女王だった前世の記憶を持つ少女が、多情な王子と婚約したら

hina

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味方

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 あれから、二週間。
 私が呆気に取られてるうちに、キースから連れ去られるように馬車に乗せられた。
 そして馬車は真っ直ぐ王都へと向かい、王城に到着した。

 ゼウスの王都に来たのは、人生で初めてだった。
 馬車の窓から見えた王都は、100年前のアルザスの王都とは比べようがないくらい栄えており多くの人で賑わっていた。
 そして重厚な造りの王城は、豊かな国の繁栄を物語っていた。

 王城に到着した私はキースと離れ、豪勢な部屋を用意された。
 そして双子のメイドのアリアとシェルが現れ、身の回りのお世話をしてもらうこととなった。

 数日して旅の疲れが癒えた頃、私はついに王族と謁見することとなった。

「ルーナ、会いたかったよ。」
「王室へようこそ。なんだか娘ができたみたいで嬉しいわ。」
「…光栄です。」

 ゼウスの王と王妃は、噂に聞いていた通り、慈愛溢れる温厚な方達だった。

 私達の表向きの馴れ初めは、辺境の街で出会い、一目惚れをしたキースが私を離宮に匿い、恋愛結婚することになっていた。
 同じく平民の王妃と恋愛結婚で結ばれた王達は、私達の婚約を反対することはなかった。

「セレンは私達が最も信頼する人物の一人なんだ。いつも命をかけて私達を守ってくれるセレンの娘を、妃に迎えられるなんて。」
「王家は末永く安泰ですわね、王様。」
「キース、ルーナ。二人手を取り合って、国を築くよう。」

 私は平民のルーナとして、キースと婚姻することとなっていた。

 キースは私にプロポーズをする前に既に、私を婚約者に迎える準備を徹底していたのだ。

 たずジョセフとアイビーは、キースによりいとも簡単に呆気なく、国外追放されていた。
 ジョセフは伯爵という身分から欲を出し王臣を収賄し、王族への反逆を企てていたのである。

 ルーナも本来は巻き添えになるところであったが、キースはその前にジョセフを言いくるめ、私の戸籍をレスト家から外していた。
 そして私を騎士団長セレンに、養子へ出していたのであった。
 しかもセレンはなんと、私の本当の父親であった。

 男爵令嬢であったサラと平民のセレンは、身分の差を超えた恋人同士だった。
 しかし政略結婚を目論むサラの両親により、サラとセレンの仲は引き裂かれた。
 すでにセレンの子を妊娠していたサラは、それでもサラを受け入れてくれたレスト家に嫁いだのであった。

 ちなみに私は王城に入り間も無くセレンに会ったが、セレンは泣いて喜んでいた。
 セレンは生涯独身を貫き、サラを一途に愛していた。

「挙式まであと一年。ルーナは無理せず、王宮での暮らしに少しずつ慣れていきなさい。」
「何か困ったことがあれば、何でも私達を頼ってちょうだいね。」

 そして私達の婚姻は、私より一つ下のキースが18才になるまでまだ一年の猶予があったのだ。

 王らとの謁見が終わると、これでも緊張していた私とキースの背後に付いていた護衛騎士のロイが声をかけた。

「お疲れ様でした。キース様、ルーナ様。」
「なぁロイ。これこら3人で、これから街に祝杯に行かないか?」
「街へ…ですか?」
「キース様。3ヶ月間、城を空けていた公務がまだうんと残っているじゃないですか。大丈夫ですか?」
「…そうだった。仕方ない、私は執務室に戻るとしよう。」

 キースは溜息をつきつまらなそうな顔をしながら、私とロイから離れて執務室の方へと行ってしまった。

 私には頼りになる実父の後ろ盾の他、有能で信頼できる臣下も与えられた。

 その臣下の一人が、王妃の友人の子であり、キースの親友のロイだった。
 平民として育ったロイだが、真面目な性格で、気配りが上手であった。
 ロイはルーナが王城に入り、一番最初に打ち解けた人物だった。

「…ルーナ様、王城での生活は慣れましたか?」
「そうね。まあまあ、うん。」

 私はそう言って穏やかに微笑むと、両腕を宙に向けて伸ばした。
 他国とはいえどなんせ王族として暮らすのは二回目だから、王城での暮らし心地は最高に良かった。

「さて、ロイ。私は図書室に行ってくるわ。」
「ルーナ様、少し休まれては?今日は朝から王らとの謁見の準備で、大変だったでしょうに。」
「大丈夫よ。それに何かしていないとなんだか落ち着かなくて。」

 私は王城に着いてから、さすがに少し開き直っていた。
 もう帰る場所もないし、逃げる元気もないし、死ぬ勇気もない。
 愛のない結婚ではあるが、せめて今度は愚かな王族にはなりたくないと、勉学にも励むことにしていたのだ。

「それに私、努力しないと身に付かないタイプだから。」
「そうですか。その姿勢を、キース様もぜひ見習って欲しい。」
「ふふ。あの人は天才型なんでしょうね。」

 キースは国政や情勢の話をし始めると、しっかりとした知見を持って話し出す。
 女王の知見を持った私の協力なんて、全くいらないんじゃないかと思えるくらいに。

「どうか無理だけはしないでくださいね、ルーナ様。」
「ありがとう、ロイ。」

 そして心配そうに私を見つめるロイの瞳は、私やキースと同じアイスブルーの色をしていて。
 私はなんだかロイとは出会った時から親近感を沸いていたが、余計な詮索はしないようにしていた。


 王城の図書館に入ると、私は一人勉学に謹んだが、しばらくすると眠っていたらしい。
 夢見心地の中、私の耳元に囁いたのは聞き慣れた声だった。

「ルーナ、お腹減った。起きて。食事に行こう。」
「キース様。執務は終わったのですか?」
「うーん。まあまあかな。ルーナに会いたくて。」
「分かりました。行きましょう。」

 私がそう言うとキースは私の手を自分の手を絡め、私の部屋へとエスコートしたのであった。

 思い返せば、離宮でキースに出会ってから、私は独りで時間がめっきり減っていた。












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