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 「ヒィ~!!!」

 ストンッ

 「よし。ここならいいだろう。3人とも大丈夫か?」

 「「「・・・・・・・・」」」

 「あぁ~あ。失神か。イシュ?治してやってくれないか?それとミゲル!残りの半分だ。貰っておけ」
 
 ゴロン

 オレは半分に折った金塊をミゲルに渡す。

 「いや、そんな事より・・・兄ちゃんは何者だい!?手から光や、さっきは空を飛びましたよね!?」

 「まぁな。オレの技だよ。聞きたい事があるんだが、胡椒に詳しいなら他の香辛料も詳しいか?実はそれが目的でもあるんだ」

 「え!?香辛料ですか!?例えばどんな物ですか?」

 「そう言われると困る・・・。とりあえず・・クミンやオールスパイス、シナモンとか聞いた事ないか?」

 「クミンとはあのクミンですか?健胃薬として使われているやつで?」

 「薬で使われているのか?それは知らなかったが、独特の匂いがするやつだ」

 「えぇ。それならば手配できます。が、オールスパイスというものは初めて聞きました。後はシナモンですね。かなり値が張りますが構いませんか?シナモンの取引は我が王国が権益を得ていますので、横に流すのは・・・」

 「そうか。金塊でもいいか?銀がいいなら銀でもいいぞ?生憎、レイスだったか?銭の持ち合わせがなくてな。後はターメリックやコリアンダー、カルダモンなんかも聞き覚えがないか知りたい」

 「えっと・・・兄ちゃんは医者か何かかい?最後の二つに関しては市場に行けばゴアでも普通に売ってるよ?」

 「そうか。いや、悪い。オレは市場の事は知らなくてな」

 「そうですか。ならば、俺が出来る限り見繕いましょうか?そもそもこの金塊一つで事足ります。寧ろ貰いすぎなくらいです」

 「ははは。ミゲル!あんなは良い奴だ。久しぶりにこんな良い奴を見た。が、その金塊は貰っておいてくれ。オレが求めている物は商売として考えてもらっていい」

 「分かりました。ではこれは頂戴致します。すぐに仲間を使いかき集めて参ります。ここで待っててもらえますか?」

 「あぁ」

 代金代わりではないが、金塊はやはりミゲルも怖いみたいで、支払いは銀が良いとの事で、銀塊をミゲルに手渡した。

 特に銀は明も欲しているみたいで、それどころかスペインやシャム・・・現在のタイなんかでの取引も銀が多いそうだ。

 見た目で人を判断はしないオレだが、ミゲルは信用できると思う。なんなら、日本に連れて帰り、オレの御用商人になってもらいたいくらいだ。まぁ流石にそこまではできないけど。

 
 待っている間にオレは3人に話を聞く。

 「エスナ!!」

 ポワン

 「これで精神的な病も治ったと思うけど大丈夫かしら?」

 「イシュ。すまない。ありがとう。で、3人はどうだ?」

 「とりあえず、エスナは掛けたけど3人とも震えているわね」

 「う~ん。とりあえず自己紹介しようか。オレは山岡尊。こっちは妻でもあり、相棒でもあるイシュ。怪我とか病気とか治したけど問題ない?」

 「あ、ありがとうございます!!!もう死ぬしかないと思っていました!!!」

 「簡単に死ぬなんて言ってはいけないよ。けど、さぞ怖かっただろう。名前はなんていうんだい?」

 3人の内、着物を剥がされそうになった子は17歳だそうで、名前はシゲちゃんだそうだ。後の2人は11歳で、元々は同じ村で住んでいたそうで名前はテルちゃんとフクちゃんだそうだ。

 「どうして連れ去られたりしたんだい?」

 「それは・・・その・・・」と、悲しく言うのはフクちゃん。

 「私は・・・お父ちゃんの借金で・・・お坊さんに売られました・・・」と、言うのはテルちゃん。

 「そうか。シゲちゃんも似た感じかな?」

 「私は・・・親が亡くなり、身体を売りながらなんとか食い繋いでいました。船で来る南蛮の男を相手にしていると・・・」

 「そうか。思い出したくないのに悪いな。んで、どうする?日の本までは連れて帰ってあげるけど?そもそも出身はどこなの?」

 オレが出身を聞くと、これまたバラバラだ。テルちゃん、フクちゃんは越後国 小山村というところらしい。そして、シゲちゃんだが・・・

 「薩摩国、山田村です」

 「薩摩!?あちゃ~・・・マジか・・・」

 「あっ、あのう・・・薩摩まででなくとも死ぬるなら日の本地ならどこでも私はいいのです!せめて、最後に日の本の地を見られるならば・・・」

 「だから、死ななくていいから!折角、助けたのに簡単に死んで欲しくないな。とりあえず、碌な物も食べていないんだろう?オニギリでも食べる?お菓子もあるぞ」

 「握り・・・あっ・・・お米・・・」

 「「「ゴグリッ」」」

 3人全員が唾を飲み込んだのが分かった。本当に碌な物食ってなかったんだろうな。

 「オレは堺で、とある商店をしているんだ。そのオレの家の料理人の小太郎って子が作った握りだ。ツナマヨ、シャケマヨ、肉巻きお握りだ。飲み物は水でいいか?」

 「い、いいのですか!?」

 「あぁ。ゆっくり食べな」

 「ハムッ・・・うっ・・・美味しぃ・・・」

 「これ程の握りは食べた事ありません・・」

 「私もです。白いお米なんて久しぶりで・・グスン」

 泣いて食べる程でもないんだけどな。だが、こうやって歴史に名を残さない普通の子達が笑って暮らせるようになればオレは嬉しい。そう思う時間だった。

 「山岡様。これはなんという菓子なのでしょうか!?」

 「私も気になります!こんなに甘い物も初めて食べました!」

 「まぁ砂糖を使ってるからね。それはオレのもう1人の料理人のミヤちゃんって子が作ったクッキーって焼き菓子だよ」

 「女性が作ったのですか!?」

 「そうだよ。オレの家では女性が活躍している。いや、なんなら男性はオレと後1人だけだ。警備の中に数人居るけど、女性が活躍しているよ」

 「あのう・・・それは・・・」

 「テル様。私から言いましょう。タケルは男性に春を売る店を経営しているのよ。けど、そこらへんの人みたいに使い捨てなんかじゃなく、ちゃんと女性への配慮も怠らないし休みも7日に2日は休みを与え、給金も最低でも30日に1度、銭2貫は渡しているのよ」

 「2貫も・・・」

 「そうよ。今はまだ始めたばかりだからそれ以上は無理だけど、私達のお店・・・桃源郷というんだけど、既にそれなりに堺では有名なのよ。それと、薬屋も併設してるし、これから空いてる土地を畑にしようと考えているの。けど、私達も万能じゃないのよ。農業は素人だからね」

 これはイシュの嘘だ。農業の素人なのは本当だが、祝福すればすぐに植えた物は育つ。あっ、そういえば例のマンドレイクの事も調べないといけなかったな。

 「イシュ。待って。2人はお母さんに会いたいだろう?無理にはダメだ」

 「山岡様・・・お母ちゃんに会いたいです。けど、私達は捨てられたから・・・それに戻ってもまた売られてしまぅ・・・」

 「越後ではそんなに人身売買が行われているのか?」

 「それは分かりませんが、戻ったとしても食べるのも困る生活でしたので・・・」

 「オレだけなら2人の親をオレの土地で住まわせる事も可能だが、オレは先日、尾張国、美濃国の織田家の客将となった。そのオレが2人の親を連れてくれば越後の上杉家と争いになるかもしれない。もし貧しくてもいいなら連れて行ってはあげるけどどうする?」

 「・・・・本当は会いたいし貧しくてもお母ちゃんと居たいですが、我が儘は言えません。それに山岡様にお返しもできていません」

 「お返しなんかは構わないけどね。もし2人がいいならオレが面倒見てあげるよ。別に男相手の仕事なんてしなくてもいい。なんなら、家の掃除してくれるだけでもいい。オレの所に来るか?そうだな・・・1度だけならお母さんの所に連れてってあげるよ」

 「本当ですか!?」

 「あぁ。約束する。だが、シゲちゃん。君はダメだ」

 「はぃ・・・私には親がもう居ませんから・・・」

 「いや、そういう意味じゃなくて君はオレの所に連れて帰るよ。薩摩に帰りたいだろうけど、女1人で暮らしていけるほど甘くないからね。オレの土地でやりたい事をすればいい。飢えと屋根のある所での生活は保証するよ」

 「いいのですか!?」

 「あぁ。オレに恩を返すとか言って、男相手の仕事をする!とかも言わなくていいから。オレの所は本当に女性が多いから」

 「ありがとうございます!!!けど、本当に何でもしますので!!」

 「決まりだな。まだあのミゲルって男も来ないし、薩摩での事や越後の事を教えてよ」

 結局はこうなる事はなんとなく分かっていた。まだ現代では高校生や中学生くらいの年齢の女の子を放ってはおけないしな。イシュも笑顔になっているな。
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