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褒美のキス

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 そしてとうとう王城の闘技場で、王宮武術大会は開催された。
 私は貴族の特等席に案内され、エレンと賑やかに観覧していた。

「きゃー。キース様、素敵!本物の王子様!」
「また勝ちましたね。圧巻の技だわ。」

 エレンとは誕生会以降会えば話すようになり、いつの間にか気兼ねない関係になっていた。

「ねぇ。キース様、このまま優勝しちゃうかしら?」
「…すごく勢いありますもんね。でもロイも負けてません。さすが前回優勝者だけある!」
「あぁ。キース様が婚約者で、ロイが護衛なんて。ルーナ様、本当に羨ましいわ。前世でどんな善行をしたんですか!」

 いや、むしろ国を破滅させて殺された愚かな女王だったけどーと私は心の中で自虐した。
 苦笑する私を、エレンは私の両肩を激しく揺さぶった。

 私も内心、武術大会で躍起し大活躍する身近な二人の姿に鼻が高かった。
 そしてついノリで、エレンに核心をつくことを聞いてしまった。

「エレン様って、キース様のこと大好きですよね。」
「ふふ。これでも初恋なの。でも今はそれほどでもないわよ。私、叶わない恋に縋ることほど辛いことはないと思ってますから。」
「叶わない恋…ですか。」
「今はもう好きだった人の幸せそうな姿を見るだけで、十分です。」

 エレンのキースに対する言動で、キースに好意を持っていることは、そういうことには疎いと言われる私でも気付いていた。
 私にそう言い切ったエレンは儚げにキースの姿を見ていた。

「ルーナ、こいつ今ロマンス小説にハマってるからさ。終始頭の中、お花畑だからあんまり本気にしない方がいいよ?」
「…リュート、大事な話をしてたのに。また私たちの間に入って来て。」
「いやいやお前が恥ずかしすぎるから止めに来たんだよ。てかそもそも、本当にキースのこと好きだったのかよ?所謂推しってやつだよ、それは。」

 そしてまたいきなり現れたリュートとエレンと痴話喧嘩を始めた。
 しかしムッと顔を膨らませるエレンは、キースのことを語っていたさっきとは打って変わって楽しそうだと私は思った。


 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
 とうとうトーナメント戦を勝ち抜いた二人による、決勝戦が行われようとしていた。
 決勝戦に勝ち残ったのは、まさかのキースとロイだった。

「きゃー。王子様と、王子様の婚約者の護衛騎士の対決だなんて。前代未聞!萌え展開!」

 観客は活気にあふれ、大盛り上がりだった。
 それに王族が決勝戦に立つことは会場始まって以来のことらしい。

 私はどちらの味方をすればいいのかと迷ったが、キースとロイの格好良過ぎる太刀筋に目を奪われた。
 そしてすぐに勝敗は決まった。
 キースの圧勝だった。

「キース様、最高!!!」
「最高に格好良かった!」

 魅了する展開に歓喜した私とエレンはきつく強く抱き締め合って、余韻に浸った。
 しばらくして、私は自分を熱烈に見つめるキースの視線に気づいた。

「あれ、キース様が優勝ということは…?」

 私はハッと現実に戻り、キースとした約束を思い出して目を見開き固まった。


 それから私は終始上の空で閉会式を観戦した後すぐに、そそくさと部屋に戻ってベッドでのたうち回った。

「どうしよう。どうしよう。」

 実は、前世でも今世でもキスをしたことがなかったのだ。
 一世一代の恋愛をしていたつもりだが、婚前だったし至って清らかな関係だったのだ。

 でも誰にも相談なんてできないし、誤魔化すかどうしようか、なんて深刻にしばらく考えていたら、キースが部屋に来てしまった。

「ルーナ、ただいま。」
「おめでとうございます、キース様。」

 私はキースを祝福しながらも目が合わせられず、ソファーにかけて俯いた。
 キースはいつものように私の隣に座ると身体を寄せ、私の腰に手をやった。

「どうだった?」
「…とてもかっこよかったです。」
「それはよかっ…っ。」

 キースの目は見開き、右頬を両手で覆った。
 私はキースに求められるのが恥ずかしすぎるから、言われるが前に実行したのだ。
 キースの右頬に、約束のキスを。

「約束ですからね。」

 私はそう言ってキースを見上げると、キースの顔は耳まで真っ赤になっていた。

「…ちょっと執務室に戻る。仕事を忘れていた。」

 しかしキースは早足で私の部屋から出て行った。
 きっと揶揄われるだろうと思っていたから、キースの反応が想定外で私は呆気に取られた。

「あの…多情で有名なキース様が?」

 キースのあんなに余裕のない顔は、初めて見た。
 もしかして約束は、キースにとって冗談だったのだろうか?

 私は急に全身が火照るのを感じ、頭を抱えてベッドに横たわった。

 日付が変わった頃、暗闇の中で物音がして、キースが私の部屋に来たことが分かった。
 感情が昂っているのか全く眠れない私は、寝たふりをしていた。
 そんな私のことをキースは後ろから抱き締めて胸の中に収めると、耳元で囁いた。

「ルーナ。ご褒美、ありがとう。」

 私は動悸がする胸を抑えるのに必死で、その夜は一睡もできなかった。










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