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退きの佐久間

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 どういうことだろうか・・・確実に押されるかと思いきや案外いけている気がする。

 「弾込め急いでください!!各自、装填できた者か
撃てッ!!!」

 パン パン パン パン パン

 「竹中隊!鉄砲衆が装填する間を確保せよ!いいか!?出過ぎるな!」

 「うらっ!!死ねやッ!!」 「舐めるなッ!!」

 「慶次さん!?これいけそうじゃない!?」

 「今だけだ!この1当ては探られているだけだ。すぐに第二陣が来るぞ。敵はまだまだ居るんだぞ!」

 慶次さんの言う通りだ。敵はまだまだ居る。特に本多さんと酒井さんの所の左翼がかなり押し込んでいるように思う。

 竹中さんも竹中さんで涼しい顔しながら弟さん達を指揮しながら、自らも投げ槍をしたり馬上から槍を振り回したりしている。

 何回も思う。あれが名軍師とは嘘も大概にしろと言いたい。マジで武闘派だ。

 一方、オレや小川さん、あやめさんなどの鉄砲隊は最前列で敵を食い止めている。小泉さん達が竹筒を前に置き、矢は防いでくれている。それでも、空から放物線を描いて振ってくる矢は見事に慶次さんが振り落としてくれている。

 こんな中だが本当にオレは勝てるんじゃね!?と思いだしたところに、またもや敵の法螺貝が聞こえた。

 すると、一斉に敵が・・・信玄が居る本陣もだが、20歩程前に出て来た。これがどれほど怖い事か言葉では言い表せられない。ただ、オレ達、平手隊だけでもそこそこ敵を倒したと思う。だが、それらを加味しても、この歩を進められるだけで負けた気分に陥ってしまう。

 「ふん。さすが武田と言うべきか。中々嫌なことをするな」

 慶次さんもこれには驚いていた。ってか、撤退はまだなのか!?

 「竹中様!?撤退はまだーー」

 オレが竹中さんに撤退の事を聞こうとしたところで、見たくないものが武田側から見えた。そして、敵の掛け声まで聞こえた。

 「全軍目の前の織田を狩り取れッ!!!特に合田と抜かすハナタレだけは許すなッ!!確実に首を持ってこい!!突撃ッ!!!」

 「チッ。来やがったか!おい!甲賀隊の者ども!さすがに前回と違い今回は脱落者がでるだろう!だが見事武蔵を守りきってみせよ!さすれば武蔵が里の家族を面倒見ると約束してくれる!」

 慶次さんが勝手にそんな事言ってるのをオレは訝しみながら聞いていた。家族くらい面倒見てあげると思ってはいるが・・・これ・・・マジで死ぬかも・・・本物はヤバイ。

 しかも展開が速い。武田四天王の1人、内藤昌秀・・・何故オレを名指しで首を取るとか言われなければならないのか・・・。

 だが、ここで思いもよらない事が起こった。

 「なっ!?」

 「え!?」

 「ほほほ。まんまとやられましたね・・・やれやれ・・・今回ばかりは運が尽きましたか・・・」

 「我が君!最後までお供しますぞ!」

 「武蔵様!まだ戦えます!」


 みんながオレの方を向き、更に左の方へ向く。そこには居たはずの佐久間隊が踵を返し撤退をしていた。

 雪崩れ込む武田軍、オレ達だけでも前に居る敵に精一杯のところを更に左翼からも囲まれるようになってしまった。

 「合田殿、相すみません。合図を見間違えたようです。囲まれたからには突破口を見つけます。これより私が指揮をもらいます」

 さすがに素人のオレは軍の指揮はできない。むしろ、整列させ、撃て!としかオレは言えない。だから少しでも生存率を上げるため、竹中さんに後は任せるようにした。

 「みなさん!竹中様の命令を聞くように!」

 「みなさん!お聞きなさい!まずは第一に合田殿を守りなさい!鉄砲隊を真ん中に置き、円陣を組みなさい!平手隊の者は長槍隊を最前列に配置!弓矢隊はその後ろから矢が尽きるまで射なさい!」

 のらりくらりしたり、粘っこい話し方をする竹中さんだがここへ来て本物だとオレは悟った。簡単に的確な命令だ。

 「平手隊!竹中殿の言われた通りにしろ!敵に呑まれるな!声を上げよ!隣の者が隣の者を助けよ!俺の事は気にするな!」

 そこからはまさに総力戦だ。まず、ファッキンサノバ佐久間が抜けたところには水野さんが入ってくれた。当初より小さくなったオレ達の陣だ。

 竹中さんの掛け声にて、最前列に居る長槍隊のみんなが敵を恐れず叩いて近寄られないように頑張ってくれている。だが、そんな頑張りも虚しく・・・

 「武蔵様!敵の新手が来ます!」

 あやめさんの言葉を聞き薄暗くなり見えにくくなった武田軍の方を見ると、後方に居た何千何かの敵がこちらへ更に向かってくるのが見えた。さすがにオレももうダメだと溜め息をついてしまった。

 「はぁ~・・・本当なら幸せなクリスマスだったはずなのに・・・」

 「武蔵!諦めるな!まだ死んじゃね~!指先一つ動く間は抗ってみせよ!俺は山先飲むまで死ぬつもりはない!あやめと祝言あげるんだろ!頑張れ!」

 慶次さんの激も虚しく、これまでかなり頑張ってくれていた長槍隊、弓矢隊の人達も1人、また1人と倒れていき、とうとう穴が空いた。

 「吉野権左衛門1番乗り!誰ぞ相手せい!」

 敵の吉野なんとかって人がオレと会話できるくらいの距離にやってきたがオレは無言で撃った。

 ドスンッ

 「最後まで戦う!頑張って!!!」

 オレはこう言うしかできなかった。結果はすでに分かっている。だが、1人が入り込んできたらそれに続いて色々な方から敵が入ってくる。

 慶次さんは必死にオレに敵が来れないように頑張ってくれている。あやめさんも同じでオレの前に立ち守ってくれている。だが・・・

 シュンッ  グスッ

 「あっ!?」

 「武蔵ッッ!!!!」

 「武蔵様!!!!?」

 「いかん!合田殿を囲めッ!!!!!」

 オレは矢で射られてしまった。声すらでない。痛さの次元が違う。だが幸い刺さったところは左腕のところだ。それよりその勢いで落馬してしまい、ケツの方が痛い。

 黒王もオレを心配してくれて顔を舐めてくる。

 「だ、大丈夫です!みんな!目の前に集中して!!」

 オレ達の小さな陣が崩壊しそうな時・・・希望の光が見えた。それは・・・・

 

 
 「うわ!マジで違うところじゃん!」

 「へぇ~!ここが浜松城なんだ!」

 「な、な、なに奴か!?て、敵の間者か!?」

 「あ、すいません。漆原と申します。こっちは一ノ瀬っていいます。俺の彼女です。合田隊が居ますよね?その家臣?同僚?友達?まぁそんなところです!」

 「で、で、出合え!出合え!妖術使いが出たぞ!!!」

 「は!?違う!違う!」

 「誰じゃ!?敵の間者か!?」

 「痛っ!離せ!」

 「ふん。随分と間抜けな間者だな」

 「だから間者じゃないって!合田武蔵の家臣だって!」

 「戯言無用。即刻首を刎ねい!」

 「そのバッグを見ろ!その黒い入れ物だ!その中に見覚えのある物が入っている!」

 「ふん。言い訳の多い奴だ」

 ガサガサガサ

 「これは・・・・おい!縄を解け!」

 「いやしかし・・・」

 「解けと言っているだろうが!!!」

 「は、は、はい!」

 「痛かった・・・」

 「ま、誠に申し訳ござらん。某、城代の夏目ーー」

 「あなたが夏目吉信様ですか!?」

 「え!?某をご存知で!?いやそんな事よりてるみっと焙烙玉の製作者様にお会いできるとは・・・」

 「それこそそんな事です!早く三方ヶ原に向かいますよ!徳川様も危ないんです!」

 「なんですとっ!?!?」
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