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永禄の改革
最後の一騎打ち
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「向かってくるか。恨みは無いが、向かってくるならば相手をせねばなるまい」
いやいや、上泉さん!?一々、言葉がカッコイイじゃないか!オレもいつか『相手をせねばなるまい』。この言葉は使ってみようか。
シャキン
「あれ?あっ・・・」
オレはプロミさんを抜いたけど、炎を纏っていない事に気付いた。そういえば、眠ると言っていた事を忘れていた。
「甲賀隊!北側だ!北側の山手から敵影!方円の陣形だ!剣城様と上泉公、細川公を真ん中に急げ!小川の爺は剣城様の前に!」
「チッ。金剛の餓鬼が!ワシは爺ではない!」
「誠に良い配下を持っている」
「えぇ。金剛と言いまして、オレの旗揚げ時から従ってくれてる者です。兵の殆どの采配を任せている者です。寧ろオレより指示を出す事が多いですよ」
「そうか。まずは鉄砲か。撃ってくるな。10丁か。3 2 1 」
パンッパンッパンッパンッパンッ
「がはは!我が君は屈んで下さい!効かぬ!効かぬぞ!!我が君に攻撃は届かせぬぞ!!」
ガキンッ ガキンッ ガキンッ
「うを!?マジか!?しかも狙いが正確!?」
「当たり前だよね~」
「はぁ!?誰だ!?え!?お前・・・」
物陰から声が聞こえた。うん。忘れていた訳ではない。忘れていた訳ではないが、頭から離れていた。例の雑賀孫一達だ。
「いつからそこに居た!?」
「それは異な事。初めからこの社の影に括り付けられていたさ。あぁ~。ちなみに長逸殿の軍なら雑賀衆が入り込んでいるから気をつけなされ。俺ぁ~に続く名手だよ~」
「名手だと!?」
「前に集中しなさい。二射目がくる。3 2 1」
パンッパンッパンッパンッパンッ
ガキンッガキンッガキンッガキンッ
毎度の事ながら小川さんも凄いけど、上泉さんは化け物かよ!?何で撃たれるタイミングが分かるんだよ!?
「不思議にお思いか。森の静謐、気の流れ、硝煙の臭い。全てを一つと感じ、天と地を感じる事ができれば、自ずと相手が分かる」
「はぃ!?!?」
この人は何者だよ!?いや、剣豪さんなのは知ってるよ!?知ってるけど、ヤバいどころではないだろ!?神の領域の人じゃね!?
「其方の刀は炎を纏わせると聞いたが、どういう事なのか?」
「え!?あっ、はい。本当に炎を纏わせて相手を焼き斬ると言いますか・・・。今は調子が悪いようなので、こっちの刀にします。蛇剣と言って、少し重いのですが斬れ味というか、軽く撫でただけでも甲冑ごとスパッと斬れるのです」
「変わった形の刀だ。南蛮の刀かね?」
「そ、そうですね。南蛮の刀です」
本当は神界産で、戦神様から貰った刀です!なんて言えないからな。
「某は飛び道具はあまり好かん。だが、時代なのだな。これからは其方等の軍が持っているような、銃や大砲が主流となるのだろう」
「・・・・そこはなんとも言えません」
「良い。仕方の無い事だ。さて・・・そろそろ敵も姿を現すだろう。某も刀を抜こうか」
「がははは!上泉公も中々に凄い方とお見受け致すが、我が君の刀も中々ですぞ!なんと言っても一之太刀という、素晴らしい技を持っていますからな!」
「なに!?一之太刀だと!?」
いや、小川さんや!?本物の剣豪の前で何を言ってるんだよ!?この人の剣を見てるだろうが!オレの剣なんて、おままごとレベルじゃん!しかも一之太刀とか言ってるけど、適当にオレが知ってる事を発声したら、力が出るから言ってるだけなんだが!?
「剣に生き、剣に全てを掛け、命を賭けた。その頂はまだ見えぬ。我が師である愛州久忠先生より、陰流の全てを記されている秘巻(ひかん)・伝書を託され、技に磨きを掛けて参った。まさか、其方もそれを知っているとは・・・」
「いや、上泉さん!?オレはそんな・・・」
「がははは!上泉公の剣技は先に見ましたが、我が君には及びませぬぞ!」
いや、マジで小川さんは黙ろうか。
「小川さん!止めてくれ!!穴が有れば入りたいくらいなんだけど!そのくらいにオレの剣は、おままごとレベルなんだって!!」
パカラッ パカラッ パカラッ
オレ達が言い合っていると、山手側から本当に300人くらいの兵が現れた。オレの想像での三好長逸は、結構な歳でヨボヨボなイメージがあったが・・・。
「チッ。まさか、先代将軍の剣術指南、剣鬼、剣聖、剣豪とも言われ、日の本一の兵法家と名高い、上泉信綱公が居るとはな」
「久しぶりでありまするな。三好日向守殿」
うん。バリッバリに武闘派の身体をしている。しかも信長さん並みのオーラだし、まさかの先頭に居るとは思わなかった。上泉さんと顔見知りのようだ。
「宗渭と義継が討ち取られた意味が分かった。皆の者。手を出すな。馬廻りが束になろうが上泉公には敵わぬ。ワシ自らが引導を渡してやろうぞ」
「ふっ。其方は勘違いしておる。2人を討ち取ったのはこの織田家 料理ご意見番の芝田剣城殿だ」
いや、上泉さんも勘弁して下さい!この流れって確実に、オレとこの人との一騎打ちの流れじゃん!?貴方の方が余裕で倒せるでしょ!?
「なぁにぃ~!?料理ご意見番だ!?舐めておるのか?」
いや、そんな真顔で凄まれても、本当にご意見番なんだから仕方ないだろ!?ここはハッタリをかまして、上泉さんに譲ろう。
「聞け!下郎!嘘偽りなく答える!オレは織田家 支配内 料理ご意見番 芝田剣城だ!三好義継が一騎打ちを仕掛けてきたが、卑怯にも戦いの最中に自分諸共、爆死覚悟で大砲を撃ってきた!だが、オレにはこの横の小川三左衛門が居る!見事、大砲を無効化してくれた!だから義継は斬った。そして三好宗渭は『卑怯でも何でも良い』と言って襲い掛かって来た。故に宗渭も斬った。この横に座す上泉信綱公は・・・」
「黙れッ!小僧ッ!!!ふざけた事を抜かすでない!何が下郎ぞ!」
うん。精一杯、低い声で言ったけど回避失敗・・・どころか、激昂させてしまったようだ。やっぱオレは、脅すような口調はいつまで経っても無理だな。
「黙れ・・・小僧・・・ですか?おじさんは舐めているのですか?」
オレの横に居る、いつも寡黙な凛ちゃんが低い声で喋り出した。こんな凛ちゃん初めて見たし、なんなら、この三好長逸や信長さんより怖いんだが!?
「女か。控えろ!ここは女子(おなご)の出る幕ではない!」
「剣城様。殺っちゃっていいですか?ねぇ?殺っちゃいましょう。鈴に言って、エチルベンゼンとホルムアルデヒド、次亜塩素酸を用意し投げ込み、骨まで残らないようにしてやりましょう。剣城様に軽口を叩いた事を、後悔させてやりましょう」
「「「「・・・・・・・」」」」
「お、おい。凛よ・・・」
「なに!?青木様もそう思うでしょう!?」
「いや、そうは思うがそれは流石に惨いと思うのだが・・・。考えただけでも身震いしてしまいそうだ」
凛ちゃんは、なんて酷い事を言うんだ。青木さんは何の物質か知ってるから、想像できるんだろう。だから身震いしてしまいそうなのか。オレは漂白剤と接着剤の原料だとは分かるけど・・・。いや、そんな事より凛ちゃんも普段大人しいのに、ここでキレるのか!?
「何をごちゃごちゃ言っている!そこまでワシを殺したいのならお前が死ねッ!!うりゃぁ!」
この三好長逸・・・馬上からだが抜くのが早い。オレの蛇剣は鞘が無い為、既に抜いていたから素早く反応した。
ガキンッ!!
「凛ちゃん。少し待とうか」
「すいません。少し熱くなってしまいました。剣城様が討ち取らなければ、城持ちの話が消えてしまいますよね・・・。申し訳ありません」
皆が、城持ち城持ちって言ってくれてはいるけど、そりゃあ欲しいのは欲しいけど、別にそこまで気にしてないんだけどな・・・。あぁ~あ。完璧に一騎打ちの流れじゃん。またさっきみたいに円陣になってきているし。
「甲賀隊!手を出すな!剣城様の一騎打ちだ!そこの牧村婆!無闇に敵を突くでない!小泉爺!獲物を振り回すな!」
「はぁ~。何でこうなるんだよ・・・。おい!お前も状況が分かるんだろう?ここでオレに勝てても三好は終わり。それでも一騎打ちするのか?」
「ふん。知れた事。未だ兵が残っている。筒井の兵も無傷だ。挟み撃ちで貴様等の方こそ終わりだ」
「見届け人は上野国 上泉信綱が致す。日向守殿。負ければ兵を退かせるように言いなされ。無益に全兵が死ぬ事はない」
「耄碌したか!上泉ッ!!!」
「耄碌したのはどちらだ。例え其方が勝ったとしても、大局的には大負けであろう。芝田殿は先駆けの軍だ。織田本隊は未だ来て居ない。美濃からここまで短時間で来られた芝田軍。それがどういうカラクリかは分からぬが、まだ本隊が来ていない意味が、分からぬ訳ではなかろう?」
やっぱ上泉さんも凄いな。全てを見ているんだな。そうだ。本気で行軍すれば美濃から京都まで、農業神様から与えられた食べ物を食べている織田軍は、3時間もあればここまで来れる筈だ。
オレ達が開戦して10時間程は経っている。もう太陽も沈みかけだ。オレの身体的には大丈夫だが、他の皆は寒いだろう。風もそこそこ吹いているから今夜は雪かもしれない。さっさと勝負を決めるか。
「上泉様。もういいですよ。三好長逸。降りろ。一騎打ちだ」
「ふん。小僧め!その心意気や良し。だが甘く見ると貴様の胴と首が引き千切れるぞ!」
「抜かせッ!!!一之太刀ッッ!!!」
オレはいつものように発声して剣を振りかぶった。が・・・何かがおかしい。長逸も構えてはいるが、このままなら簡単に斬れる。
「剣城様!!」「我が君!!」
シュンッ ズドッ
オレは一瞬何が起こったか分からなかった。違和感を抱き、踏み込みが浅くなったのは自覚している。ベヒーモスーツもあるから斬られてはいないが、右肩が異常に熱く感じる。
「クッ・・・。卑怯・・・いや、それはオレのせいだな。義継も一騎打ちと言い、大砲を撃とうとした。いや、撃ってきた。お前は隠し刀と投げ刀か。三好は卑怯者だと事前に知っていたのに、な」
「チッ。途中で勘付いたか。今少し踏み込めば首に刺さっていたものだがな」
長逸は投げ刀を投げて来た。確かにあのまま踏み込めば首に刺さっていたか。このベヒーモスーツのお陰で致命傷にはなっていないけど、肩は貫くんだな。それにしても痛いな。
「その肩では最早、その禍々しい刀も振れまい。死ねぃ!」
直感的にヤバいと思った。
が、しかし・・・。
ビシュンッ
「其方は剣にまで卑怯になったか!日向守ッッ!!!卑怯な刀を使うなら、その刀を奪うぞ!」
ガシャンッ
「ぬっ・・・」
「は!?」
もう、『は!?』としか言いようがなかった。なんと上泉さん。オレに投げられた二つ目の投げ刀を空中でキャッチしたのだ。しかも素手でだ。
そしてその間に一瞬の隙が出来たのを、オレは見逃さない。向こうが卑怯な手を使うなら、オレも今この時を使う。
「一之太刀ッッ!!!!」
流石に左手一本で蛇剣は持てない為、懐に忍ばせている、織田木瓜紋入りの・・・最初の時にお市さんから初めて貰った刀を出す。そして力一杯に剣を振りかぶった。
ズシャンッ
その剣筋は自分でも分かるくらいに、プロミさんの剣より、両手で振った蛇剣なんかより綺麗な剣筋だった。
ポトン
「「「「「・・・・・・」」」」」
一瞬、自分でも何が起こったか分からなかった。いや、あまりに抵抗無く斬れた為、驚いた。なんなら、スカ振りしてしまったかのように感じてしまった。
甲賀隊も、青木さんも望月さんも細川さんも金剛君、凛ちゃん達、皆が唖然としていた。見届け人に名乗りを上げてくれた上泉さんまで、少し驚いた顔をしている。
「しょ、勝負ありッ!!それまでッ!!!」
「と、殿!!」
「殿ぉぉぉぉ~!!おのれ!!お前等!殿に殉じろ!一兵でも多く倒せ!特にあの芝田という奴は必ず倒せッ!!!!」
やはりこうなるか。まぁそうだよな。
「カッカッカッカッ!剣城様へ更に首の土産が出来たわい!骨を砕かれたい者は前に出ろ!」
「風穴空けたい奴は誰さね!?」
「・・・・滅殺」
「芝田殿。見事なお手前でした。是非、落ち着けば、先の『一之太刀』の極意を御教授願いたい。未だ某の陰流は完成に程遠いように思えた。それより・・・凛殿と申したか。芝田殿のこの怪我は・・・」
「お控え下さい。剣城様はこのくらいは、どうという事御座いません」
いや、どうという事どころか、戦い終えたら滅茶苦茶痛く感じてきたんだけど!?薬飲むか!?鈴ちゃんとか鞠ちゃんを、待っていられないんだけど!?
いやいや、上泉さん!?一々、言葉がカッコイイじゃないか!オレもいつか『相手をせねばなるまい』。この言葉は使ってみようか。
シャキン
「あれ?あっ・・・」
オレはプロミさんを抜いたけど、炎を纏っていない事に気付いた。そういえば、眠ると言っていた事を忘れていた。
「甲賀隊!北側だ!北側の山手から敵影!方円の陣形だ!剣城様と上泉公、細川公を真ん中に急げ!小川の爺は剣城様の前に!」
「チッ。金剛の餓鬼が!ワシは爺ではない!」
「誠に良い配下を持っている」
「えぇ。金剛と言いまして、オレの旗揚げ時から従ってくれてる者です。兵の殆どの采配を任せている者です。寧ろオレより指示を出す事が多いですよ」
「そうか。まずは鉄砲か。撃ってくるな。10丁か。3 2 1 」
パンッパンッパンッパンッパンッ
「がはは!我が君は屈んで下さい!効かぬ!効かぬぞ!!我が君に攻撃は届かせぬぞ!!」
ガキンッ ガキンッ ガキンッ
「うを!?マジか!?しかも狙いが正確!?」
「当たり前だよね~」
「はぁ!?誰だ!?え!?お前・・・」
物陰から声が聞こえた。うん。忘れていた訳ではない。忘れていた訳ではないが、頭から離れていた。例の雑賀孫一達だ。
「いつからそこに居た!?」
「それは異な事。初めからこの社の影に括り付けられていたさ。あぁ~。ちなみに長逸殿の軍なら雑賀衆が入り込んでいるから気をつけなされ。俺ぁ~に続く名手だよ~」
「名手だと!?」
「前に集中しなさい。二射目がくる。3 2 1」
パンッパンッパンッパンッパンッ
ガキンッガキンッガキンッガキンッ
毎度の事ながら小川さんも凄いけど、上泉さんは化け物かよ!?何で撃たれるタイミングが分かるんだよ!?
「不思議にお思いか。森の静謐、気の流れ、硝煙の臭い。全てを一つと感じ、天と地を感じる事ができれば、自ずと相手が分かる」
「はぃ!?!?」
この人は何者だよ!?いや、剣豪さんなのは知ってるよ!?知ってるけど、ヤバいどころではないだろ!?神の領域の人じゃね!?
「其方の刀は炎を纏わせると聞いたが、どういう事なのか?」
「え!?あっ、はい。本当に炎を纏わせて相手を焼き斬ると言いますか・・・。今は調子が悪いようなので、こっちの刀にします。蛇剣と言って、少し重いのですが斬れ味というか、軽く撫でただけでも甲冑ごとスパッと斬れるのです」
「変わった形の刀だ。南蛮の刀かね?」
「そ、そうですね。南蛮の刀です」
本当は神界産で、戦神様から貰った刀です!なんて言えないからな。
「某は飛び道具はあまり好かん。だが、時代なのだな。これからは其方等の軍が持っているような、銃や大砲が主流となるのだろう」
「・・・・そこはなんとも言えません」
「良い。仕方の無い事だ。さて・・・そろそろ敵も姿を現すだろう。某も刀を抜こうか」
「がははは!上泉公も中々に凄い方とお見受け致すが、我が君の刀も中々ですぞ!なんと言っても一之太刀という、素晴らしい技を持っていますからな!」
「なに!?一之太刀だと!?」
いや、小川さんや!?本物の剣豪の前で何を言ってるんだよ!?この人の剣を見てるだろうが!オレの剣なんて、おままごとレベルじゃん!しかも一之太刀とか言ってるけど、適当にオレが知ってる事を発声したら、力が出るから言ってるだけなんだが!?
「剣に生き、剣に全てを掛け、命を賭けた。その頂はまだ見えぬ。我が師である愛州久忠先生より、陰流の全てを記されている秘巻(ひかん)・伝書を託され、技に磨きを掛けて参った。まさか、其方もそれを知っているとは・・・」
「いや、上泉さん!?オレはそんな・・・」
「がははは!上泉公の剣技は先に見ましたが、我が君には及びませぬぞ!」
いや、マジで小川さんは黙ろうか。
「小川さん!止めてくれ!!穴が有れば入りたいくらいなんだけど!そのくらいにオレの剣は、おままごとレベルなんだって!!」
パカラッ パカラッ パカラッ
オレ達が言い合っていると、山手側から本当に300人くらいの兵が現れた。オレの想像での三好長逸は、結構な歳でヨボヨボなイメージがあったが・・・。
「チッ。まさか、先代将軍の剣術指南、剣鬼、剣聖、剣豪とも言われ、日の本一の兵法家と名高い、上泉信綱公が居るとはな」
「久しぶりでありまするな。三好日向守殿」
うん。バリッバリに武闘派の身体をしている。しかも信長さん並みのオーラだし、まさかの先頭に居るとは思わなかった。上泉さんと顔見知りのようだ。
「宗渭と義継が討ち取られた意味が分かった。皆の者。手を出すな。馬廻りが束になろうが上泉公には敵わぬ。ワシ自らが引導を渡してやろうぞ」
「ふっ。其方は勘違いしておる。2人を討ち取ったのはこの織田家 料理ご意見番の芝田剣城殿だ」
いや、上泉さんも勘弁して下さい!この流れって確実に、オレとこの人との一騎打ちの流れじゃん!?貴方の方が余裕で倒せるでしょ!?
「なぁにぃ~!?料理ご意見番だ!?舐めておるのか?」
いや、そんな真顔で凄まれても、本当にご意見番なんだから仕方ないだろ!?ここはハッタリをかまして、上泉さんに譲ろう。
「聞け!下郎!嘘偽りなく答える!オレは織田家 支配内 料理ご意見番 芝田剣城だ!三好義継が一騎打ちを仕掛けてきたが、卑怯にも戦いの最中に自分諸共、爆死覚悟で大砲を撃ってきた!だが、オレにはこの横の小川三左衛門が居る!見事、大砲を無効化してくれた!だから義継は斬った。そして三好宗渭は『卑怯でも何でも良い』と言って襲い掛かって来た。故に宗渭も斬った。この横に座す上泉信綱公は・・・」
「黙れッ!小僧ッ!!!ふざけた事を抜かすでない!何が下郎ぞ!」
うん。精一杯、低い声で言ったけど回避失敗・・・どころか、激昂させてしまったようだ。やっぱオレは、脅すような口調はいつまで経っても無理だな。
「黙れ・・・小僧・・・ですか?おじさんは舐めているのですか?」
オレの横に居る、いつも寡黙な凛ちゃんが低い声で喋り出した。こんな凛ちゃん初めて見たし、なんなら、この三好長逸や信長さんより怖いんだが!?
「女か。控えろ!ここは女子(おなご)の出る幕ではない!」
「剣城様。殺っちゃっていいですか?ねぇ?殺っちゃいましょう。鈴に言って、エチルベンゼンとホルムアルデヒド、次亜塩素酸を用意し投げ込み、骨まで残らないようにしてやりましょう。剣城様に軽口を叩いた事を、後悔させてやりましょう」
「「「「・・・・・・・」」」」
「お、おい。凛よ・・・」
「なに!?青木様もそう思うでしょう!?」
「いや、そうは思うがそれは流石に惨いと思うのだが・・・。考えただけでも身震いしてしまいそうだ」
凛ちゃんは、なんて酷い事を言うんだ。青木さんは何の物質か知ってるから、想像できるんだろう。だから身震いしてしまいそうなのか。オレは漂白剤と接着剤の原料だとは分かるけど・・・。いや、そんな事より凛ちゃんも普段大人しいのに、ここでキレるのか!?
「何をごちゃごちゃ言っている!そこまでワシを殺したいのならお前が死ねッ!!うりゃぁ!」
この三好長逸・・・馬上からだが抜くのが早い。オレの蛇剣は鞘が無い為、既に抜いていたから素早く反応した。
ガキンッ!!
「凛ちゃん。少し待とうか」
「すいません。少し熱くなってしまいました。剣城様が討ち取らなければ、城持ちの話が消えてしまいますよね・・・。申し訳ありません」
皆が、城持ち城持ちって言ってくれてはいるけど、そりゃあ欲しいのは欲しいけど、別にそこまで気にしてないんだけどな・・・。あぁ~あ。完璧に一騎打ちの流れじゃん。またさっきみたいに円陣になってきているし。
「甲賀隊!手を出すな!剣城様の一騎打ちだ!そこの牧村婆!無闇に敵を突くでない!小泉爺!獲物を振り回すな!」
「はぁ~。何でこうなるんだよ・・・。おい!お前も状況が分かるんだろう?ここでオレに勝てても三好は終わり。それでも一騎打ちするのか?」
「ふん。知れた事。未だ兵が残っている。筒井の兵も無傷だ。挟み撃ちで貴様等の方こそ終わりだ」
「見届け人は上野国 上泉信綱が致す。日向守殿。負ければ兵を退かせるように言いなされ。無益に全兵が死ぬ事はない」
「耄碌したか!上泉ッ!!!」
「耄碌したのはどちらだ。例え其方が勝ったとしても、大局的には大負けであろう。芝田殿は先駆けの軍だ。織田本隊は未だ来て居ない。美濃からここまで短時間で来られた芝田軍。それがどういうカラクリかは分からぬが、まだ本隊が来ていない意味が、分からぬ訳ではなかろう?」
やっぱ上泉さんも凄いな。全てを見ているんだな。そうだ。本気で行軍すれば美濃から京都まで、農業神様から与えられた食べ物を食べている織田軍は、3時間もあればここまで来れる筈だ。
オレ達が開戦して10時間程は経っている。もう太陽も沈みかけだ。オレの身体的には大丈夫だが、他の皆は寒いだろう。風もそこそこ吹いているから今夜は雪かもしれない。さっさと勝負を決めるか。
「上泉様。もういいですよ。三好長逸。降りろ。一騎打ちだ」
「ふん。小僧め!その心意気や良し。だが甘く見ると貴様の胴と首が引き千切れるぞ!」
「抜かせッ!!!一之太刀ッッ!!!」
オレはいつものように発声して剣を振りかぶった。が・・・何かがおかしい。長逸も構えてはいるが、このままなら簡単に斬れる。
「剣城様!!」「我が君!!」
シュンッ ズドッ
オレは一瞬何が起こったか分からなかった。違和感を抱き、踏み込みが浅くなったのは自覚している。ベヒーモスーツもあるから斬られてはいないが、右肩が異常に熱く感じる。
「クッ・・・。卑怯・・・いや、それはオレのせいだな。義継も一騎打ちと言い、大砲を撃とうとした。いや、撃ってきた。お前は隠し刀と投げ刀か。三好は卑怯者だと事前に知っていたのに、な」
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長逸は投げ刀を投げて来た。確かにあのまま踏み込めば首に刺さっていたか。このベヒーモスーツのお陰で致命傷にはなっていないけど、肩は貫くんだな。それにしても痛いな。
「その肩では最早、その禍々しい刀も振れまい。死ねぃ!」
直感的にヤバいと思った。
が、しかし・・・。
ビシュンッ
「其方は剣にまで卑怯になったか!日向守ッッ!!!卑怯な刀を使うなら、その刀を奪うぞ!」
ガシャンッ
「ぬっ・・・」
「は!?」
もう、『は!?』としか言いようがなかった。なんと上泉さん。オレに投げられた二つ目の投げ刀を空中でキャッチしたのだ。しかも素手でだ。
そしてその間に一瞬の隙が出来たのを、オレは見逃さない。向こうが卑怯な手を使うなら、オレも今この時を使う。
「一之太刀ッッ!!!!」
流石に左手一本で蛇剣は持てない為、懐に忍ばせている、織田木瓜紋入りの・・・最初の時にお市さんから初めて貰った刀を出す。そして力一杯に剣を振りかぶった。
ズシャンッ
その剣筋は自分でも分かるくらいに、プロミさんの剣より、両手で振った蛇剣なんかより綺麗な剣筋だった。
ポトン
「「「「「・・・・・・」」」」」
一瞬、自分でも何が起こったか分からなかった。いや、あまりに抵抗無く斬れた為、驚いた。なんなら、スカ振りしてしまったかのように感じてしまった。
甲賀隊も、青木さんも望月さんも細川さんも金剛君、凛ちゃん達、皆が唖然としていた。見届け人に名乗りを上げてくれた上泉さんまで、少し驚いた顔をしている。
「しょ、勝負ありッ!!それまでッ!!!」
「と、殿!!」
「殿ぉぉぉぉ~!!おのれ!!お前等!殿に殉じろ!一兵でも多く倒せ!特にあの芝田という奴は必ず倒せッ!!!!」
やはりこうなるか。まぁそうだよな。
「カッカッカッカッ!剣城様へ更に首の土産が出来たわい!骨を砕かれたい者は前に出ろ!」
「風穴空けたい奴は誰さね!?」
「・・・・滅殺」
「芝田殿。見事なお手前でした。是非、落ち着けば、先の『一之太刀』の極意を御教授願いたい。未だ某の陰流は完成に程遠いように思えた。それより・・・凛殿と申したか。芝田殿のこの怪我は・・・」
「お控え下さい。剣城様はこのくらいは、どうという事御座いません」
いや、どうという事どころか、戦い終えたら滅茶苦茶痛く感じてきたんだけど!?薬飲むか!?鈴ちゃんとか鞠ちゃんを、待っていられないんだけど!?
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迷熊井 泥(Make my day)
歴史・時代
巌流島で武蔵と戦ったあの佐々木小次郎は剣聖伊藤一刀斎に剣を学び、徳川家のため幕府を脅かす海賊を粛清し、たった一人で島津と戦い、豊臣秀頼の捜索に人生を捧げた公儀隠密だった。孤独に生きた宮本武蔵を理解し最も慕ったのもじつはこの佐々木小次郎を名乗った男だった。任務のために巌流島での決闘を演じ通算四度も死んだふりをした実在した超人剣士の物語である。
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