4 / 13
たった一つの望み
しおりを挟む
ソラの急死で、私の心は冷え切っていた。
王子に囚われたとを警戒し、抵抗することもなかった。
しかし離宮での生活は、悪くなかった。
私は王子の客人として、非常に手厚くおもてなしを受けた。
逃亡して気付いたが、所詮私は温室育ちなのだ。
振り返ってみれば、心が疲弊していた子供時代、義兄夫婦に虐められた少女時代ーと、第二の人生はなかなか辛かった。
しかし大好きな紅茶とお菓子に囲まれてゆっくり過ごせる時間に、私の心は和み落ち着いていった。
キースは離宮で一人、執務をしているようだった。
キースは私と毎食共にし、時間があれば私の部屋に訪れて、いろんな話をした。
他愛のない話をして、肝心な話題は上手くはぐらかさられた。
外は雪景色であったが、晴れ間のある日はキースと共に離宮内を散歩して過ごした。
そんな穏やかな平和な日々は、私の心を少しずつ癒していた。
私はキースは一体何を企んでいるのだろうと、頭を凝らして考えるようになった。
キースはゼウスのたった一人の王子で、王位継承権一位を持つものであった。
容姿端麗で、武力と知能に優れ、国民の人気も高い。
しかし多情で、年頃の貴族の令嬢達を弄んでるとの悪い噂があった。
私もいつか手を出されるのだろうかと、自意識過剰にも考えた時があったが、キースが私の身体に触れてくることは全くなかった。
そして長い冬が終わりかけていた頃、私はキースに呼び出され、離宮の奥の間に連れて行かれた。
私は離宮内で自由に過ごしていたが、奥の間にだけは入ることを禁じられていた。
「ここに王族以外の人を入れるのは、初めてなんだ。」
そう言ってキースに案内された奥の間は、豪勢な作りで他の部屋とは変わりなかった。
しかし私は部屋の再奥で、ある光景を目の当たりにし絶句した。
目を見開き、すかさず逃げ出そうとした私の腕を、キースは力強く掴んだ。
「私に力を貸してほしい、ルーナ。いや、失われた国の最後の女王ーティア。」
奥の間の一角の壁に飾られていたのは、大量の人物画が飾られていた。
その人物画は、前世の私の姿であった。
私が前世持ちだということは、一生誰かに見破られることはないと思っていた。
私は動悸がする胸を抑えながら、キースに誘導され、ソファーにキースと向かい合わせにかけた。
「どうして…分かったのですか?」
「…それはまだ言えない。」
「じゃあどうして…私に力を貸してほしいと?」
「それは…ルーナに、私の夢を叶えてほしいんだ。」
「夢ですか…?」
緊迫する私とは真逆に、キースは朗らかに微笑んでいた。
そして、目をキラキラと輝かして言うのだった。
「私が王様になったら、一夫多妻にし、王宮にハーレムを作ろうと思うんだ。」
「へ…。ハーレム?」
私はつい拍子抜けして、変な声が出た。
キースの言葉は、何かの悪い冗談だと思い聞き返した。
「…ハーレムと私、何の関係があるんでしょうか?私の力、いりますか?」
「あぁ。ルーナには私の正妃になってもらう。前世の女王だった時の知見で国を繁栄させる手助けをしてほしい。そして、一夫多妻制を公認して欲しいんだ。」
「…あの、本当にそれ私の力いりますか?」
「勿論。世の女達は、美麗な私を独占したがるからね。」
そう言うキースを、私は半信半疑で見つめた。
しかし、キースの表情はやはり至って真剣だった。
「もし私と結婚してくれたら、ルーナになんでも望みを叶えてあげるよ。でも、私と離縁する事と一夫多妻制を反対すること以外でね。」
私はしばらく黙り、困惑していた。
極めて不純な理由があったとしても、次期王様になることが確定している王子からのプロポーズは、普通の女の子なら素直に喜んだだろう。
「ルーナは、私を愛することはないだろうね。だから、子供も産まなくていい。ただ一生、王妃として私の側にいてくれればいい。」
「…つまり、飾りの王妃ということですか?」
「あぁ。それでいいんだ。」
私は一呼吸置くと、キースの目を見てしっかり向き合って言った。
返事に悩むことはなかった。
「キース様、お断りします。罰ならなんでも受けます。どうせ私の望みは…もう一生叶わないと思うので。」
「…ルーナ。望みは何か教えてくれないか?」
「私の望みは、一生不自由しない生活をすることでも、国民に尽くし敬われることでも、憎んでも憎みきれない兄の失脚でもなくて。ただ…愛していた人達と普通に幸せになりたかったんです。」
そう言うと、私の脳裏にはアレンとソラと過ごした日々が浮かんだ。
あの頃は当たり前のように過ごしていた毎日が、本当はかけがえのない日々であった。
一生私の望みは叶うことはないだろう。
私の瞼からは涙が溢れ落ちていた。
いつの間にか、キースは私の隣に移動していた。
そして、細長い指で私の涙を掬き、私の隣に寄り添っていた。
しばらく声を出して、私は泣き続けた。
そして、私が落ち着くと、キースは落ち着いた口調で言ったのである。
「ルーナ。それじゃあ…私が王様になったら、王妃の恋愛も認めることとしよう。」
「…え?」
「決まりだな。」
私はこうして、話が噛み合わないキースにすっかり絆され、強制的に王家へと嫁ぐこととなったのである。
王子に囚われたとを警戒し、抵抗することもなかった。
しかし離宮での生活は、悪くなかった。
私は王子の客人として、非常に手厚くおもてなしを受けた。
逃亡して気付いたが、所詮私は温室育ちなのだ。
振り返ってみれば、心が疲弊していた子供時代、義兄夫婦に虐められた少女時代ーと、第二の人生はなかなか辛かった。
しかし大好きな紅茶とお菓子に囲まれてゆっくり過ごせる時間に、私の心は和み落ち着いていった。
キースは離宮で一人、執務をしているようだった。
キースは私と毎食共にし、時間があれば私の部屋に訪れて、いろんな話をした。
他愛のない話をして、肝心な話題は上手くはぐらかさられた。
外は雪景色であったが、晴れ間のある日はキースと共に離宮内を散歩して過ごした。
そんな穏やかな平和な日々は、私の心を少しずつ癒していた。
私はキースは一体何を企んでいるのだろうと、頭を凝らして考えるようになった。
キースはゼウスのたった一人の王子で、王位継承権一位を持つものであった。
容姿端麗で、武力と知能に優れ、国民の人気も高い。
しかし多情で、年頃の貴族の令嬢達を弄んでるとの悪い噂があった。
私もいつか手を出されるのだろうかと、自意識過剰にも考えた時があったが、キースが私の身体に触れてくることは全くなかった。
そして長い冬が終わりかけていた頃、私はキースに呼び出され、離宮の奥の間に連れて行かれた。
私は離宮内で自由に過ごしていたが、奥の間にだけは入ることを禁じられていた。
「ここに王族以外の人を入れるのは、初めてなんだ。」
そう言ってキースに案内された奥の間は、豪勢な作りで他の部屋とは変わりなかった。
しかし私は部屋の再奥で、ある光景を目の当たりにし絶句した。
目を見開き、すかさず逃げ出そうとした私の腕を、キースは力強く掴んだ。
「私に力を貸してほしい、ルーナ。いや、失われた国の最後の女王ーティア。」
奥の間の一角の壁に飾られていたのは、大量の人物画が飾られていた。
その人物画は、前世の私の姿であった。
私が前世持ちだということは、一生誰かに見破られることはないと思っていた。
私は動悸がする胸を抑えながら、キースに誘導され、ソファーにキースと向かい合わせにかけた。
「どうして…分かったのですか?」
「…それはまだ言えない。」
「じゃあどうして…私に力を貸してほしいと?」
「それは…ルーナに、私の夢を叶えてほしいんだ。」
「夢ですか…?」
緊迫する私とは真逆に、キースは朗らかに微笑んでいた。
そして、目をキラキラと輝かして言うのだった。
「私が王様になったら、一夫多妻にし、王宮にハーレムを作ろうと思うんだ。」
「へ…。ハーレム?」
私はつい拍子抜けして、変な声が出た。
キースの言葉は、何かの悪い冗談だと思い聞き返した。
「…ハーレムと私、何の関係があるんでしょうか?私の力、いりますか?」
「あぁ。ルーナには私の正妃になってもらう。前世の女王だった時の知見で国を繁栄させる手助けをしてほしい。そして、一夫多妻制を公認して欲しいんだ。」
「…あの、本当にそれ私の力いりますか?」
「勿論。世の女達は、美麗な私を独占したがるからね。」
そう言うキースを、私は半信半疑で見つめた。
しかし、キースの表情はやはり至って真剣だった。
「もし私と結婚してくれたら、ルーナになんでも望みを叶えてあげるよ。でも、私と離縁する事と一夫多妻制を反対すること以外でね。」
私はしばらく黙り、困惑していた。
極めて不純な理由があったとしても、次期王様になることが確定している王子からのプロポーズは、普通の女の子なら素直に喜んだだろう。
「ルーナは、私を愛することはないだろうね。だから、子供も産まなくていい。ただ一生、王妃として私の側にいてくれればいい。」
「…つまり、飾りの王妃ということですか?」
「あぁ。それでいいんだ。」
私は一呼吸置くと、キースの目を見てしっかり向き合って言った。
返事に悩むことはなかった。
「キース様、お断りします。罰ならなんでも受けます。どうせ私の望みは…もう一生叶わないと思うので。」
「…ルーナ。望みは何か教えてくれないか?」
「私の望みは、一生不自由しない生活をすることでも、国民に尽くし敬われることでも、憎んでも憎みきれない兄の失脚でもなくて。ただ…愛していた人達と普通に幸せになりたかったんです。」
そう言うと、私の脳裏にはアレンとソラと過ごした日々が浮かんだ。
あの頃は当たり前のように過ごしていた毎日が、本当はかけがえのない日々であった。
一生私の望みは叶うことはないだろう。
私の瞼からは涙が溢れ落ちていた。
いつの間にか、キースは私の隣に移動していた。
そして、細長い指で私の涙を掬き、私の隣に寄り添っていた。
しばらく声を出して、私は泣き続けた。
そして、私が落ち着くと、キースは落ち着いた口調で言ったのである。
「ルーナ。それじゃあ…私が王様になったら、王妃の恋愛も認めることとしよう。」
「…え?」
「決まりだな。」
私はこうして、話が噛み合わないキースにすっかり絆され、強制的に王家へと嫁ぐこととなったのである。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!

モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる