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永禄の改革
皆と一丸になって
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「坂井隊ッッ!!三好の裏切り者に正義の鉄槌を降せ!!!隼人隊ッッ!!各々が狙撃せよッ!!前田殿は御自分の機で突撃されたしッ!!後続の隊は剣城殿にお任せ致すッ!!!第一陣!進めッッ!!」
「「「「「オォ──ッッ!!!!」」」」」
~坂井目線~
クッ・・・。森では狙撃が危なかった。剣城殿から『防弾ちょっきか、防刃ちょっきを選んでくれ』と言われ、俺は防弾ちょっきなる物を着ているから、弾は貫通しないとは思っていたが・・・。
いやいや、そんな事より・・・防衛する筈が、いつのまにか攻め立てる事となった。またもや、俺が第一陣だ。
「クックックッ。よもや、万夫不当の豪傑と名高い坂井様でも、一騎残らず討ち取る事は難しいでしょう。後方の我等にも敵を残して下さい」
「我が主を痛めつけた、三好なんかはこの剣城様から頂いた、蚩尤瀑布砕にて木っ端微塵にしてやる」
甲賀頭領の望月信雅殿・・・。いや、今は信雅の名前を捨て、源三郎だったか。しかも元甲賀頭領だが、今は芝田家の侍大将格だったな。あの望月殿までもが、禍々しい獲物を装備している。
そして、あの御老体様が彼の有名な・・・骨砕き・・・。うぅ~ん。口にするのも恐ろしい。そんな者達が後ろに控えているとは・・・。
シャルルルル~ ストン
「うっ・・・うを!?焦った!!」
「ふふふ。若殿。貴方が坂井様でしょう?ワッチは牧村春子と申します。貴方様の武勇はお聞きしておりまするが・・・くれぐれもワッチ等にも、獲物は残していただきたく」
「あっ、あぁ。さすがに全部は討ち取る事はできない」
「そうですか。坂井様ならば我が殿の剣城様もが、一目置いておられる方ですから。本気を出せばこのくらいの敵ならば、討ち取ってしまわれるでしょう?優しい若人じゃ。ではよろしく頼みますよ。ふふふ」
あの婆さんは串刺し・・・いいや。これこそ口にする事こそ危うい・・・。それにあの身のこなし・・・。あぁ・・・オレが三好側じゃなくて良かった・・・。だが、やはり皆まで勘違いしている。オレは成り行きで、こうなっているだけだというのに・・・。
考えると、ここまでの大軍と戦った事は無かった。敵にも今回は大砲があると聞いている。無印の大筒とはいえ、小泉殿ほどの腕が無いとはいえ、脅威には変わりない。
『坂井隊ッッ!!三好の裏切り者に正義の鉄槌を降せ!!!隼人隊ッッ!!各々が狙撃せよッ!!前田殿は御自分の機で突撃されたしッ!!後続の隊は剣城殿にお任せ致すッ!!!第一陣!進めッッ!!』
「坂井殿!!」
えぇ!?もう始めるのか!?早くないか!?
「クッ・・・と、突撃ッッ!!!」
「「「「ウォォォォ!!!!!」」」」
「へぇ~。変にまた口上を言うより、突撃の一声でもあんなに士気が高くなるんだな。青木さん!今度オレが激を言う時は、あんな感じでもいいかな?」
「はっ。我等は剣城様の御言葉が発せられれば、それがどんな言葉でも尊いです!」
「あ、うん。ありがとう。さて・・・野田お爺ちゃん、小泉お爺ちゃん、牧村お婆ちゃん、青木さん、それに古の猛者の方々。くれぐれも死なないように。望月さん。後方はお願いしますね」
「任されたし。此度は私も少々働かせてもらいますが、ね・・・」
シャキ──ン
怖ぇ~よ!その返しの鉤爪はどうやって作ったんだよ!?
「剣城殿!竹中隊も出ます!明智隊、奉行衆も直に出る故・・・後の事は頼みますぞ!」
「分かりました。道を突進し、三好義継、宗渭は必ず討ち取ります」
『キャッハッハッハッ!!血さ!血ッ!血ィ!血湧き肉躍る音・・・あぁ~・・・この音を待っていたのさ!もう待てない!』
「ほっほっほっ。此度はプロミ嬢を装備ですか?剣城殿も御武運を。プロミ嬢にもたっぷりと、敵の血を吸わせてあげて下さい。では・・・上杉隊、浅井隊は私の後ろに。攻撃陣形!偃月の陣!突撃ッ!!」
いやいや、普通に成長する剣のプロミネンス剣のプロミさんが、話し掛けて来たんだが!?しかもラリってるんだが!?それを半兵衛さんは疑問に思わないのかよ!?
~三好本陣~
「何!?義継の言う通り打って出て来ただと!?」
「叔父上。剣城殿は、ああいう方です。配下も待ちが嫌いで、攻め立てる事を是とする軍です。それに・・・一度、敵と認識されれば容赦は無い」
「うむ。頭のおかしい連中だ。義継の言った通り、筒井家や別働隊もこちらに移しておいてよかったわ」
「侮ってはいけません。ここからが本番です。新式ではありませんが、2門だけとはいえ、大筒がこちらにもあって良かった。剣城軍の小泉隊程ではない故、連射は出来ませぬが、まさか己の武器が自分達に向けられるとは、思っていないでしょう」
「誠な・・・。大きくなったな。義継」
「叔父上・・・」
「案ずるな。くれぐれもお主を死なせたりせぬ。将軍さえ捕縛できれば、後の事はワシ等に任せておけば良い。政(まつりごと)は追々、学んでいけば良い」
「ありがとうございます。では、手前も前に出ます。手前の指揮で大筒を撃って下さい。それで敵が静まったら狩り時です。坂井殿の首と剣城殿の首が取れれば、敵の勢いは止まります」
「うむ。分かった」
上洛戦の時に坂井隊、美濃三人衆、剣城隊の活躍は知っている。坂井殿と美濃三人衆と呼ばれる、安藤隊、氏家隊、稲葉隊の突進力を利用した神速の行軍にて、敵を屠ってきた。未知の剣城殿の武器をも俺は把握している。
ただ一つ誤算があるとすれば・・・。あの旗印は九枚笹。竹中家の家紋・・・。今孔明と名高い竹中殿を俺は知らない。この狭い場所でも完璧な陣形、統率の取れた隊・・・。
少し歪ではあるが、幕府軍だろうと思われる男が率いる小さな集団。5丁程しか見えないが、鉄砲で確実に敵を倒していっている。あの男も確か美濃の者だったか。竹中家も美濃・・・。
今は考えても仕方がない。確実に剣城殿を屠るという事だ。
「長槍隊を出せ!槍襖にて敵を近付けさせるな!鉛甲冑装備の者を前に出せ!敵の狙撃も来るぞ!大筒の準備を急がせろ!あの先頭を潰せ!あれなる者が坂井隊の大将だ!」
「御報告申し上げます!!」
「うむ」
「敵の勢い激しく、押されていましたが、人数差もあり止まりました!敵の狙撃で微々たる被害は出ていますが、殿の言われた通り、前側だけ鉛鎧を装備させた者は、全員無事でございます」
「そうか。今少し時間があれば、もっと装備できる者が居ただろう。下がれ」
ふっ。国友印があるとはいえど、鉛は貫通しないと。卑怯と言われようと、一度でも俺を信用した剣城殿の落ち度だ。夢幻兵器もここではそうは効果が無いだろう。密集さえしなければどうという事はない。
~隼人隊~
「隼人様。敵は鎧に何か仕込んでいるようで、貫通しません!」
「う~ん。そのようだな。距離を稼ぐ戦ではないなら、あの重たい装備でも有りという事か。敵は我等の事を知っているからな」
「え!?褒めてどうするのですか!?」
「クックックッ。全員があの着込みを装備している訳ではないだろう?お前達の緊急用の焙烙玉を渡せ」
「焙烙玉ですか?確かに密集した敵には有効ですが、こうも乱戦になっている中、投げ込むのは味方にも・・・」
「つべこべ言うな。早く寄越せ。慶次様が直に出られる。押され気味で、敵に勝機をあの方が手渡す筈がない。慶次様が出られたら焙烙玉で道を作るのだ。中陣の敵をお前達は狙撃せよ。今のところ敵の弓矢は効果が無い。これもあの糸子殿が作られた着込みのお陰だ」
「はっ!」
「さて・・・嫌な時間だな。足が止まり、いくら装備が良いといっても、こうも敵さんと数の差があれば、あの坂井隊も苦戦するか。剣城?そろそろ俺は出るぞ。この嫌な流れを断ち切ってくる」
「了解です。気を付けて下さい」
「任せとけって!お前が三好を討つまで敵を撹乱してやるさ。それに今回は昔、お前から貰った皆朱槍を持って来ているんだ」
「あっ、神槍ロンギヌスね。地走りだっけ?民家はあまり壊さないようにね。住民にも剛力君にも怒られるかもしれないから」
「その辺も大丈夫だ。俺はセンスがあるからな!訓練しなくてもそれくらい出来るんだぜ!はっはっはっ!じゃあな!大将。頼んだぞ。奉行衆ッ!!待たせたな!これより我等は先陣を追い越して、敵の中陣を叩くッ!前も横も後ろも敵だらけの場所に自ら飛び込み、剣城に道を作る!お前達は映えある将軍の兵だ!見事、大役を果たしてみせよ!」
「「「「オォ────ッ!!!!」」」」
オレは知っている。この人は人の居ない所で並々ならぬ訓練、修練をしている事を。けどそれは敢えて言わない。装備だけ煌びやかで、実戦で邪魔だろ!?って思う物が付いてある甲冑を装備している、奉行衆の兵達。恐らくどこぞの良い血筋関係の人だろう。
それをこうも士気を高くさせ、相手に華を持たせる口上。この人も竹中半兵衛さんと同じ本物だ。
「前田隊ッ!!突撃ッ!!剛力!道を開けろ!奉行衆!ただただ俺の背中を追い掛けて来い!」
「ふぅ~。流石、慶次さんだな。いつもカッコイイな」
「がははは!慶次坊なんかより、我が君の方が男前ですぞ!」
「うむ。俺もそう思います」
「少し見ない間に、青木さんも小川病が移ったのかな?」
「ひ、酷いですぞ!我が君!ワシは本心ですぞ!」
「ふふ。冗談だよ。少し待ってて。すぐ戻るから」
オレは正門の方へと向かう。坂井隊が頑張っているからか、敵の攻撃は届いて来ない。
「剛力君。お疲れ」
「剣城様!」
「今回は指示しなくても、上手く出来ているようだね。流石だよ」
「勿体ない御言葉です」
「剛力隊は今やどこへでも引っ張りだこだからな。鞠ちゃん?」
「はっ!」
「さっき雑賀孫一って人達捕縛したんだけど、1人怪我してるから治してあげてよ。この戦が終われば聞きたい事があるしさ」
「治す・・・のですか?」
「あ、あぁ。うん。実は雑賀孫一ってのは、雑賀の頭領が名乗る名前なんだ。例えあの人を倒しても次の雑賀孫一が生まれるし、傭兵軍団だからね。敵に回すなら本当に根斬りにしないと、後々面倒になるよ」
「ならば、私と凛が今の内に雑賀を潰しましょうか?号令をくれれば7日で・・・」
「ストップ!!!誰も根斬りにしないから!」
忘れていたよ。鈴ちゃんも大概だけど、鞠ちゃん、凛ちゃんも好戦的だったよな。これが衛生班なんだから笑える。
「そうですか・・・」
「だからそこ!残念そうにしない!で、その横の女性は?」
「あっ、この人はお清さんっていう夜伽衆の1人なんです!」
「よ、夜伽衆の1人だと!?そんな部署があるのか!?」
「ありますよ!私は手を出されていませんが、このお清さんは夜伽衆の中でも・・・その下の身分ですので・・・。将軍が下々の方と、交わった事実が無いよう消されそうでしたので、私が保護しました」
「ちょ、ちょっと鞠ちゃん!」
「へぇ~。そうなんだ。こんにちわ。お清さん。鞠ちゃんの上司の剣城と申します。あんなヘッポコ将軍に消されるなんて可哀想だ。良ければ岐阜に来る?あぁ、ごめん。美濃に来る?」
「え!?」
「いや、だから美濃に来る?貴方の考えでは、美濃は田舎としか思わないかもしれないけど、まぁまぁ発展してるよ?出身がどこかは知らないけど、貴方の出生していた所より発展してるって、保証するよ?飯も美味いし、酒も美味いし、仕事も選ぶ程あるよ?当面の生活が成り立つまで、鞠ちゃんに着いていてもいいし。友達もできるんじゃない?オレの配下にも女性が多いんだ」
「ねっ!言ったでしょ!?剣城様は優しいんだよ!けど、間違っても剣城様を惑わさないようにね?優しいからって惑わしてたら、ゆきって奥さんが居るんだけど、半殺しにされるよ!」
いや、何ちゅう事を言うんだよ・・・。ゆきさんは優しいぞ!?
それに将軍と穴・・・兄弟は嫌・・・ではないな。よく見ればお清さんは普通に可愛いぞ!?
「つ・る・ぎ・さ・ま!」
「おっと・・・鞠ちゃん!これは違うぞ!ゴホンッ。まっ、よく考えてよ。本当に消されるなら、着いてくる考えしか思い浮かばないとは、思うけどね。じゃあオレもそろそろ出るから、鞠ちゃんはここをよろしく。凛ちゃんは念の為に連れて行くから」
「了解しました!御武運を!凛!皆をよろしくね!」
「・・・分かっている」
「もう!相変わらず寡黙ね。あっ、怪我しても今度は自分から治さないように、お願いしますね!ちゃんと診察しますので!凛も致命傷じゃない限りは、剣城様を私に診させてよね!」
「・・・・・分かった」「・・・・・・」
「剣城様!返事は!?」
「・・・・分かった」
クッ・・・。三好の兵より鞠ちゃんが怖いぜ。
「エイサーッ!!」「うぉりゃっ!!」「ぬぉぉ!!!」
ゴンッ ドゴンッ ドガッ!!
パンッ パンッ パンッ パンッ
「やっぱ戦だな」
「そりゃそうですよ。三好からすれば進退を賭けた戦ですからな。ですが、よくも考えた物ですな。剛力が捕らえた者の装備を見ましたが、鉛らしき物を誂えた甲冑です」
「ふぅ~ん。これがか・・・。だから隼人君達の狙撃が効果が薄いのか。ってか重っ!!」
「えぇ。これでは満足に動けないでしょう。ですが、移動をあまりしなくても良い戦ならこれはこれで有りかと」
確かに鉄砲相手ならば、これはこれで有りかもしれない。しかも刃も通さないからな。三好が考えつくなら、他の家も考えるかもしれないから、これは今後は考えないといけない。
「がははは!我が君!ワシの方天戟なら、このような鎧だろうが甲冑だろうが、無問題ですぞ!!」
ドゴンッ!!
「いやいや、それは筆頭家老様しか思わないから。皆が方天戟なんて使えないよ・・・あっ・・・これは・・・道が・・・。見える!皆ッ!!待たせました!!道が出来ました!坂井様が穴を作り、半兵衛さんが道を切り開き、慶次さんが届かせた敵本陣への道!!行くぞ!!」
"キャハッ♪剣城っち!今度こそあーしが守るよ"
"ノア。頼むぞ。敵陣を突っ切るぞ"
「木脇様。先頭よろしくお願いします」
「畏まりました。島津兵児ッ!!出番だ!おいどん等は剣城様の魁ぞ!抜けッ!!!疾く疾くと本陣へ進め!出撃ッ!!」
「芝田隊ッ!!島津隊に続けッ!!突撃ッ!!!」
「あぁ・・・光悦・・・蕩けそうだよ・・・」
坂井さんの大軍を恐れない勇気、半兵衛さんの敵の一手二手先を読む軍略、慶次さんの鬼神の如き働き、島津隊の士気の高さ、初めて会うオレに全幅の信頼を寄せて、死をも恐れぬ魁・・・。
「敵を殺す」
「がははは!我が君も猛ってきましたか!我が君より与えられし、選ばれた者しか装備できぬ成長する大盾。我が君の成長する剣と良い勝負ですな!我が君への攻撃はワシが引き受ける!青木!お前は露払いを!我が君を疲れさせるな!望月頭領は常に我が君の横に!」
「おうよッ!!」 「当たり前だ!」
完全にオレは充てられている。客観的にオレは自分でも分かる。もう何度目かの戦だ。人を殺す戦・・・。
戦は嫌いだと思っているが、オレに従ってくれる後ろの皆を見ると、どことなく湧いてくる高揚感。金剛君は心配そうに東門の方から見ている。剛力君はオレが翔ける時に頭を下げる。鞠ちゃんはグーを突き出し喜んでいる。
この感じ・・・嫌いじゃない。
「「「「「オォ──ッッ!!!!」」」」」
~坂井目線~
クッ・・・。森では狙撃が危なかった。剣城殿から『防弾ちょっきか、防刃ちょっきを選んでくれ』と言われ、俺は防弾ちょっきなる物を着ているから、弾は貫通しないとは思っていたが・・・。
いやいや、そんな事より・・・防衛する筈が、いつのまにか攻め立てる事となった。またもや、俺が第一陣だ。
「クックックッ。よもや、万夫不当の豪傑と名高い坂井様でも、一騎残らず討ち取る事は難しいでしょう。後方の我等にも敵を残して下さい」
「我が主を痛めつけた、三好なんかはこの剣城様から頂いた、蚩尤瀑布砕にて木っ端微塵にしてやる」
甲賀頭領の望月信雅殿・・・。いや、今は信雅の名前を捨て、源三郎だったか。しかも元甲賀頭領だが、今は芝田家の侍大将格だったな。あの望月殿までもが、禍々しい獲物を装備している。
そして、あの御老体様が彼の有名な・・・骨砕き・・・。うぅ~ん。口にするのも恐ろしい。そんな者達が後ろに控えているとは・・・。
シャルルルル~ ストン
「うっ・・・うを!?焦った!!」
「ふふふ。若殿。貴方が坂井様でしょう?ワッチは牧村春子と申します。貴方様の武勇はお聞きしておりまするが・・・くれぐれもワッチ等にも、獲物は残していただきたく」
「あっ、あぁ。さすがに全部は討ち取る事はできない」
「そうですか。坂井様ならば我が殿の剣城様もが、一目置いておられる方ですから。本気を出せばこのくらいの敵ならば、討ち取ってしまわれるでしょう?優しい若人じゃ。ではよろしく頼みますよ。ふふふ」
あの婆さんは串刺し・・・いいや。これこそ口にする事こそ危うい・・・。それにあの身のこなし・・・。あぁ・・・オレが三好側じゃなくて良かった・・・。だが、やはり皆まで勘違いしている。オレは成り行きで、こうなっているだけだというのに・・・。
考えると、ここまでの大軍と戦った事は無かった。敵にも今回は大砲があると聞いている。無印の大筒とはいえ、小泉殿ほどの腕が無いとはいえ、脅威には変わりない。
『坂井隊ッッ!!三好の裏切り者に正義の鉄槌を降せ!!!隼人隊ッッ!!各々が狙撃せよッ!!前田殿は御自分の機で突撃されたしッ!!後続の隊は剣城殿にお任せ致すッ!!!第一陣!進めッッ!!』
「坂井殿!!」
えぇ!?もう始めるのか!?早くないか!?
「クッ・・・と、突撃ッッ!!!」
「「「「ウォォォォ!!!!!」」」」
「へぇ~。変にまた口上を言うより、突撃の一声でもあんなに士気が高くなるんだな。青木さん!今度オレが激を言う時は、あんな感じでもいいかな?」
「はっ。我等は剣城様の御言葉が発せられれば、それがどんな言葉でも尊いです!」
「あ、うん。ありがとう。さて・・・野田お爺ちゃん、小泉お爺ちゃん、牧村お婆ちゃん、青木さん、それに古の猛者の方々。くれぐれも死なないように。望月さん。後方はお願いしますね」
「任されたし。此度は私も少々働かせてもらいますが、ね・・・」
シャキ──ン
怖ぇ~よ!その返しの鉤爪はどうやって作ったんだよ!?
「剣城殿!竹中隊も出ます!明智隊、奉行衆も直に出る故・・・後の事は頼みますぞ!」
「分かりました。道を突進し、三好義継、宗渭は必ず討ち取ります」
『キャッハッハッハッ!!血さ!血ッ!血ィ!血湧き肉躍る音・・・あぁ~・・・この音を待っていたのさ!もう待てない!』
「ほっほっほっ。此度はプロミ嬢を装備ですか?剣城殿も御武運を。プロミ嬢にもたっぷりと、敵の血を吸わせてあげて下さい。では・・・上杉隊、浅井隊は私の後ろに。攻撃陣形!偃月の陣!突撃ッ!!」
いやいや、普通に成長する剣のプロミネンス剣のプロミさんが、話し掛けて来たんだが!?しかもラリってるんだが!?それを半兵衛さんは疑問に思わないのかよ!?
~三好本陣~
「何!?義継の言う通り打って出て来ただと!?」
「叔父上。剣城殿は、ああいう方です。配下も待ちが嫌いで、攻め立てる事を是とする軍です。それに・・・一度、敵と認識されれば容赦は無い」
「うむ。頭のおかしい連中だ。義継の言った通り、筒井家や別働隊もこちらに移しておいてよかったわ」
「侮ってはいけません。ここからが本番です。新式ではありませんが、2門だけとはいえ、大筒がこちらにもあって良かった。剣城軍の小泉隊程ではない故、連射は出来ませぬが、まさか己の武器が自分達に向けられるとは、思っていないでしょう」
「誠な・・・。大きくなったな。義継」
「叔父上・・・」
「案ずるな。くれぐれもお主を死なせたりせぬ。将軍さえ捕縛できれば、後の事はワシ等に任せておけば良い。政(まつりごと)は追々、学んでいけば良い」
「ありがとうございます。では、手前も前に出ます。手前の指揮で大筒を撃って下さい。それで敵が静まったら狩り時です。坂井殿の首と剣城殿の首が取れれば、敵の勢いは止まります」
「うむ。分かった」
上洛戦の時に坂井隊、美濃三人衆、剣城隊の活躍は知っている。坂井殿と美濃三人衆と呼ばれる、安藤隊、氏家隊、稲葉隊の突進力を利用した神速の行軍にて、敵を屠ってきた。未知の剣城殿の武器をも俺は把握している。
ただ一つ誤算があるとすれば・・・。あの旗印は九枚笹。竹中家の家紋・・・。今孔明と名高い竹中殿を俺は知らない。この狭い場所でも完璧な陣形、統率の取れた隊・・・。
少し歪ではあるが、幕府軍だろうと思われる男が率いる小さな集団。5丁程しか見えないが、鉄砲で確実に敵を倒していっている。あの男も確か美濃の者だったか。竹中家も美濃・・・。
今は考えても仕方がない。確実に剣城殿を屠るという事だ。
「長槍隊を出せ!槍襖にて敵を近付けさせるな!鉛甲冑装備の者を前に出せ!敵の狙撃も来るぞ!大筒の準備を急がせろ!あの先頭を潰せ!あれなる者が坂井隊の大将だ!」
「御報告申し上げます!!」
「うむ」
「敵の勢い激しく、押されていましたが、人数差もあり止まりました!敵の狙撃で微々たる被害は出ていますが、殿の言われた通り、前側だけ鉛鎧を装備させた者は、全員無事でございます」
「そうか。今少し時間があれば、もっと装備できる者が居ただろう。下がれ」
ふっ。国友印があるとはいえど、鉛は貫通しないと。卑怯と言われようと、一度でも俺を信用した剣城殿の落ち度だ。夢幻兵器もここではそうは効果が無いだろう。密集さえしなければどうという事はない。
~隼人隊~
「隼人様。敵は鎧に何か仕込んでいるようで、貫通しません!」
「う~ん。そのようだな。距離を稼ぐ戦ではないなら、あの重たい装備でも有りという事か。敵は我等の事を知っているからな」
「え!?褒めてどうするのですか!?」
「クックックッ。全員があの着込みを装備している訳ではないだろう?お前達の緊急用の焙烙玉を渡せ」
「焙烙玉ですか?確かに密集した敵には有効ですが、こうも乱戦になっている中、投げ込むのは味方にも・・・」
「つべこべ言うな。早く寄越せ。慶次様が直に出られる。押され気味で、敵に勝機をあの方が手渡す筈がない。慶次様が出られたら焙烙玉で道を作るのだ。中陣の敵をお前達は狙撃せよ。今のところ敵の弓矢は効果が無い。これもあの糸子殿が作られた着込みのお陰だ」
「はっ!」
「さて・・・嫌な時間だな。足が止まり、いくら装備が良いといっても、こうも敵さんと数の差があれば、あの坂井隊も苦戦するか。剣城?そろそろ俺は出るぞ。この嫌な流れを断ち切ってくる」
「了解です。気を付けて下さい」
「任せとけって!お前が三好を討つまで敵を撹乱してやるさ。それに今回は昔、お前から貰った皆朱槍を持って来ているんだ」
「あっ、神槍ロンギヌスね。地走りだっけ?民家はあまり壊さないようにね。住民にも剛力君にも怒られるかもしれないから」
「その辺も大丈夫だ。俺はセンスがあるからな!訓練しなくてもそれくらい出来るんだぜ!はっはっはっ!じゃあな!大将。頼んだぞ。奉行衆ッ!!待たせたな!これより我等は先陣を追い越して、敵の中陣を叩くッ!前も横も後ろも敵だらけの場所に自ら飛び込み、剣城に道を作る!お前達は映えある将軍の兵だ!見事、大役を果たしてみせよ!」
「「「「オォ────ッ!!!!」」」」
オレは知っている。この人は人の居ない所で並々ならぬ訓練、修練をしている事を。けどそれは敢えて言わない。装備だけ煌びやかで、実戦で邪魔だろ!?って思う物が付いてある甲冑を装備している、奉行衆の兵達。恐らくどこぞの良い血筋関係の人だろう。
それをこうも士気を高くさせ、相手に華を持たせる口上。この人も竹中半兵衛さんと同じ本物だ。
「前田隊ッ!!突撃ッ!!剛力!道を開けろ!奉行衆!ただただ俺の背中を追い掛けて来い!」
「ふぅ~。流石、慶次さんだな。いつもカッコイイな」
「がははは!慶次坊なんかより、我が君の方が男前ですぞ!」
「うむ。俺もそう思います」
「少し見ない間に、青木さんも小川病が移ったのかな?」
「ひ、酷いですぞ!我が君!ワシは本心ですぞ!」
「ふふ。冗談だよ。少し待ってて。すぐ戻るから」
オレは正門の方へと向かう。坂井隊が頑張っているからか、敵の攻撃は届いて来ない。
「剛力君。お疲れ」
「剣城様!」
「今回は指示しなくても、上手く出来ているようだね。流石だよ」
「勿体ない御言葉です」
「剛力隊は今やどこへでも引っ張りだこだからな。鞠ちゃん?」
「はっ!」
「さっき雑賀孫一って人達捕縛したんだけど、1人怪我してるから治してあげてよ。この戦が終われば聞きたい事があるしさ」
「治す・・・のですか?」
「あ、あぁ。うん。実は雑賀孫一ってのは、雑賀の頭領が名乗る名前なんだ。例えあの人を倒しても次の雑賀孫一が生まれるし、傭兵軍団だからね。敵に回すなら本当に根斬りにしないと、後々面倒になるよ」
「ならば、私と凛が今の内に雑賀を潰しましょうか?号令をくれれば7日で・・・」
「ストップ!!!誰も根斬りにしないから!」
忘れていたよ。鈴ちゃんも大概だけど、鞠ちゃん、凛ちゃんも好戦的だったよな。これが衛生班なんだから笑える。
「そうですか・・・」
「だからそこ!残念そうにしない!で、その横の女性は?」
「あっ、この人はお清さんっていう夜伽衆の1人なんです!」
「よ、夜伽衆の1人だと!?そんな部署があるのか!?」
「ありますよ!私は手を出されていませんが、このお清さんは夜伽衆の中でも・・・その下の身分ですので・・・。将軍が下々の方と、交わった事実が無いよう消されそうでしたので、私が保護しました」
「ちょ、ちょっと鞠ちゃん!」
「へぇ~。そうなんだ。こんにちわ。お清さん。鞠ちゃんの上司の剣城と申します。あんなヘッポコ将軍に消されるなんて可哀想だ。良ければ岐阜に来る?あぁ、ごめん。美濃に来る?」
「え!?」
「いや、だから美濃に来る?貴方の考えでは、美濃は田舎としか思わないかもしれないけど、まぁまぁ発展してるよ?出身がどこかは知らないけど、貴方の出生していた所より発展してるって、保証するよ?飯も美味いし、酒も美味いし、仕事も選ぶ程あるよ?当面の生活が成り立つまで、鞠ちゃんに着いていてもいいし。友達もできるんじゃない?オレの配下にも女性が多いんだ」
「ねっ!言ったでしょ!?剣城様は優しいんだよ!けど、間違っても剣城様を惑わさないようにね?優しいからって惑わしてたら、ゆきって奥さんが居るんだけど、半殺しにされるよ!」
いや、何ちゅう事を言うんだよ・・・。ゆきさんは優しいぞ!?
それに将軍と穴・・・兄弟は嫌・・・ではないな。よく見ればお清さんは普通に可愛いぞ!?
「つ・る・ぎ・さ・ま!」
「おっと・・・鞠ちゃん!これは違うぞ!ゴホンッ。まっ、よく考えてよ。本当に消されるなら、着いてくる考えしか思い浮かばないとは、思うけどね。じゃあオレもそろそろ出るから、鞠ちゃんはここをよろしく。凛ちゃんは念の為に連れて行くから」
「了解しました!御武運を!凛!皆をよろしくね!」
「・・・分かっている」
「もう!相変わらず寡黙ね。あっ、怪我しても今度は自分から治さないように、お願いしますね!ちゃんと診察しますので!凛も致命傷じゃない限りは、剣城様を私に診させてよね!」
「・・・・・分かった」「・・・・・・」
「剣城様!返事は!?」
「・・・・分かった」
クッ・・・。三好の兵より鞠ちゃんが怖いぜ。
「エイサーッ!!」「うぉりゃっ!!」「ぬぉぉ!!!」
ゴンッ ドゴンッ ドガッ!!
パンッ パンッ パンッ パンッ
「やっぱ戦だな」
「そりゃそうですよ。三好からすれば進退を賭けた戦ですからな。ですが、よくも考えた物ですな。剛力が捕らえた者の装備を見ましたが、鉛らしき物を誂えた甲冑です」
「ふぅ~ん。これがか・・・。だから隼人君達の狙撃が効果が薄いのか。ってか重っ!!」
「えぇ。これでは満足に動けないでしょう。ですが、移動をあまりしなくても良い戦ならこれはこれで有りかと」
確かに鉄砲相手ならば、これはこれで有りかもしれない。しかも刃も通さないからな。三好が考えつくなら、他の家も考えるかもしれないから、これは今後は考えないといけない。
「がははは!我が君!ワシの方天戟なら、このような鎧だろうが甲冑だろうが、無問題ですぞ!!」
ドゴンッ!!
「いやいや、それは筆頭家老様しか思わないから。皆が方天戟なんて使えないよ・・・あっ・・・これは・・・道が・・・。見える!皆ッ!!待たせました!!道が出来ました!坂井様が穴を作り、半兵衛さんが道を切り開き、慶次さんが届かせた敵本陣への道!!行くぞ!!」
"キャハッ♪剣城っち!今度こそあーしが守るよ"
"ノア。頼むぞ。敵陣を突っ切るぞ"
「木脇様。先頭よろしくお願いします」
「畏まりました。島津兵児ッ!!出番だ!おいどん等は剣城様の魁ぞ!抜けッ!!!疾く疾くと本陣へ進め!出撃ッ!!」
「芝田隊ッ!!島津隊に続けッ!!突撃ッ!!!」
「あぁ・・・光悦・・・蕩けそうだよ・・・」
坂井さんの大軍を恐れない勇気、半兵衛さんの敵の一手二手先を読む軍略、慶次さんの鬼神の如き働き、島津隊の士気の高さ、初めて会うオレに全幅の信頼を寄せて、死をも恐れぬ魁・・・。
「敵を殺す」
「がははは!我が君も猛ってきましたか!我が君より与えられし、選ばれた者しか装備できぬ成長する大盾。我が君の成長する剣と良い勝負ですな!我が君への攻撃はワシが引き受ける!青木!お前は露払いを!我が君を疲れさせるな!望月頭領は常に我が君の横に!」
「おうよッ!!」 「当たり前だ!」
完全にオレは充てられている。客観的にオレは自分でも分かる。もう何度目かの戦だ。人を殺す戦・・・。
戦は嫌いだと思っているが、オレに従ってくれる後ろの皆を見ると、どことなく湧いてくる高揚感。金剛君は心配そうに東門の方から見ている。剛力君はオレが翔ける時に頭を下げる。鞠ちゃんはグーを突き出し喜んでいる。
この感じ・・・嫌いじゃない。
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