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問題児カップル

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「ルーナ様。キース様のどこが好きなんですか?」
「…好きなところですか?」
「困らせるなよ、エレン。」
「困らせる?婚約パーティーで二人にあんな態度をとった貴方に言われたくないわ。」

 それは、婚約パーティーから一ヶ月後のある夜のこと。
 私は容姿端麗で絵になるカップルの言い争いに巻き込まれ、今にも逃げ出したかった。

 婚約パーティーを終えた私は社交の場に呼ばれることが多くなった。
 私は最低限のものだけ選んで出席していたのだが、キースも予定を合わせてくれたため一緒に同行できた。

 キースの同行のおかげか、これまでは面倒なことは起きなかった。
 しかし今夜はキースが急な外国からの客人への接待をすることになったため、私だけで出席していたのだ。

 顔だけ出して穏便に帰ろうとしていた私の姿を呼んだのは、このパーティの主催者の娘エレンだった。
 ウェーブの髪を下ろしてハーフアップにまとめ、パールピンクのAラインドレスを羽織るエレンは、今日19才の誕生日を迎えていた。

「ルーナ様。ずっと二人でお話したかったんです。二人でお話できまんか?」

 公爵令嬢として言葉遣い、立ち振る舞いは貴族の鏡のように完璧なエレンであったが、私へ向けた目線はどこか冷ややかなものだった。

 なんだか嫌な予感がしたが断る理由もなく、私は話をしたらすぐに帰ろうと決め、首を縦に振った。

 そして裏庭に案内され私達は二人きりでベンチに腰をかけた。
 国一を誇る美貌を持つエレンを隣に、私は同性だとしても緊張したが、エレンは穏やかな口調で話し始めた。

「ルーナ様、王城での生活はいかがですか?」
「そうですね…。すっかり慣れました。」
「それはよかったです。王様も王妃様も朗らかで、安心できる王城ですよね。」

 最初は当たり障りのない会話をしてきたエレンだった。
 しかしだんだん化けの皮が剥がれてきた。

「ルーナ様は、キース様とどこで知り合ったんですか?」
「…離宮で。」
「キース様とどうして婚約を決めたんですか?」
「…それは…。」
「ルーナ様。キース様のどこが、好きなんですか?」

 エレンが興味を持っているのは私ではなく、キースとのことだった。
 もしかしてエレンもキースが弄んだ貴族令嬢の一人なのではと疑い始めた時、一度会って忘れられない人物が顔を出した。
 要注意人物と認定した、リュートだ。

 そして冒頭のような言い争いを始めたエレンとリュートを前に、私は静かに退場しようとしたがリュートに止められてしまった。

「エレン、ジューン公爵が呼んでいたよ。俺はそのために呼びに来たんだよ。」
「本当に呼んでたんですか?理由は?」
「大事な客人が来てるから挨拶しろって。早く行ったほうがいい。」
「そうですか…。」

 エレンは溜息をつくと、私の右手を取って言った。

「絶対、話の続きをしましょうねルーナ様。またどこかの社交パーティーで会いましょう。」

 苦笑する私をよそにエレンはドレスの裾を持って、駆け足で会場へと戻って行った。
 残された私達だったが、私はいい機会だと思いリュートと対峙することを決めた。

「リュート様、少し話ができませんか?」
「あぁ、勿論喜んで。」

 リュートは目を細めて笑うと、私の隣に腰掛けて膝を組んだ。

「もしかして、呪いのこと?」
「そうです。貴方から言われた呪いの意味をずっと考えてたんですけど…。」
「ふはは。もしかして、真面目に考えてたんだ?」
「…え?」

 リュートは腹を抱えて笑い始め、私は拍子抜けし呆然としていた。

「冗談だったんだけど。あれ、もしかして本当に何か呪われることでもしてたの?ルーナ。」
「え…冗談、ですか?」
「生憎さ、俺あんまり他人のこと興味ないんだわ。でもなんか心当たりあるなら、本当に調べてみてもいいかな。面白そうだし。」
「もしかして、ただ私のこと揶揄っただけだったんですか?」
「その通り。だって、キースが選んだ女だぜ?ちょっかい出したくてさ。」

 キースとリュート、エレンの三人は幼馴染みだと聞いていた。
 だから気兼ねない仲なんだろうなとは思うが、リュートの発言は度が過ぎていると思った。

「…キース様とは仲が良いんですよね?」
「あぁ、悪友みたいな感じ。それにしてもルーナ、面白いね。よく見れば顔も俺のドストライクだし。もう少し早く出会っていればなぁ。キースじゃなくて俺の婚約者にできたのに。」

 なんだか側から見れば、思い切り失礼で不敬な事を言うリュートを私は白い目で見た。
 そして婚約者の話のくだりもきっと冗談なのだろうと感じ、呆れていた。

「おい、誰と誰がもう少し早く会ってたらだって?」
「お、キース様のお出ましか。」
「そもそも、お前は産まれて間もないころからエレンと婚約してただろ。」

 全く気配がなく私達の前にいきなり現れたのはキースだった。
 キースは強い口調でリュートと言い合い、力強く私の右手を掴んだ。

「ルーナ、リュートのことは相手にするな。帰ろう。」
「…はい。」
「また会おうね、ルーナ。」


それからすぐに馬車に隣り合わせに座った私達だったが、キースは俯いて何も話そうとしなかった。
機嫌が悪く、まるで怒っている様子のキースの姿を見るのは初めてで、私は少し戸惑っていた。

「…キース様、急用は大丈夫だったんですか?」
「あぁ。なんとか切り上げたんだ。でももっと早く来れれば良かった。」
「大丈夫ですよ、キース様。確かに最初は戸惑いましたけど、リュート様はそういう方なんだって分かりましたから。」

私がそう言って苦笑すると、キースは私の頭を自分の胸元に寄せた。
そして優しく包み込むようにキースは私を抱きしめると、私の肩に顔を埋めた。

「キース様、どうしたんですか?」
「…言いたくない。察して。」
「はぁ…。」

一人で拗ねて甘えてくるキースが、急に私を抱きしめた理由は全く分からなかった。
ただキースの温もりは暖かくて、私はそのまま目を瞑った。







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