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武蔵の恩恵

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 「痛い痛い!痛いっす!すいません!許してください!!」

 上から思いっきり腕を捻りあげられ苦悶の表情になっている。

 「一益!やめい!まだ素性は分からぬが間者ではない!」

 「で、ですが・・・」

 「やめろと言っている」

 「はっ。すいません」

 いや少しは手加減してくれよ!?明らかに1番ヒョロガリなのはオレだろ!?明智さんや木下さんもガリガリではあるがオレよりは太いだろ!?

 「うむ。口に入れると少し暴れるし、少々癖があるが飲みやすいな!ウップ・・・これは失礼・・・」

 「確かに京でもこのような酒は見た事ありませんな。武蔵?びーると申したな?どうやって作るのだ?」

 うん。誰一人としてオレを心配してくれないのね。ガラスハートのオレはショックなんだけど!?

 「すいません。作り方は分かりません・・・。帰って調べれば分かるかもしれませんが・・・」

 「おい!酒の話ばかりでなくこのかっぷなんとかって食い方を教えろ!」

 「すいません!お湯をいただけますか!?」

 「遠藤ッ!!湯じゃ!湯を持って参れ!!」

 「は、はい!!」

 さっきこの人が持って来た湯呑み・・・一つでもいいから貰って質屋に出せば国宝級になるような気がするけど・・・言えない。

 もしそんな事言おうもんなら今度こそ間違いなく滝川一益さんだろうと思う人に捻り潰されそうだ。

 「お待たせ致しました!湯をお持ち致しました!」

 「すいません。ありがとうございます。ここからはオレがします」

 「ほう?さすが商いしているだけあるな?教養はありそうじゃ。作りながらで良い。答えよ。未来とはどのような場所なのだ?」

 「はい。飛行機や車、電気やガスなど便利なインフラ・・・えっと便利な道具が色々開発され日本に関しては70年程戦争もなく平和に暮らしています」

 「待て待て!ゆっくり言え!まずひこおきとはなんだ!?」

 「飛行機です。空飛ぶ鉄?って言えば早いかな?スマホに飛行機の写真あったかな?少しお待ちください」

 オレはスマホを取り出し画像フォルダーを見る。もちろん電波は圏外だ。そしていつ撮影したかすら覚えていない一枚の飛行機の写真を見せた。

 「なななんじゃそれは!?そもそもその箱はなんなのだ!?」

 「誠、そんな物見た事がない!」

 「京でもそのような箱、聞いた事ございませぬ!」

 「各々方は知らぬであろうな?これはすまーとほんと申す物だそうだ!」

 「え!?何故、池田殿は知っておいでなのか!?」

 「それはワシの部屋に此奴が現れたからである!皆より先に此奴を知りお館様に伝えたのである!この池田恒興がな?ははは!」

 黒い・・・黒すぎる・・・。池田恒興・・・あんたは負けず嫌いだろ?オレの事嫌いと今しがた言ったばかりだろ!?なのに何故オレの事をそんなに勝ち誇るのか!?しかもこれ程のドヤ顔をオレは見た事がない。

 「すいません。その前にカップ焼きそばが出来上がりました。湯を捨てたいのですがどこに捨てれば良いでーー」

 「合田様!こちらの器にお捨てください!」

 被せるように蘭丸君が大きい鉢を持って来た。こういう風に先回りするのが小姓なんだろう。さすが蘭丸君だ。このメンバーの中で唯一オレを虫ケラと見ず普通に喋ってくれる人だ。まぁ10歳にもなってなさそうな子だけど。

 「さすが蘭丸だ!愛い奴め!遠藤ッ!!励め!」

 まぁ飛び火するのは遠藤さんだな。可哀想に。

 それから付属のソースをかけて混ぜて信長さんの前に置く。まず間違いなく未知の味だろう。

 「なななんですか!?先に飯を食い腹は満たされておるのに唾が出ますぞ!?」

 「お館様・・・ここは乳兄弟のワシが毒味役を」

 「いやいや池田殿は何を言うか!?乳兄弟の池田殿にもしもの事があればいかまい?ここは身体も腹も丈夫なこの柴田権六にお任せあれ」

 「なっ!?権六!抜け駆けをすな!毒味役はこの丹羽五郎左こそ相応しい!」

 「ほほほ。皆々様方は血相変えてどうしましたか?私が・・・毒味役をし今後の、お館様のお食事に出せるよう研究致しましょう」

 かつて・・・かつて、カップ焼きそばを食べるのにここまで殺伐とした事があっただろうか。答えは否!あるわけがない!ただの100円ちょっとのカップ焼きそばだぞ!?給料入れば持って来てあげるよ!?

 「えっと・・・明後日給料日なのでみんなに持ってきますよ?」

 「「「「誠かッッ!?!?」」」」

 「うをっ!?ビックリした!はい。お持ちしますよ」

 
 「馬鹿共がッッ!!静まれ!!食いにくいだろうが!!ワシは食なんぞ食べれれば良いと思うておったが初めて食が楽しみに思えてきた!此奴が持って来た物は二つ食したが腹が満たされるだけではなく満足度合いが段違いである!」

 「お館様!?それ程まででしょうか!?あっしは皆々様方と違い農民上がりですから口にする事は叶いません。ですが・・・ですが!!どうか少しでも憐れみがございますればこの木下藤吉郎にお恵みを・・・」

 これが未来の秀吉さんか。情に訴えてもらう作戦か。機転が効くとはまさにこの事か!?

 「よかろう!残り一つはサルに渡そう!」

 「ぬお!?お館様!それはあんまりにございます!!」

 「黙れ!貴様等も欲しいならば武蔵に頼めばよかろう!だが・・・此奴はワシが見つけた者じゃ。ワシが見つけワシの相伴衆じゃ。ワシの配下に無償の奉仕をさせるわけは・・・ないよな?」

 信長さんが最後の一言を言ったが空気が変わったのが分かる。さっきまで喉元に刀を突きつけられていたがそんな事の比じゃないくらいの威圧だ。

 オレはこんな雰囲気が嫌いだ。みんな仲良くとこの時代では到底無理だろうとは分かってはいるがこの空気はだめだ!

 「えっとですね?こんな物くらいならばいつでもは無理ですがお金がある時なら持って来ますよ?なので気にしないでほしいです」

 パチンッ

 「シャキッとせんか!なんじゃそのなよなよした女子(おなご)のような言い方は!?男子(おのこ)なら前見て相手を見て喋らんか!!それでは敵に舐められてしまうだろうが!貴様は昨日から織田の配下じゃ!」

 相伴衆が何かは分からないがオレは織田軍らしい。まったくもった望んでないんだけど!?なんならホームセンターのバイトなんだけど!?

 それから静かではあるが残りのビールをオレがみんなに均等にお酌した。

 柴田さんや丹羽さん前田さんなんかは一口目から美味い美味いと飲んでいたが他の人は炭酸が苦手のようだ。

 オレも飲め!と言われたがお母さんにあまりお酒は飲むなと言われているから遠慮したかったがそんな断れるはずもなく、この時代の米臭い濁り酒?のようなドブロクを飲まされた。まったくもって美味しくない。コーラの方がオレは好きだ。

 ただ一つ不思議だったのは信長さんはマジの下戸らしくみんなに酒は進められるが無理強いまではされない事だ。

 そして恐らくオレの恩恵に近付こうとするのが見え見えなのは明智さんだ。続いて木下さんは下心は隠してるが明らかに低身低頭だ。

 元陰キャのオレには分かる。意味もなくオレに近付く奴が居なかったからだ。悲しいオレの特技でもある。
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