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 「あれ?もう注文し終わったのですか?」

 「あ、三喜子さん。はい。終わりましたよ。正確には機織りを購入して、イシュが仕立ててくれるとの事でですね。それに今井様から貰った反物もあるし」

 「イシュ様は縫い物もできるのですか?」

 「えぇ。昔少々やってまして。そこらへんの人には負けない自信がありますよ」

 イシュの言う昔とは本当に大昔だろう。

 「そうですか。ではいつか銭は払いますので私のもお願いできますか?イシュ様のようなお召し物が欲しいです!」

 「え?私の?別にいいですよ?なんなら近いうちにお渡しできますよ?」

 「いやそれはまだ銭がありませんので・・・」

 銭・・・オレもなくなったからな。これは本当に早くに営業しないといけない。景気良く半分も熊五郎さんに渡すんじゃなかったぜ。今更返してなんて言えるわけないしな。

 
 「うむ。息災なようで何よりだ。なんぞワテに言いたい事があるそうだな?」

 「こんにちわ。助五郎さんもお元気なようで」

 「そうなんだ。夜の方もな?若い時よりも猛りが凄くてな?それはそうと・・・例の薬を定期的に運んでもらえぬか?」

 いやこのおっさんどれどけ猛ってんだよ!?オレも人の事は言えないけどよ。オーガの睾丸って本当に効果が凄いのな。ジョンあたりに教えてやりたいぜ。
 ジョンはよく『最近勃ちが悪くなってきたんだ』と言っていた。その都度、例の秘薬を飲めと言っていたのに彼奴は『こんなの飲んだところで何も変わりゃしないさ!』と言っていた。
 今こそ声を大にして教えてやりたい。

 (ジョン!オーガの睾丸最高だぞ!)

 ふっ。まぁ届くわけないんだけどな。あいつらみんな元気にしてるかな?




 ~異世界 赤のダンジョン~

 「うっ・・・」

 「ジョン!!どうした!?」「どうしたの!?」

 「いや・・・なんかタケルからの声が聞こえたような気がした・・・」

 「嘘!?念話!?なんて言ってたの!?タケルは地球だっけ!?に帰ったのよね!?」

 「いや・・・多分空耳だ」

 「気になるからなんて聞こえたのか教えて!」

 「いや・・・オーガの睾丸がなんとかって聞こえた・・・」

 バシ バシ バシ バシ!

 「ジョン!さ・い・て・い」 「ジョン・・・長い付き合いだが冗談にもならないぜ」

 「うん。行こう行こう。もうジョンが倒れてもヒールかけてあげないから」

 「いや、お前等が聞いてきたんじゃないか!おい!待ってくれ!」





 「分かりました。たまたま10本ほどありますので置いておきますね」

 「おっ!すまん!助かる!帰りに銭を渡す。ワテはツケや貸しが嫌いでな?」

 「助かります」

 「うん?何か入り用だったのか?熊五郎から受け取ってないのか?」

 「いえ。受け取りました。ありがとうございました。あの銭は熊五郎さんに半分渡して、運転資金及び女性達の給料と服代に消えました」

 「は!?30貫文は渡したと思っていたのだが・・・。それに女の給料とは何をするのだ?」

 ある程度の物価は分かってきたが現代価値との比較がわからないからどれだけの事かは未だ分からないが、この言い方だとかなりの金額だったんだな。いやまぁ、確かにあの銭の束を見れば凄まじかったけど。

 「あれ?言ってませんでしたっけ?あそこで花街をやろうと思ってるんですよ。いやもう建物も出来上がってますので、後は女性達の服やらちょっとした小物が用意できれば開店できるのですが」

 「はぁ~!?ワテは聞いてないがな!てっきり商いをするものとばかり思っててん」

 うん。関西弁が出るのは興奮してる時特有だな。

 「すいません。伝えてそびれてましたね。後、薬局も一緒にする予定です。是非、開店したら助五郎様もお越しください。ちなみに、町の名前も変えました。いつまでもあのような名前じゃ・・・なので」

 「ふむ。それはいい考えだ。して、新しき名前は?」

 「セイントハイアールといいます。オレが昔世話になった所と同じ名前です。イシュの故郷の名前でもあります」

 「ほぅほぅ。南蛮の名か。けど中々覚えにくいな」

 「町の入り口に大きな看板でも立てておきます。そして、店の名前は安直ですが、桃源郷としました」

 「良き名ばかりだ。どんな形態だ?女郎を立たせて客に選ばせるのか?」

 「そんな事させませんよ?まぁ来てからの方が分かりやすいと思います。よければ、誰か仲の良い方と来られます?女性に言って、客の練習にもなりますし」

 「ゴホンッ・・・世話になろう」

 やはりこのおっさん相当好きだな。だがいいぞ!男とはいつだって女の子が好きだ!オスとしての本能だ!日頃のストレスを忘れさせるような店作りだ!


 この日の夜さっそく召集をかける。ちなみに熊五郎さんは疲れた顔して値段のことを決めていた。

 「タケル殿・・・バタバタして申し訳ありません」

 「いやいやいいですよ。それで値段の方は?」

 「はい。宿屋は基本的に24文で統一されております。少し前に越後の湯沢というところの宿を見たのですがあそこは80文だった記憶があります」

 どうせだからオレもこの日ちゃんとお金の価値を理解しようと思った。疲れた顔の助五郎さんだが付き合ってもらわないといけない。一応横には三喜子さんもスタンバイしてくれている。
 
 まず、三喜子さんと貝さんを横に。貝さんがオレが魔法で叩き込んだ楷書体とアラビア数字で値段を。三喜子さんには魔法を使っていないためこの時代のふにゃふにゃ文字・・・まぁ古文かな?で紙に書いてもらっている。

 字が読めない人が多いとは思うがちゃんと形は整えておかないといけないからな。何を書いてもらっているかというと、熊五郎さんが四苦八苦して決めた値段設定だ。

 「えぇ~、銭による給金支払いに関しましてはここ最近、堺にて普及し始めたばかりでして、一概にこれがこの値とは決まっていないのが現状です。後は尾張や美濃辺りも銭による給金体制になっておるかと」

 この時代は銭が普及し始めたばかりだ。だが、自国でお金を作ってるわけではない。助五郎さんから貰ったお金も永楽通宝だった。見た感じ擦れていない所謂、良銭だったと思う。そしてその永楽の文字が薄くなっていたりする所謂、鐚銭なんかでも価値が変わってくるそうだ。


 後、驚いたのは色々なお店に居る丁稚の子供やなんかは給料を貰っていないとのこと。武士の給料なんかも階級によりだいぶ違うし、手柄によっても違うそうで一概には言えないそうだ。

 「つまり、まってく統一されていないから言いようがないと?」

 「はい・・・すいません」

 「マジか・・・。なら百合やミナミさん達が一晩稼ぐお金はいくらくらいなの?」

 「あっ、それはアタイが言います!アタイも少し前までそこそこしていましたし」

 そう言ってくれたのは今は書記をしてくれている貝さんだ。この貝さんは20代半ばくらいだと思う。キリッとして1番身綺麗で、少し気が強いような感じだ。そういう事を仕事にしてたのにエロをまったく感じない。

 「ありがとう。教えてくれる?」

 貝さんが教えてくれた。だがこれもまた難しい。基本、遊女により変わるそうだ。一晩で1人しか客を取らない女性もいれば、男性が抜いたら即終わり、次の客という女性もいるらしい。ちなみに、男性が抜いたら終わりという接客方法の事を女性の間では早打ちというらしい。

 一晩ならおおよそ、100文~200文。早打ちなら50文前後だそうだ。

 巷でオレが見た限りでは豆腐が一丁4文、酒一升70文、塩一升4文だ。オレが食べた団子が一本3文で、米は確か一石1000文と書かれていたと思う。まぁあの婆さんには金塊で支払ったけど。

 つまり1文を現代価値に表すとすれば・・・50円~100円くらいじゃないだろうかと思う。一概にはこれもまた言えないがオレが居た現代と室町を当てはめる事は難しいかもしれない。

 すぐ近くに流れている現代の内川だろうと思うところは工事のような事をしているが、立て札に治水衆募集と書かれていて、1日50文と書かれている。

 とりあえず、物の価値に関しては慣れていくしかない。それにまだ見ていないが銀一朱や金一両というのもあるらしい。

 食事に関しては異世界産の魔物肉や切っても切っても何度でも再生する魔イモなんかを使って色々作れる。なんなら一部、ヴァースクリエイトで畑も創造しているから植えて、魔力を込めるとそのまま成長しそうな気がする。というか、成長促進させればいいと思う。

 「とりあえず・・・ここ桃源郷は早打ちはしないから。一晩400文くらいでどうだろうか?明らかに倍の値段だから高いという事は分かる。けど、その分食事や風呂なんかも付いているからオレは安いと思うんだ」

 「え!?そんなもんですか?てっきり3000文くらいにされるのかと思ってたのですが」

 「熊五郎さん?なかなかお主も悪よのう!?」

 「え!?悪ですか!?」

 オレは一度言ってみたかった言葉を投げ掛けたがまさか普通に返された。

 「タケル様?値段の方はまずは3000文として、客足や客の感想を聞き、値段が高ければ安くしたのでもいいのではないでしょうか?私もこのような大型の遊女の建物なんかは見た事がないですが3000文でも安く思うかもしれません」

 「三喜子さんは安く思うと・・・。貝さんは?」

 「アタイはそれで客が取れるのか不安に思います。なんせ15人ほど居るわけですし。アタイは受付?をするようになりますが客が来なければどうやってタケルにお返ししようかなって・・・」

 ここに来て初めてエロを全く出さない女性の貝さん。お返しと言ってくれてはいるがどうしたものか。他の女性は抱いていいと言ってくれているが貝さんはそんな雰囲気をまったく出さない。どんな身体なのか少し気になってしまう・・・。

 「タケル?」

 「あっ、いやいや何でもない!お返しなんて気にしなくていいんだよ!まぁお金ある人しか相手にはするつもりないからとりあえずそれでいこう。3000文も貰うなら飯代と風呂代は入れておこう。さすがにこれ以上追加料金をかけにくい」

 「では、女性のご飯代なんかも入れておきますか?」

 「そうだね。飲み物代だけ2杯目以降は追加料金って形にしようか」

 異世界産の酒は多数アイテムボックスに入っている。ドワーフが作ったワインに似た酒、ウィスキーに似た酒、エルダードワーフが作ったオレの天敵マーダースネークを生きたまま漬け込んだ酒、ビールに似たエールや、エルフの村を救った時に貰った見た事もない果実酒類が樽ごとかなり入っている。

 入っているといってもこの酒に関してだけは補填できないし、作れないから無くなればお終いだからそれなりに銭はもらいたい。

 (あるじ~!津田のおじさん達が来たよ~)

 (え!?マジで!?約束は明日だったんだけど!?)

 (追い返そうか?)

 (いやいや追い返さないから!)

 「みんなごめん。助五郎さんが来たみたいだ。貝さんごめん。練習にさっそくなるけど大丈夫?それと夜だけどみんな準備してもらうように言ってくれる?」

 「はい。畏まりました」

 貝さんはそう言うと足早に下に降りていった。ここは桃源郷の3階部分の客は誰も入れる予定のない会議室だ。会議室と言ってもこの時代では超高級な畳の部屋ってだけではあるが。

 「三喜子さん行こう」

 「はい!」

 (タケル?あの津田ってヒューマンが来たんでしょ?着物何着か作れたんだけど相手してもらう人に着てもらおうか?)

 (早っ!もうできたんだ!?イシュは接客とか教えたんだよね?)

 (教えたわよ。池様も貝様も朱音様も美幸様もギルドの受付くらいには接客できるわよ)

 (さすがだ。ありがとう)

 (お礼は一晩私だけを見てくれたのでいいわよ!タケルと一つになれてから私、魔力の総量が倍になってるの)

 (嘘!?何で!?)

 (そんなの知らないわよ。まさか人間と交わると精霊はこんな風になるなんて知らなかったんだから!)

 この謎はまた追々イシュに聞こう。とりあえず猛りおじさんこと、助五郎さんを出迎えよう。
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