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 防音は完璧な桃源郷のはずだが、時間差で入ってもらってる風呂から色々な声が聞こえている気がする。ちなみにご飯の方は今日は肉じゃがを作ったらしい。というか、味見で食べたけど完璧な味だ。坪内さんの弟子二人は完璧な子だ。

 あっ、ちなみにだが子供二人だろうが働いてくれている事には変わりないからちゃんと給金を渡した。女性達より少ないが、5000文を一ヶ月の給料とした。これでもこの時代ではそこらへんの下級武士以上に貰っているとのこと。

 オレが私室で信長に贈る布団をエンチャントしてると、探知魔法に一人引っかかった。多分千利休だと思う。すぐに橋の所まで出迎えに上がる。

 「もし・・・山岡尊殿か?」

 「えぇ。津田様からお聞きしております。千宗易様でお間違いなかったですか?」

 「いかにも。無理言ってすまぬ。ここは城か?誰かに攻められる事を想定して作ったのか?総堀で高くはないが石壁まで作られてある。水も入れられ、さながら・・・いや何でもない」

 いやいやこのおっさんは何だよ!?いきなり分析か!?ってかマジで身長高いな!?オレより高い人はこの時代で初めて見たぞ!?180くらいあるんじゃないのか!?

 「まぁオレが留守にする事もありますからね。そうなれば中は女性ばかりになりますので万が一があっても困りますのでこのような作りにさせてもらっています。さぁ、まずは桃源郷の方へお越しください。今日の飯は肉じゃがになります」

 「にくじゃが?それはなんだ?それなりに腹は減っている。津田がとにかく飯は堺で1番美味いと言い切ったくらいだから楽しみにしている」

 津田さんから色々聞いたんだろうな。まぁ飯に関しては期待していいと思う。

 「さぁどうぞ」

 「ぬぅあんだぁ!?ここは!?何故こんなに明るいのだ!?これは畳ではない!?なんでフカフカなのだ!!」

 「それは絨毯と申します。裸足で感じると気持ちがいいかと思い、南蛮から取り寄せました」

 本当は異世界のダークポイズンスパイダーという蜘蛛型の魔物が作った物だ。名前は禍々しいが実に大人しく、顔こそ蜘蛛だが頭もよくオレの言語理解があったから普通に喋る事もできて友達になった個体に言って作ってもらったものだ。

 フカフカ

 「誠これは・・・あ、いや足を止めてすまない」

 「いいですよ」

 「いらっしゃいませ。よくぞお越しくださいました」

 「朱音さん、千様というお客様だよ。ご飯だけだそうだからオレが案内するから」

 「畏まりました。ごゆるりとお過ごしください」

 
 
 「こちらが晩餐室になります。南蛮形式のように床で食べるのではなく机と椅子に座って食べます」

 「これは・・・」

 一つ一つ全てに驚く千利休。まぁ誰でもこの反応だ。

 「いやぁ~実に美味い!このような物は初めて食べた!」

 「ありがとうございます。坪内様という方から料理人の卵を紹介していただきまして、腕もよくオレも驚いています」

 「坪内とも知り合いなのか?彼奴は中々変わり者だろう?確かに彼奴の飯も美味いがな。だがこのにくじゃあがの方が美味しい」

 「肉じゃがです。肉に忌避感がなくて助かりました」

 「意味もなく殺生するのは法度だが食べるためには致し方ないこと。むしろ余す事なく食す事の方が私は大事だと思っている」

 「素晴らしいお考えだと思います」

 「うむ。実はな・・・近々行われる織田家戦勝会並びに茶会の事でな。私も呼ばれて呼ばれているのだ。今は織田殿に茶堂として召し抱えてもらっているのだがな・・・」

 「どうかされましたか?」 「失礼します」

 「うん?小太郎君どうした?」

 「津田様が甘い物が欲しいと言われまして、冷凍庫に入っているアイスをお出ししてもよろしいですか?」

 「いいよ。調理室の事は二人に任せてるんだから好きにしていいよ」

 「ありがとうございます。いきなり押し掛けてすいませんでした。後程、タケル様にもお持ち致します」

 「ありがとう。千様申し訳ありません。分からない事は来客中でも気にせず聞くように伝えておりましたので」

 「いや構わぬよ。それでな、織田殿は茶を非常に好んで居るお方でな。格式ばった茶ではなく労う茶を所望していてな?南蛮の茶とはどんなものなのかと聞いておられるのだがワシもそれは分からないからな」

 南蛮の茶ってなんだ!?そもそも明なら分かるけど南蛮・・・この時代ではポルトガルとかスペインだよな?お茶文化なんてあるのか!?紅茶の事とかか!?

 「香りのあるお茶の事でしょうか?」

 「おぉ~!知っておられるか!?是非ワシに教えていただきたい!」

 「あ、いや・・・知っているだけでオレは詳しくは・・・」

 「いやいやそう謙遜しないでくれ!まずはワシが茶を一杯進ぜよう」

 確かにこの千さんは木箱の黒い箱を持っていたけど・・・まさかこれが茶道具とかか!?

 「いや・・・これは凄いですね」

 「で、あろう。これはワシが堺の鍛治衆に言って作らせたものなのだ。いつ、どこでも誰とでも茶が飲めるようにとな」

 木箱は4段に仕切られていて、1番下には本当に小さい囲炉裏のような物があり、その上にコンパクトな茶釜、2段目には明らかに高そうな湯呑み、茶杓、3段目に水差しというものだろうか。4段目に一際、雅な入れ物が並んでいる。

 「こんな茶道具初めて見ました」

 「茶とは、その者の心。本当は茶室で飾らず飲む事がワシは好きだが、その感性は押し付けるつもりはない。人それぞれ好き嫌いはあるだろうしな」

 マジで茶に対する姿勢が凄い。侘び寂びだっけ?後世で茶聖と呼ばれるだけあるわ。しかもこの茶の木箱かなり重いだろう。それを軽々と持っているのも凄い。

 「すいません。作法やなんかも全然知らずに、茶室も用意できなく申し訳ありません」

 「いや気にしなくていい。ワシの茶は志半ばである。まずは気兼ねなく飲んでいただきたい」

 千さんはそう言うと、一際雅な入れ物から抹茶を茶杓で湯呑みに入れる。そのまま茶釜から一掬い湯を入れ混ぜる。

 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ

 その動きは津田さんに以前いただいた茶より言葉悪いが洗練されてるように見える。ただ、こういう静かな感じはオレは苦手かも。

 テーブルとイスがある晩餐室の端で男二人が正座して茶を点てる・・・。異様な光景だろう。

 シャカシャカシャカシャカ

 「うむ。頃合いか。好きに飲んで欲しい。飲み方を見るのも一興」

 「いただきます・・・ジュルジュル~・・いや結構なお点前で・・・」

 正直言うと少し苦い。助五郎さんの茶の方が甘かった気がした。

 「うむ。今ので分かった。ワシの茶は山岡殿には合わぬようだ」

 「え!?あ、いやいや違います!千様の茶もかなり美味しいです!」

 「'千様の茶も'か。なら他の者の茶を飲んだ事もあるのだな」

 いちいち鋭すぎじゃね!?

 「津田様の茶を以前いただきました」

 「津田の茶を点てる時、ぬるま湯で点てるから甘さが際立つ。ワシは甘さだけではなく茶請けに合う茶を点てるのを好ましく思う」

 そう言われると食後のお茶と思えば確かに合う気がする。甘辛い肉じゃがの後に苦めのお茶・・・前後の事象を含めた茶・・・奥が深い。

 「失礼します。え!?あっ、申し訳ありません!」

 「今度は正吉君か。いいよ。入っておいで」

 「構わん。先ほどの飯は其方が作ったのか?今生味わった事のない飯だった。礼を言う。よく修練を積んでいるな」

 「あ・・・い、いや・・・」

 「ははは。正吉君!緊張しすぎ!アイスだろう?置いておいて!」

 「は、はい!すいません!失礼します!」

 オレは思った。このアイスと茶を混ぜて抹茶アイスにすればどれだけ美味しい物なのかと。だがさすがに怒るだろうな。

 「これは甘い!美味い!しかも何故こんなに冷たいのだ!?まだ雪なんぞ降っておらんというのに」

 「そういう保存方法があるのですよ。えっと・・・失礼を承知でお願いがあります」

 「なんだ?」

 「千様のお茶は食後の茶と考えると最高の茶だと思いました。お口直しにちょうど良いと言いますか・・・。偉そうに言ってすいません。ただ・・・このアイスを茶と混ぜると更に美味しいと思うのですが・・・」

 「ふむ。試すのも一興・・・どれ・・・ポト・・ジュル・・・んっ!?!?!?!?これは!!!!」

 うん。反応で分かった。ビバ!抹茶アイス!贅沢を言うなら暑い日に飲みたかったぜ!

 「山岡殿!!よくぞ!!茶請けも要らぬくらいだ!美味い!」

 「オレなんかの雑言を聞いていただきありがとうございます」

 「うむ。して、南蛮の茶とは・・・」

 「紅茶と呼ばれるものではないかと思います」

 正確にはまだ紅茶にはなっていないと思う。茶自体は中国・・・今の明の発祥だろう。それがヨーロッパに流れ流れてオレが知る紅茶になったのだったっけ?昔買った紅茶のパッケージの裏に軽く紅茶の歴史を書いてあったような・・・。うろ覚えだ。

 「ではその紅茶と呼ばれる物はどこにあるのだ?」

 「少しお待ちください」

 オレは隣の部屋に行き、異世界産の紅茶を出した。正確には王宮の薬師の人が栽培していた茶葉だ。林檎のような香りのするお茶だ。よく貰っていたがオレは紅茶よりコーヒー派だったからほとんど手付かずだ。

 この茶葉を瓶詰めにして晩餐室に戻る。

 「お待たせ致しました。これが紅茶に近い物かと思います。曖昧で申し訳ありません」

 「これが・・・うん?これは湯に溶けるのか?」

 「いえ、これはこの茶葉を湯に漬け込み、そこから抽出した湯を飲むと言えばいいでしょうか。もしよろしければ作ってきますが?」

 「頼む」

 調理室に戻り素早く紅茶を作る。小太郎君と正吉君もアイスを食べていたようで、オレが調理室に入ると直立不動となっていた。

 「あぁ~、気にしなくていいよ!」

 一言だけ言ってすぐに退出する。

 「どうぞ。こちらになります」

 「うむ。いただこう・・・ほう?これが紅茶なる物か・・・」

 「恐らく似た物かと。オレは正直あまり好きではないのですが・・・」

 「う~ん。これはこれでイケル気がしないわけでもないが、肉を好む南蛮人の舌でこれで満足できるとは思えないのだが・・・薄いな。どれ。これもアイスなる物を入れると飲みやすく・・・」

 「あっ・・・」

 千さんやっちゃったな。紅茶にアイスは絶対に合わないだろう!?オレの静止を聞かずアイスを入れた。

 「ダメだな。とても織田殿にお出しできん」

 そりゃそうだろう。だって不味いもん。

 「オレは千様の点てる茶を誠心誠意お出しすればいいかと思いますよ。よければこれをお渡しします。千様が思うように織田様に飲ませてあげると本人も納得するのではないでしょか?」

 「構わないのか?これも相当高価なのでは?」

 「それなりにはしますけど、お茶の御礼です。またたまに飲ませていただければとても嬉しいです」

 「そうかそうか。ならこれは頂いておく。ワシの茶ならいつでも。今度は山岡殿が好む甘い茶を点てるよう精進しておく」

 「いえいえ。そのままの千様のお茶を楽しみにしておきます」

 千宗易・・・後の茶聖と呼ばれる人は身体も大きいが器も大きな気がした。まさか抹茶アイスを許してくれるとは思わなかった。オレが食べた抹茶アイスで1番美味しかった。
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