女王だった前世の記憶を持つ少女が、多情な王子と婚約したら

hina

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初めての旅行

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「えー!それは二人の仲を揺らがす危機!大イベントですね。私も一緒に同行して、二人の仲が深まる様子をその目で見たかった。残念過ぎます。それにしてもヒューズ侯爵、とうとう結婚なさるんですね。ヒューズ侯爵、恋愛に興味ないと思ってました。どんな人が婚約者なんでしょう。ヒューズ侯爵がどんな恋をしたのか、しっかり聞いて来てくださいねルーナ様!約束ですよ!」
「…大イベントなんですか?」

 キラキラと目を輝かせて一喜一憂するエレンと、よくエレンの話す意味を理解できずスルー気味の私。

 昼下がり、エレンと二人きりで庭園にてアフタヌーンティーを嗜んでいた。
 性格が全く正反対な私達だけど、なんだか仲良しになりつつある私達の日課だ。

 数日前、私はキースから女性貴族である侯爵ーマヤ・ヒューズの結婚式への同行を依頼された。
 男勝りでリーダーシップがあるマヤは、エレンのように社交界でも有名な人物の一人であった。

「あら、私一人で暴走して脱線しましたわ。大イベントなんです!だってキース様はヒューズ侯爵のこと…。いや、私の口から言っちゃいけないか。やっぱり秘密です。」
「…もしかして、好きとか?」
「そうです…ね。確かなことは分かりませんけど、キース様とヒューズ侯爵は幼い頃から親交があり、キース様は五つ年上のヒューズ侯爵の後をついて回っていたようですよ。貴族を毛嫌いしているキース様が唯一慕っているのが、ヒューズ侯爵なんです。」
「…ほお。キース様がお慕いしている…人ね。」

 私はマヤに興味が湧いて来たが、何故だか会いたくないような気もして。
 私は複雑な心境になっていることをエレンには話せなかった。


 そして一週間後、私はキースと共に馬車でマヤの結婚式に向かった。

 マヤの領土は北部の国境近い地にあったため、まるで小旅行のようだった。
 それにキースは王宮武術大会以来執務に追われていて、二人きりで過ごせる時間は本当に久しぶりだった。

「キース様。公務ですけど、少し息抜きになるといいですね。」
「あぁ。ルーナとの初めての旅行だし、ずっと楽しみにしていたよ。」

 そう言うキースは、いつものように私を膝の上に乗せて後ろから抱きしめている。
 季節は真夏で暑いというのに、全く離れようとしなかった。
 私は汗をかきながら扇子で必死に顔を煽いでいた。

「キース様、限界です。暑いです。もう裸になりたいくらいなのに。」
「…ルーナ、破廉恥だな。」
「そのくらい暑いってことです!」
「はぁ。ずっとルーナ不足だったから補給してたんだけどな。」
「キース様。侯爵家に着いたらいくらでもくっついていいんで、離してください。」
「…それなら、いいけど。」

 私はハッと冷静になり、自分たちはなんて馬車で戯れているんだろうと、急に恥ずかしくなってキースから離れて顔を隠した。
 暑さで頭をやられたのか、どうかしている。

 そして、私達はマヤの邸宅に辿り着いた。
 領地は自然豊かで、邸宅の裏には透き通るほど綺麗な湖があった。

「キース王子殿下、ルーナ様。長旅お疲れ様でした。ゆっくり旅の疲れを癒してください。」

 邸宅で私達を迎えたのは、マヤ夫妻だった。
 マヤは貴族女性としては珍しく肩にかからないほどの短い黒髪で焦茶色の目をしており、夫と並ぶほどの長身の美女だった。
 そして、立ち振る舞いは同性をも魅了するようなものだった。

「ヒューズ侯爵、この度はご結婚おめでとうございます。婚約者、ルーナを連れて来ました。」
「ルーナ様、初めてお目にかかります。婚約パーティーの日は外国にいて、出席できず大変申し訳ありませんでした。ずっと、お会いできるのを楽しみにしていました。」
「ありがとうございます。」
「キース王子殿下から聞いていましたが、こんなに愛くるしい淑女だとは。お会いできて光栄です。」

 マヤはさすがこの国では珍しい、女性で爵位を継いだ人物だと感じさせる風格があった。
 それから当たり障りのない話をしていたが、やはりマヤへ向けるキースの態度は、他の貴族に向けるものとは明らかに違うと私は気付いていた。

 そして貴賓室に案内された私とキースだが、キースはソファーにかけると両膝を叩き、私に目配せした。

「ルーナ、おいで。」
「…キース様。」

 約束したのは自分だったが、そういう気分ではなかった私は、キースの膝の上には座らず隣にかけてキースと視線を逸らした。
 そんな私をキースは私の腰に手を触れ、自分の方に抱き寄せた。

「どうかした?」
「いえ…なんでも。」
「もしかして…嫉妬した?」
「…え?嫉妬?」

 私は珍しく、激しく動揺していた。
 そしてなぜか顔が熱ってきて、キースの下から離れようとしたが、キースは離してくれなかった。

「まさかね。ルーナが嫉妬なんて…するわけないよね。」
「そう…ですよ。」
「してくれたら、嬉しいけどね。」

 キースは小声でそう言うと、湯浴みに行くと言って部屋を出て行った。
 私はしばらくソファーから、動けなかった。

『私、もしかして嫉妬してた?』

 嫉妬なんて感情、今まで経験したことがなかった。
 しかしエレンからキースとマヤの話を聞いてから生じている、心のモヤモヤの正体を私は考えないようにしていた。

「やっぱり、暑さでどうかしているんだわ。」







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