。」
結婚式、舞踏会とあっという間に時間は過ぎ、日が落ちかけていた。
貴賓室に戻り私はベッドに座って、ベッドに横たわるキースの姿を眺めていた。
いつも賑やかなキースだが、今日は口数も少なく落ち着いていた。
「キース様が、ヒューズ侯爵に恋をした理由が分かった気がします。」
「ん?私がヒューズ侯爵に恋?」
私はつい何も考えずに、キースに本音を吐露していた。
キースは私の方を振り返ると、呆気に取られた表情をしていた。
「誰から聞いた?エレンか?リュートか?」
「ふふ。誰でもいいじゃないですか。本当のことでしょう。」
「いや…。」
キースは身体を起こすと、私の隣にかけた。
そして鼻で笑うと、私の右手に自分の指を絡めた。
「それは誤解だな。」
「え?」
「ヒューズ侯爵には、ずっと憧れていたんだ。いつも考え方がかっこよくて心が広くて思いやりがあって、あんな人間になりたいと思っていた。」
キースはそう言うと微笑み、急に私と繋いだ手を引いた。
私は体勢を崩し、そのままキースの上に覆い被さるようにベッドに倒れた。
「可愛いな、ルーナ。」
そう言って、キースは私の頭を優しく撫でていた。
私はなんて勘違いをして物思いに耽っていたのだと、恥ずかしくなりキースの胸に顔を埋めて隠していた。
しばらくそうしているうちに睡魔が襲って来た私に、キースは言った。
「ルーナ、一緒に来て欲しいところがあるんだ。」
ベランダから見える夜景に、私は息を飲んだ。
「田舎の夜空は綺麗だろう。王都とはまた違った魅力がある。それに明日はまた格別なんだがな。」
「ヒューズ侯爵様。」
「ルーナ様、ちょっと二人で話さないか?」
その場で立ち尽くしている私に声をかけたのは、マヤだった。
「キース王子殿下とは仲が良いんだね。ルーナ。」
「…そうですね。あの、ヒューズ侯爵も恋愛結婚だと伺いました。馴れ初めを聞いても?」
「あぁ。いいよ。」
私はなんだかマヤとはキースの話をしたくなくて、ついエレンが興味を示していたことを話題に上げた。
そんな私にマヤは、頬を緩めながら夫との馴れ初めを丁寧に話してくれた。
マヤと夫は、長年友人関係だった。
夫はマヤの良き理解者でありパートナーになることを望んでいた。
しかし夫は長子であったため、家督を弟に譲れる環境を整えてから、マヤにプロポーズをしたのだった。
「…素敵でした。そんな小説のような話があるんですね。」
「ははは、小説みたいか。表向きには婚期を逃した私を拾ってくれた、大親友さ。」
そう微笑むマヤは、満たされているようだった。
私はマヤから幸せを分けてもらえた気分になった。
「キース王子殿下も、愛する人を見つけたようで良かったよ。」
「そう…ですか。」
マヤは世間からの反応と同じように、私たちの関係を誤解しているようだった。
私は諭されないよう、必死に笑みを作っていた。
「ここだけの話、キース王子殿下は拗れてるだろう?」
「拗れてる…?」
「キース王子殿下は小さい頃から、母親を虐める貴族が嫌いでな。だから、あまり良くない噂が立つこともしていたんだ。」
「そうだったんですね。」
確かに、何故キースに悪い噂があるのか不思議に思うことはあった。
キースと一緒に過ごしていると、キースの余裕のある佇まいからは、ただの好色家だとは思えなかった。
「しかしルーナ様と婚約してから、一途にルーナ様だけを愛していると知って安心したよ。きっと、ルーナ様がキース王子殿下を本当に想っておられるのだろう。」
キースが私と結婚を決めた理由を思い浮かべると、私はマヤに返す言葉が思い浮かばなかった。
そして私は胸がギュッと締め付けられるように、苦しくなっていることに気付いた。
その理由が何故か、今の私には分からなかった。
それから他愛のない話をマヤと交わし、私は貴賓室へと戻った。
キースはまだ帰っていなかった。
私はわざと心揺さぶられるこの感情と向き合うことはせず、ベッドに横たわり目を瞑り眠りの世界に落ちた。
そして翌日、マヤの結婚式が行われた。
着飾ったマヤは飛び切り綺麗で、本当に幸せそうだった。
そんなマヤの姿を見つめるキースの視線はどこか切なげで、私の胸はまた痛むのであった。
「素敵な結婚式でしたね。」
「あぁ…本当に素敵だった。」
結婚式、舞踏会とあっという間に時間は過ぎ、日が落ちかけていた。
貴賓室に戻り私はベッドに座って、ベッドに横たわるキースの姿を眺めていた。
いつも賑やかなキースだが、今日は口数も少なく落ち着いていた。
「キース様が、ヒューズ侯爵に恋をした理由が分かった気がします。」
「ん?私がヒューズ侯爵に恋?」
私はつい何も考えずに、キースに本音を吐露していた。
キースは私の方を振り返ると、呆気に取られた表情をしていた。
「誰から聞いた?エレンか?リュートか?」
「ふふ。誰でもいいじゃないですか。本当のことでしょう。」
「いや…。」
キースは身体を起こすと、私の隣にかけた。
そして鼻で笑うと、私の右手に自分の指を絡めた。
「それは誤解だな。」
「え?」
「ヒューズ侯爵には、ずっと憧れていたんだ。いつも考え方がかっこよくて心が広くて思いやりがあって、あんな人間になりたいと思っていた。」
キースはそう言うと微笑み、急に私と繋いだ手を引いた。
私は体勢を崩し、そのままキースの上に覆い被さるようにベッドに倒れた。
「可愛いな、ルーナ。」
そう言って、キースは私の頭を優しく撫でていた。
私はなんて勘違いをして物思いに耽っていたのだと、恥ずかしくなりキースの胸に顔を埋めて隠していた。
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