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束の間の休息

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 戦が1日、2日で終われば良かったのにと思う今日この頃。まぁ局地戦に関してなら1日で終わる事もあるだろう。だがこれは武田側から見れば西上作戦・・・早々終わる事はない。

 浜松城に詰めて2週間・・・オレは基本的に平日は夜のみ戦国に来る感じだ。

 佐久間さんから勝手な事をするな!と言われているためあまり好き勝手な事はしていない。だが、家康さんに兵の士気を上げてくれと言われている。

 主に食い物だ。竹中さんが例の韋駄天さんにお願いして、美濃の旧竹中家の家宝?とまではいかないけど、海部刀と言われる明で作られた刀を斎藤家時代に下賜されたらしいが『ほほほ。未来とやらで銭にしてほしい』とオレに譲ってくれたのだ。

 これをオレはありがたく貰い、少々心許なくなったオレの残金・・・

 いつもの池田マダムに持って行き、鑑定してもらう事にした。なんかどこぞの社長かなんかに直接連絡しろと以前名刺をくれた気がしたが『オレは池田さんに買い取ってもらいたいのです!』と言うと、池田マダムは殊の外喜んでくれた。

 あ、ちなみにアトリエに行かなくとも今はみんなのABCでほぼ毎日会えるから色々と話をしている。

 「あら!?合田君は嬉しい事言ってくれるのね!分かったわ!私が買い取ってあげる!」

 と確約を貰ったわけだ。

 後、農業推奨のプロジェクトの件だが順調に進んでいる。時期的な事もあるが、例の人間国宝さんが出資の元、これは飽くまで体験だ。

 だから『ハウスとエアコンを使い、いつでも農業体験をできるようにすればいい』と言い出し、あれよあれよと1週間でエアコン完備のハウスが出来上がり、今に至る。お客さんは若い夫婦4組だ。

 お客さんの旦那さんは見た目だけではあるがみんな若い。若いけどオレには分かる。みんな恐らく年収1000万は超えているであろう風貌をした人達ばかりだ。

 その人達に混じってオレも勉強しながら営業もしている。

 そして、例の海部刀の鑑定が済んだようで、封筒に入れたお金を池田マダムからいただいた。

 「珍しいっちゃ珍しいけど所謂、戦国時代に朝鮮や中国から輸入された短刀ね。相当数か輸入されてるのだけど現存はあまりない刀よ」

 「え!?でもかなり厚みがあると思うのですが・・・」

 「それはお礼よ?私は今、毎日が楽しいの!アトリエだけではなくここでみんなと働けるし、たまにではあるけど合田君が歴史ある物をたまに持って来てくれるからね!」

 「あ、いえ・・・ははは!倉庫にありますから!」

 「ふぅ~ん。本当に今度お邪魔していいかしら!?」

 この時なんとなく・・・本当になんとなくだが池田マダムも戦国に来るように思ってしまった。


 一方、戦国時代の方では状況は悪くなる一方だ。正直、オレは楽観視しているところもある。なにもせず耐えているだけで一応勝ちになると分かっているからだ。

 だがそれは歴史を知っているからであって、城に居るみんなは顔が暗い。

 「武蔵様?本当に武田はもう少しで亡くなるのでしょうか?」

 「うん。一応オレが習った歴史ではそうなっているよ」

 10月の最初の週の週末にあやめさんと色々話す。

 だが、こんな暗い顔をした徳川軍だが1週間に1度みんなが笑顔になる瞬間がある。

 土曜日のオレが持ってくる未来の食べ物だ。池田マダムは100万円で例の刀を買い取ってくれたわけだが、約7000人も居る城の人達全員にオレの恩恵は届けられない。

 だから、基本身分の低い人はくじ引きにしている。

 持って来た物は様々だ。主に業務用サイズのジュースやお菓子。

 元々既に米なんかは数多の農学者が心血注いで品種改良を施した苗で育てたコシヒカリを相当数運んである。

 オレが現れた時期がちょうど田植えの時期で、少しの差で正条植えとか伝えられなかったがそれでも信長さんの号令の元、木下さん筆頭に農家がバラバラではあるが田んぼに各々が植えた苗が元気な稲穂になり、濃尾平野を一面稲穂で溢れさせていたらしい。

 これは先週届いた信長さんの文で聞いた事だ。だがここでもやはり信長さんだ。最後の方はミミズの張ったような字になり・・・・

 『タヌキの軍にだけ未来飯を食わすのは言語道断!ワシの預かり知らぬ飯をタヌキが食す事がそもそも気に食わん!いつ誰が何を食したか記し、貴様が戻ってくればワシにも食わせろ!』

 と、いつから食通になったんだ!?と思わせるような事も書いていたからだ。何故信長さんはこんなに落ち着いているかと言うと・・・

 「では大殿は武蔵様の言を信じているという事でしょうか?」

 「多分そうだよね。今回に限ってはだと思うけど・・・。だから信玄の余命が幾許もない。この西上作戦は必ず失敗する。織田領にだけは深く侵攻されないようにオレが居ます。とだけ伝えたよ」

 「大殿は予言の類は信じない方ではありませんでしたか?」

 「最初は鼻で笑ってはいたけど、金輪際未来知識は封印します。今回だけは信じて下さい。とオレが言ったんだよ。長篠城を後にして浜松に到着してすぐの事だよ。それの返事が『相分かった。くれぐれも城から出るな。こちらが片づけばワシ自らそちらへ向かう』と心強い返事も貰ったしね」

 「え?その病死を信じたとして、何故大殿はこちらへ参られるのですか?」

 「多分だけど、病気に侵されているけど信玄を侮っていないんだと思う。層の厚い武田軍だからね。それに・・・病気で亡くすより信長さんの手で屠りたいってのもあると思う。武田軍というブランドは強いからね」

 「ぶらんど?」

 「要は、いくら病気だろうが病で死にかけだろうが武田信玄が生きてる間に織田軍が討ったとすれば、まだオレは会った事はないけどこの織田包囲網を作った元凶の足利義昭はどう思うかな?本願寺は?浅井は?朝倉は?二度と織田家を遮る事ができなくなる。なんて言っても武田を破った織田だから!ってね」

 「確かに名実共に日の本一と言われるようになるかと・・・ですがそんな危険を侵さなくともーー」

 「信長様はそんな人でしょう?少々危険だろうが実の方が大きければ取る人でしょう。最近それがオレも分かった気はします。まぁオレも何かしら手柄を取りますよ。あっ、後ですね・・・あやめさんに渡したい物があるのです!大きさが合うかどうか・・・」

 オレは意を決して、有沙さんにアドバイスをもらい、購入した指輪をあやめさんに渡した。

 「まぁ!?これは!?」

 「指輪です!未来では主に大切な人に渡したり、結婚する人に渡すようなものです!」

 「結婚・・・結婚・・・ウワァァァァァン!!」

 オレが指輪を渡すとあやめさんが泣き出した。

 いやいや泣くほど嬉しかったなら良かったけどこれ明らかに嬉しさの涙じゃないよね!?なんで!?


 少し泣き腫らした後、理由を教えてくれた。少し前のオレが彼女と紹介した事や妻と言ってくれない事を深く考えないようにしていたとかだ。

 オレはあやめさんが冷たくなった意味をようやく理解した。

 「いや、ごめん!あれは違うんだよ!未来では結婚と言えばかなりややこしいんだよ!役所に手続きしないといけなかったりするんだよ!」

 必死であやめさんに説明したわけだが、一頻り泣いた後は今度は凄く良い笑顔で指輪を眺めている。

 「武蔵様!私の矮小な事は気にしません!この金剛石の指輪がそれを物語っております!これは私の家宝にし、死んでも大事にします!!」

 オレは絶句した・・・。こんな事ならなにかのブランドの指輪にすれば良かったと・・・。その金剛石と間違えているもの・・・ジルコニアなんだよ・・・金剛石・・・ダイヤモンドの偽物とは言えない・・・。
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