女王だった前世の記憶を持つ少女が、多情な王子と婚約したら

hina

文字の大きさ
上 下
3 / 13

絶望の淵での出会い

しおりを挟む
 それから10年の月日が流れた。
 私はそのまま本宅に住まわされ、勉学や花嫁修行に勤しんでいた。

 しかし本宅での暮らしはまた地獄だった。
 ジョゼフの妻ーアイビーから、理不尽に八つ当たりをされ、虐められたのであった。

「貴方のせいで、私はジョセフから愛してもらえない。」

 アイビーは王家の血筋を持つ公令嬢であったが。
 しかし不妊症と診断され、治療を試みても、結婚して10年ジョセフとの子供ができなかった。

 国は一夫多妻制であるため、ジョセフは浮気をして、婚外子を増やしていた。
 そんな二人は犬猿の仲であった。

 しかしジョゼフにとって利用価値がある私は、二人に精神的に虐められても、身体を傷つけられることはなかった。
 それに、どんなに多忙でも同じペースで来訪してくれるソラとの時間は変わらずあった。

 私はソラと結婚さえすれば、幸せになれると思っていた。
 前世の教訓から恋に溺れることは避けていたが、期待だけは捨てなかったのだ。

 そして結婚式まで一月に迫った、秋の終わり。
 忘れもしない、私の18歳の誕生日だった。

 ソラは私の家に行く途中で、馬車ごと崖の下に転落し、亡くなってしまった。

 私は絶望の中、ソラの葬儀に出席した。
 ソラの遺体は激しく損傷しており、最期一目顔を見ることも許されなかった。

 葬儀が終わると、私は生き残ったソラの臣下から、エメラルド石のネックレスを渡された。

「ソラ様が、ルーナ様の誕生日に渡そうとしていたものです。ソラ様は、ルーナ様と結婚式を迎えられる日を楽しみにしていました。本当に愛しておられました。」
「ソラ…どうして。死んでしまったの。ソラ。」

 私はネックレスを胸に抱きしめ、その場に泣き崩れた。

「可哀想な、ルーナ。」

 そんな私の前に、黒い影が立ち塞がった。
 わざとらしく同情したように話す声の主を、私は恐る恐る見上げた。

「また、大切な人が死んじゃったのか。結婚する前で良かったな。傷物になる前で。さて、次は誰と結婚する?」

 ジョセフは悪魔のような囁きを放つと、声を出して笑った。
 私はサラが死んだ時を思い出した。
 
 人の心を踏み躙るサイコパス相手に、私は何も言わず情けの目を向けた。
 
「なんだよその生意気な目。あれ、明るい金髪に、アイスブルーの瞳。お前、大分サラに似てきたな。」

 そう言ったジョセフは、私を見る目を色目に変えていた。
 私は気色悪く、全身に鳥肌が立ち吐きそうになった。
 そして震える声で、全力で抵抗したつもりだった。

「…私達は兄弟じゃないですか。」

 しかしジョセフは口角を上げると、私の耳元で小さな声で言った。

「あれ、言ってなかったっけ?お前の父親は死んだ伯爵じゃないんだよ?」


 私には、絶望と恐怖で泣いてる時間はなかった。
 今までの処遇に、どこか納得したと同時に身の危険を感じていた。

 本宅に帰った私はすぐに、部屋中に隠していた金銭と宝石をかき集めた。
 そして必要最低限の荷物をまとめた。

 ソラのことは信じていたが、万が一のための準備はちゃんとしていたのだ。

 逃げることで破滅を導いた前世の経験から、逃亡することは最終手段と思っていた。
 そしてそれが今だと、私は直感的に思ったのだ。

 私は街で手に入れた平民が着るワンピースに着替え、黒のローブを深く羽織った。
 そして夜更けに人目が離れたところを見計らい、本宅から出て行った。

 私は街に出ると、前もって大金を叩いて味方につけていた人物の下を訪ね、辺境の街まで移動をした。

 私は移民が多いという隣国に、国外逃亡を予定していた。
 追手に見つかったり、盗賊に襲われたりしないよう慎重にここまで来たつもりだった。

 しかしまだ私は神に見放されているようだった。
 残った僅かなお金で航海の手配を済ませ、明日に亡国を控えた夜のこと。

「ルーナ、レスタ。王子殿下がお呼びです。」

 宿でひっそり食事をしていた私の前に現れたのは、王族の旗を掲げた騎士団だった。

「王子殿下…?」

 思い当たる節もなく困惑した私が、抵抗する間も無かった。
 私は騎士団達に捕らえられ、無理やり馬車に乗せられたのであった。

 そして馬車に乗って数日が経ち、私が連れて来られたのは離宮であった。
 何度も馬車から飛び降りることを考えたが、自ら死ぬ勇気がなかった。

 最後の手段も失敗し、さすがにもう人生を諦めていた。


「顔を上げよ。」

 そして私は広間で跪き、大勢の家臣に囲まれた王子と謁見することとなった。
 私が恐る恐る顔を上げると、私は王子の姿に息を飲んだ。

 肩についた真っ白の髪に、アイスブルーの瞳。
 グレーのテールコートを着こなす長身細身の姿。
 彼はゼウスの第一王子ーキースだった。

「探したよ、ルーナ。」
「王子殿下。どうして…私を探していたのでしょうか?」
「…それはまだ言えない。ただ安心してくれ。レスト伯爵家にはもう二度と戻さない。ルーナにはしばらくゆっくり、離宮で過ごしてほしい。」
「…そうですか。」

 不可解な出会いが、人生を大きく変えることになるとはこの時の私には分からなかった。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...