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 「ほほほ。やっていますかな?おや?柴田殿はお帰りですか?」

 「竹中殿、それに奥方殿ではございませぬか。某は護衛にて。今日は帰る。じゃあ合田、漆原、一ノ瀬殿!また明日に!」

 「かっちゃ~ん♪またねぇ~!!ヒック」

 「有沙!馬鹿!酔いすぎだ!!柴田様申し訳ございません!!酔いが醒めるとキツく言っておきますので!!」

 「はは。楽しい女子じゃ。時には酒に呑まれる事もあろうよ。某は気にしていない。久しぶりに若人との酒は美味かった。飲んだ事のない酒、寿司なる物。絶品だった。この醤油と酒はありがたく頂戴致す。御免」

 「竹中様、こちらへどうぞ!」

 「ほほほ。先に紹介しましょう。私の妻の、いねです」

 「夜分に饗宴の席にお呼び頂き感謝致しまする。竹中半兵衛重治が妻、いねと申します。合田様の御活躍は予々ーー」

 かつて、これほど丁寧な所作、口上で挨拶された事なんてあっただろうか!?と思うくらい洗練されている。

 年齢は30歳くらいの人だろうか?竹中さんと同じくらいに見える。一応、竹中さんもかなり有名な人だし、ここ岐阜でも武将と言われる人だろう。だがこの、いねさんは着飾ったりする感じではなく言葉悪いが地味だ。着ている着物も派手ではない。

 「合田武蔵と申します。浜松では竹中様にかなり助けられました。さぁさぁ。入ってください!」

 「お邪魔いたします」

 柴田さんも飲み食いした後だが、まだ寿司は残っている。酒もかなりある。まぁ酒に関しては蔵に取りに行けばいいだけだけど。

 「ほほほ。これまた今生見たことのない食べ物ですね?いね!遠慮せず頂きなさい。合田殿が出す飯は美味いですよ」

 「ありがとうございまする・・・いただきます」

 生魚だから抵抗あるよな。柴田さんは気にしてなかったけど。

 「奥様?生魚ですが大丈夫ですよ。もしお腹壊したりしても薬もありますし、オレはお腹壊した事ありませんので!」

 「あ、いや・・・」

 「あぁ~!竹中様の奥さん!?すっごい綺麗じゃ~ん!」

 「だから!有沙!!お前酔いすぎだって!!」

 「お前って言うなし!!」

 うん。有沙さんは完璧に酔ってるわ。

 「ね?中々他に無い家の者でしょう?いねよりだいぶ歳も下の子達だ。ここの事をあまり知らない子達だ。良くしてやってほしい」

 「はい!半兵衛様!」

 羨ましいくらい慕われているんだな。そうこう言っていると、いねさんは意を決して寿司を一貫食べた。

 「まぁ!?これは非常に美味!!生の魚だと少し驚いていましたが、こんな新鮮な魚食べたの初めてです!これはなんてお名前の魚なのでしょう!?」

 「それは、マグロと呼ばれる魚です」

 「マグロ・・・美味です!私これが好きです!」

 「竹中様?少し蘊蓄いいましょうか?」

 「うん?漆原殿が蘊蓄とは珍しい。なんでしょう?」

 里志君は何を言い出すのだろうか。

 「このマグロ・・・未来ではかなり高価な魚なのですがここではシビと言われている魚です」

 「なんと!?あのシビですか!?」

 珍しく竹中さんが驚いている。

 「正確にはこの辺で獲れるシビとは種類が違うかもしれませんが、大まかな事は同じです。美味しいですよね」

 「それを私に教えるという事は・・・」

 「えぇ。来年に俺が適切な処理方法を教えます。氷の作り方、血抜きなど色々です」

 「何か裏がありそうですね?」

 うん。オレも思う。竹中さんに言わずとも、里志君が主体となって行ってもいい事だと思う。なんだろう?

 「コネクション作りですよ」

 「こね・・・いやすまぬ。もう一度よろしいか?」

 「簡単に言えば知り合いを増やしたいだけですよ。武蔵はどうか分かりませんが、俺は知り合いが皆無に近い。俺達を良く思ってない人も多いでしょう。新参者!とか、ポッとでのガキ!とか思われるでしょう。それに生活するにはやはりお金が要りますからね」

 「良いでしょう。那古屋に知り合いがいます。話は通しておきましょう」

 ガシッ

 里志君はやっぱ凄いや。ただの夜ご飯食べるだけかと思いきや、既に次のことも見ているんだ。オレも負けていられないぞ!


 
 「ほほほ。気付けばこんなに長居していたようですね」

 「嘘!?もう0時じゃん!?」

 「では来年には私も色々学ばせていただきますよ。まずは時間の見方、楷書など色々お願いしますね?いね?帰りますよ」

 「ふふふ。有沙様、じゃあまたお会い致しましょう。分からない事があれば何でも聞いてくださいね?」



 女は女、男は男とで色々話をした。盛り上がったのはやはりオレ達が齎す未来技術の話だ。まず氷の事に驚いていた。それに関しては有沙さんが言ってくれた。

 「硝石と水があれば氷は簡単に作れるんだよ?まぁ合田君が冷蔵庫持って来てるからそれでも事足りるだろうけど、私の大好きなマグロ食べ放題にするには現場で氷が作れないといけないからね!水に硝石を入れその溶解の吸熱作用で水の温度が下がるの。それで簡単に氷は作れるよ!」

 この事に驚いた事は言うまでも無い。里志君は分かっていたようだけど。

 そして里志君は現代建築の事を言っていた。

 オレとあやめさんは蚊帳の外だ。それでもオレも2人に負けたくないと思い・・・

 「それならオレは名のある人に贈り物を送ったりする織田家の貿易担当にでもなりましょうかね!?」

 酒が入っていたせいもあるだろう。大きく言いすぎた。この事に反応したのは竹中さんだ。

 「今のは本当ですか?魑魅魍魎が跋扈する京の公家、公卿が居るところに入り込むと?」

 「武蔵!?大丈夫なのか!?いくら先を見てるからってもう中央に手を伸ばすのか!?」

 オレは話の流れで軽く言っただけだが気付けば大きな話になっていた。引き下がろうとしたがその甲斐虚しく・・・

 「いややっぱオレはーー」

 「ふむふむ。ちょいどよい時やもしれません。お館様に上奏しましょう。武田は残っているとはいえ、此度は勝てたという事実。将軍も今一度、向き直す時期でしょう。将軍を大人しくさせるには朝廷を味方につける必要がある。お館様は武で黙らせるだけですからね。違う方面から搦め手を仕掛けるのは理に適っている」

 「確かに!京の公家の人達って句を詠んだり、蹴鞠をしたりと遊び事をしてるんでしょ?その割に実入りがないから内情の家計は火の車とか!?」

 「ほほほ。その通り。誰ぞ1人を織田に取り込み、その公家に贈り物を渡し裕福にすると皆嫉妬するでしょう。その恩恵を授けるのは誰か調べる。それは誰かと・・・。それは合田殿がする役目。これで誰も疑う事なきお館様の天下となるでしょう。私は公家の相手は御免被りますな」

 とんとん拍子で話が決まった。勢いとはいえ、言ってしまった事だ。里志君や有沙さんは学がある。オレはそんなに詳しくはない。なら何をするか。2人にできない事をするしかない!オレはオレでやるぞ!

 みんな上機嫌になり宴?と言えるかは分からないが戦勝会は終わった。
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