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約束
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すっかり暖かくなり夏が近付く日の昼下がり。
自室でソファーにかけて読書をしていた私の前に、執務を休憩中のキースが現れた。
「ルーナ、疲れた。」
そしてキースは私の横に座ると、私をヒョイと抱き上げて自分の膝の上に乗せ、後ろからギュッと抱きしめた。
「キース様、お疲れ様です。」
それは最近のキースの好きなスタイルだった。
たとえ二人きりの時にされても少し恥ずかしくて、私は他愛のない話題をキースに振った。
「ねぇ、キース様。来週、王宮武術大会が開催されるって知ってます?」
「あぁ、そういえばそうだね。もしかしてルーナ、興味があるのかい?」
「はい、昔からそういうの好きなんです。」
私は前世ではよく、近衛騎士団の訓練の姿を眺めるのが好きだった。
それに軍に所属していたソラは王宮武術大会の常連で、いつも応援しに行きたかったけれど兄から絶対に許してもらえなかった。
「キース様は出場しないのですか?王族も出場していいと聞いていましたが。」
「私は出場したことがないなぁ。父はよく出場したみたいだけど。」
「残念ですね。」
「それ…本気で言ってる?」
キースも剣術を極めていると聞いていたが、実際に見る機会がないことを私は本当に残念に思っていた。
容姿端麗な王子様が剣を振る姿なんて、絶対魅力的だ。
「じゃあ今年は出てみようかな、武術大会。」
「え?本当ですか?」
「あぁ。だけど、優勝したら私の望みを聞いてくれないかい?ルーナ。」
「…いいですけど。」
キースはそう言うと、私を抱きしめる手に力を込めて、耳元で甘い声で言ったのだ。
「じゃあ、キスして。」
「…え?なんですって?」
想定外の展開に、私は声が裏返り悪い冗談だと思った。
「だから、褒美はキスで。いい?」
「…分かりました。優勝したら、ですよ。」
「約束だよ、ルーナ。さて、用事を思い出したからまた夜にね。」
「…は、はい。」
そう言うとキースは鼻歌を歌ってご機嫌に、部屋を出て行った。
不純な理由だけれども、王宮武術大会は年齢身分問わず参加でき、特別なハンデもないと聞いていたし、まさかキースが優勝できるほどの実力を持っていると私は思わなかった。
その日からキースが真昼間に、私の下に現れることは少なくなっていた。
私は妃教育の授業からの帰り道、いつも仕えているロイと王宮武術大会の話になって、驚くべき事実を知った。
「え?キース様が王宮武術大会に出場すのを決めた理由って、ルーナ様だったんですか?」
「えぇ、まあ。うん。」
「毎日執務の合間に鍛錬に励んでますよ、キース様。産まれてこの方18年、あんなに必死なキース様を見たことないです。」
「…そうなんだ。」
それは感心なことだろうけど、キースとの約束を思い出すと、私は嬉しいやら恥ずかしいやらなんだか複雑な気持ちだった。
「ルーナ様。実は私、去年優勝したんですよ。知ってました?」
「えー!こんなところに王宮武術大会の優勝者がいたなんて。ロイが私の護衛なんて、大変光栄です。」
私がそう言うと、ロイは目を細めて微笑んだ。
つい頭を撫でたくなるくらい笑顔が可愛い。
優しくて格好良くて強いなんて私の護衛は最強だ、なんて心の中で誇りに思った私がいる。
「それにしても、王宮内はキース様とルーナ様の話題で盛り上がってますよ。」
「…え?私達なんかしでかしてます?」
「いい意味で。大変仲睦まじいと。」
「あぁ…そうよね。そう見えるわよね。」
確かにキースの私へのスキンシップは、だんだんヒートアップしていて、人前でも平気で抱きしめてきたりしてくる。
私は多情なキースにはきっとスキンシップに意味なんてなくて、キースは甘えん坊で、人懐こい性格なのだと思うようにして、深く考え過ぎないようにしていた。
そして、とうとう楽しみにしていた王宮武術大会の日がやって来た。
いつものように同じベッドで寝て一緒に起きた朝、私はキースから大きな箱に入ったプレゼントを渡された。
「今日の王宮武術大会は、このドレスを着て、この装飾をつけてほしいな。」
私が箱を開けると、アイスブルーのマーメイドドレスとパールのネックレスが入っていた。
「素敵ですね。あれ?なんかキース様とリンクしているような?」
「そうだよ。私だけの応援、よろしく。」
「ふふ。王子様の活躍を楽しみにしています。」
私はなんだかつい笑みが溢れてわざとらしくそう言うと、キースは私の頭をクシャクシャと撫でると部屋から出て行った。
自室でソファーにかけて読書をしていた私の前に、執務を休憩中のキースが現れた。
「ルーナ、疲れた。」
そしてキースは私の横に座ると、私をヒョイと抱き上げて自分の膝の上に乗せ、後ろからギュッと抱きしめた。
「キース様、お疲れ様です。」
それは最近のキースの好きなスタイルだった。
たとえ二人きりの時にされても少し恥ずかしくて、私は他愛のない話題をキースに振った。
「ねぇ、キース様。来週、王宮武術大会が開催されるって知ってます?」
「あぁ、そういえばそうだね。もしかしてルーナ、興味があるのかい?」
「はい、昔からそういうの好きなんです。」
私は前世ではよく、近衛騎士団の訓練の姿を眺めるのが好きだった。
それに軍に所属していたソラは王宮武術大会の常連で、いつも応援しに行きたかったけれど兄から絶対に許してもらえなかった。
「キース様は出場しないのですか?王族も出場していいと聞いていましたが。」
「私は出場したことがないなぁ。父はよく出場したみたいだけど。」
「残念ですね。」
「それ…本気で言ってる?」
キースも剣術を極めていると聞いていたが、実際に見る機会がないことを私は本当に残念に思っていた。
容姿端麗な王子様が剣を振る姿なんて、絶対魅力的だ。
「じゃあ今年は出てみようかな、武術大会。」
「え?本当ですか?」
「あぁ。だけど、優勝したら私の望みを聞いてくれないかい?ルーナ。」
「…いいですけど。」
キースはそう言うと、私を抱きしめる手に力を込めて、耳元で甘い声で言ったのだ。
「じゃあ、キスして。」
「…え?なんですって?」
想定外の展開に、私は声が裏返り悪い冗談だと思った。
「だから、褒美はキスで。いい?」
「…分かりました。優勝したら、ですよ。」
「約束だよ、ルーナ。さて、用事を思い出したからまた夜にね。」
「…は、はい。」
そう言うとキースは鼻歌を歌ってご機嫌に、部屋を出て行った。
不純な理由だけれども、王宮武術大会は年齢身分問わず参加でき、特別なハンデもないと聞いていたし、まさかキースが優勝できるほどの実力を持っていると私は思わなかった。
その日からキースが真昼間に、私の下に現れることは少なくなっていた。
私は妃教育の授業からの帰り道、いつも仕えているロイと王宮武術大会の話になって、驚くべき事実を知った。
「え?キース様が王宮武術大会に出場すのを決めた理由って、ルーナ様だったんですか?」
「えぇ、まあ。うん。」
「毎日執務の合間に鍛錬に励んでますよ、キース様。産まれてこの方18年、あんなに必死なキース様を見たことないです。」
「…そうなんだ。」
それは感心なことだろうけど、キースとの約束を思い出すと、私は嬉しいやら恥ずかしいやらなんだか複雑な気持ちだった。
「ルーナ様。実は私、去年優勝したんですよ。知ってました?」
「えー!こんなところに王宮武術大会の優勝者がいたなんて。ロイが私の護衛なんて、大変光栄です。」
私がそう言うと、ロイは目を細めて微笑んだ。
つい頭を撫でたくなるくらい笑顔が可愛い。
優しくて格好良くて強いなんて私の護衛は最強だ、なんて心の中で誇りに思った私がいる。
「それにしても、王宮内はキース様とルーナ様の話題で盛り上がってますよ。」
「…え?私達なんかしでかしてます?」
「いい意味で。大変仲睦まじいと。」
「あぁ…そうよね。そう見えるわよね。」
確かにキースの私へのスキンシップは、だんだんヒートアップしていて、人前でも平気で抱きしめてきたりしてくる。
私は多情なキースにはきっとスキンシップに意味なんてなくて、キースは甘えん坊で、人懐こい性格なのだと思うようにして、深く考え過ぎないようにしていた。
そして、とうとう楽しみにしていた王宮武術大会の日がやって来た。
いつものように同じベッドで寝て一緒に起きた朝、私はキースから大きな箱に入ったプレゼントを渡された。
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「素敵ですね。あれ?なんかキース様とリンクしているような?」
「そうだよ。私だけの応援、よろしく。」
「ふふ。王子様の活躍を楽しみにしています。」
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